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一章
仕掛ける
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「それじゃあ行こうか」
「はい!」
夜明けと共に、いよいよダンジョンに突入だ。
アイアンランク以上の冒険者がいるパーティは下層に向かい、ブロンズランクのみのパーティは比較的難難易度が低い上層に向かう事になっている。
まあ、副ギルド長がそういう指示を出したとしても、暗がりの洞窟の中で何が起きているかなんて一々把握できる訳じゃないし、指示に従わないパーティもいるだろうね。元々冒険者になるような人達は『従う事』を嫌う人間も多いし。
「やはり、こちらに来ましたね」
「随分嬉しそうだね、ノワール」
「それはもう!」
言うまでもなく、デライラ達のパーティの事だ。
この薄暗い洞窟の中は、闇の大精霊ノワールにとって全てがテリトリーと言っていい。影を踏んだだけで存在を認識出来るというのだからとんだチートだ。ただし、それはノワールが固体として認識している者に限るらしいけどね。
顔も名前も知らない人がテリトリーに足を踏み入れたところで、『誰かが来た』くらいの事しか分からない。それでも相手が魔物だった場合はとんでもないアドバンテージになるんだけれども。
「上層に行ったらどうしようかと思いましたが、これで復讐する事もデライラを守る事もできます」
ノワールがそうやってにこやかに笑う。片手間にゴブリンを鱠斬りにしながらの絵面は中々シュールだよ?
まだ浅い階層では活動しているパーティも多い。敵もクレイズラビットやクレイズマウス、クレイズドッグなど、野生の獣が魔物化したものが殆どで、ブロンズランカーなら十分対応可能なものばかりだ。
僕達はそんな雑魚魔物には目もくれず、下層へと向かう。昨夜のうちにノワールが潜入していたのでマッピングはばっちりだ。
とは言っても、魔物が人間を襲うのは本能的なものだし、ダンジョン内というのはとにかく魔物とのエンカウント率が高いんだよね。こっちから探してまで狩る事はしないけど、向かって来るなら排除しなくちゃいけない。しかもデライラ達の視線もあるから闇魔法もおいそれとは使えない。
地味に面倒だ。短槍をメインに戦おうにも、身体強化で無双しちゃうと連中に警戒させちゃうしね。
「そろそろオークやクレイズベアなどの大型の魔物が出てくるエリアです」
「ああ、了解だよ」
地下三階層。
厳密に言えば階段などで階層が明確に分かれている訳じゃないんだよね。徐々に下っていく通路を進んでいくと、鉱夫達の前線基地とでもいうか、集団生活をしていたであろう広いエリアに出る。そこから四方八方に横穴を掘って採掘していたみたい。
「ご主人様、オークが三体、二時の穴から出てきます」
おあつらえ向きだね。ここらで仕掛けようか。
後方からデライラのパーティが追って来ているのを確認し、オークが出てくるであろう穴の中へ進んで行く。デライラ達にしてみれば僕達が露払いをしている訳で、ここまで戦闘らしい戦闘はしていない筈だ。
ただし、僕達が倒した魔物の素材はこっそり影の中に収納しているので、連中からしたらやけに魔物がすくないな、って感じかも知れないね。下層に進むって事で緊張しまっくていたポーターの少年二人も、だいぶ緊張感が薄れてきているように感じた。
でも、ここからはちょっと怖い思いをしてもらう事になるんだけどね。
「ノワール、『影泳ぎ』でオーク共の後方に出る。デライラ達にこいつらをけしかけよう」
「承知しました」
影泳ぎとは、闇魔法の一つ。影に潜って移動する、文字通り闇の中を泳ぐ魔法だ。僕達は足下の影に音も無く沈み込んでいき、オークの後方へと泳いだ。
直接の攻撃力は持たないけど、緊急回避に使ったり、敵の死角にいきなり現れたりと、とにかく便利な魔法なんだ。
ただ、当たり前だけど、影が繋がっているエリアにしか移動できない。真昼間で太陽が真上にいたら影なんて殆どないでしょ? そういう時にはあまり役には立たないかなぁ。
だけどまあ、ここは暗い炭鉱跡。いわば全域が『影』な訳で。僕達はオークに察知される事なく奴らの後方に出た。
さて、これでオーク達とデライラのパーティとの間には何もない。間もなく遭遇戦になるだろうね。
「うわっ!?」
「なんだ!? 奴らはどうした!」
「知るか! とにかく応戦だ!」
ほらね?
僕達が先行しているからってだけの理由で、索敵を疎かにするからそうなるんだよ。
「いやあああ!」
デライラが気合十分で斬り込んでいった。
うん、やっぱり僕と一緒の時のようなキレがない。動きは遅いし威力も無さそうな斬撃を繰り出す。オークがそれを棍棒で受けながら、デライラの攻撃が途切れたところで面倒くさそうに大振りした。
「ぐうっ!」
デライラはオークの攻撃を辛うじて剣で受け流すも、パワーを殺しきれずに吹き飛ばされてしまう。
残り二体のオークは、それぞれ斧使いと双剣使いへと向かった。弓使いが牽制の矢を射るも、どっちつかずの援護射撃などそれほどの効果が出る訳もなく。ポーターの少年二人を自分の前に立たせて弓弦を引いていた。
「完全に分断されちゃったね。個人の強さがオーク以上ならそれでもいいんだけど……」
「そうですね。ですがご主人様、デライラがそろそろ危険かと」
さっきのオークの一撃で足に来ているのか。デライラは生まれたての子鹿のように足をプルプルさせて立っている。
「よし、いくよ、ノワール」
「はい!」
僕達は再び影の中へと潜った後、オークの真後ろへと躍り出た。
「はい!」
夜明けと共に、いよいよダンジョンに突入だ。
アイアンランク以上の冒険者がいるパーティは下層に向かい、ブロンズランクのみのパーティは比較的難難易度が低い上層に向かう事になっている。
まあ、副ギルド長がそういう指示を出したとしても、暗がりの洞窟の中で何が起きているかなんて一々把握できる訳じゃないし、指示に従わないパーティもいるだろうね。元々冒険者になるような人達は『従う事』を嫌う人間も多いし。
「やはり、こちらに来ましたね」
「随分嬉しそうだね、ノワール」
「それはもう!」
言うまでもなく、デライラ達のパーティの事だ。
この薄暗い洞窟の中は、闇の大精霊ノワールにとって全てがテリトリーと言っていい。影を踏んだだけで存在を認識出来るというのだからとんだチートだ。ただし、それはノワールが固体として認識している者に限るらしいけどね。
顔も名前も知らない人がテリトリーに足を踏み入れたところで、『誰かが来た』くらいの事しか分からない。それでも相手が魔物だった場合はとんでもないアドバンテージになるんだけれども。
「上層に行ったらどうしようかと思いましたが、これで復讐する事もデライラを守る事もできます」
ノワールがそうやってにこやかに笑う。片手間にゴブリンを鱠斬りにしながらの絵面は中々シュールだよ?
まだ浅い階層では活動しているパーティも多い。敵もクレイズラビットやクレイズマウス、クレイズドッグなど、野生の獣が魔物化したものが殆どで、ブロンズランカーなら十分対応可能なものばかりだ。
僕達はそんな雑魚魔物には目もくれず、下層へと向かう。昨夜のうちにノワールが潜入していたのでマッピングはばっちりだ。
とは言っても、魔物が人間を襲うのは本能的なものだし、ダンジョン内というのはとにかく魔物とのエンカウント率が高いんだよね。こっちから探してまで狩る事はしないけど、向かって来るなら排除しなくちゃいけない。しかもデライラ達の視線もあるから闇魔法もおいそれとは使えない。
地味に面倒だ。短槍をメインに戦おうにも、身体強化で無双しちゃうと連中に警戒させちゃうしね。
「そろそろオークやクレイズベアなどの大型の魔物が出てくるエリアです」
「ああ、了解だよ」
地下三階層。
厳密に言えば階段などで階層が明確に分かれている訳じゃないんだよね。徐々に下っていく通路を進んでいくと、鉱夫達の前線基地とでもいうか、集団生活をしていたであろう広いエリアに出る。そこから四方八方に横穴を掘って採掘していたみたい。
「ご主人様、オークが三体、二時の穴から出てきます」
おあつらえ向きだね。ここらで仕掛けようか。
後方からデライラのパーティが追って来ているのを確認し、オークが出てくるであろう穴の中へ進んで行く。デライラ達にしてみれば僕達が露払いをしている訳で、ここまで戦闘らしい戦闘はしていない筈だ。
ただし、僕達が倒した魔物の素材はこっそり影の中に収納しているので、連中からしたらやけに魔物がすくないな、って感じかも知れないね。下層に進むって事で緊張しまっくていたポーターの少年二人も、だいぶ緊張感が薄れてきているように感じた。
でも、ここからはちょっと怖い思いをしてもらう事になるんだけどね。
「ノワール、『影泳ぎ』でオーク共の後方に出る。デライラ達にこいつらをけしかけよう」
「承知しました」
影泳ぎとは、闇魔法の一つ。影に潜って移動する、文字通り闇の中を泳ぐ魔法だ。僕達は足下の影に音も無く沈み込んでいき、オークの後方へと泳いだ。
直接の攻撃力は持たないけど、緊急回避に使ったり、敵の死角にいきなり現れたりと、とにかく便利な魔法なんだ。
ただ、当たり前だけど、影が繋がっているエリアにしか移動できない。真昼間で太陽が真上にいたら影なんて殆どないでしょ? そういう時にはあまり役には立たないかなぁ。
だけどまあ、ここは暗い炭鉱跡。いわば全域が『影』な訳で。僕達はオークに察知される事なく奴らの後方に出た。
さて、これでオーク達とデライラのパーティとの間には何もない。間もなく遭遇戦になるだろうね。
「うわっ!?」
「なんだ!? 奴らはどうした!」
「知るか! とにかく応戦だ!」
ほらね?
僕達が先行しているからってだけの理由で、索敵を疎かにするからそうなるんだよ。
「いやあああ!」
デライラが気合十分で斬り込んでいった。
うん、やっぱり僕と一緒の時のようなキレがない。動きは遅いし威力も無さそうな斬撃を繰り出す。オークがそれを棍棒で受けながら、デライラの攻撃が途切れたところで面倒くさそうに大振りした。
「ぐうっ!」
デライラはオークの攻撃を辛うじて剣で受け流すも、パワーを殺しきれずに吹き飛ばされてしまう。
残り二体のオークは、それぞれ斧使いと双剣使いへと向かった。弓使いが牽制の矢を射るも、どっちつかずの援護射撃などそれほどの効果が出る訳もなく。ポーターの少年二人を自分の前に立たせて弓弦を引いていた。
「完全に分断されちゃったね。個人の強さがオーク以上ならそれでもいいんだけど……」
「そうですね。ですがご主人様、デライラがそろそろ危険かと」
さっきのオークの一撃で足に来ているのか。デライラは生まれたての子鹿のように足をプルプルさせて立っている。
「よし、いくよ、ノワール」
「はい!」
僕達は再び影の中へと潜った後、オークの真後ろへと躍り出た。
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