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一章
一大イベント
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あれから僕達は、なるべく人目に付かないような場所を選びつつ、闇魔法の訓練、魔物の討伐を進めていた。
デライラ達のパーティとも顔を合わせる事はあったけど、嫌な視線を向けられるだけで直接絡んで来る事はなかった。ただ、デライラだけは何か話したそうな表情だったけど、僕の方には話す事はないからね。
「ショーンさん、これが今回の報酬と素材の買取金額になります」
「はい。ありがとうございます」
「最近は安定した活躍ですね。ノワールさんの昇格ももうすぐですよ」
ギルドの窓口で換金の手続きを終えたと同時に、受付嬢さんからそんな事を言われた。
ブロンズランクの僕がアイアンランクに上がるには、もっと強い魔物を倒すとかの実績が欲しいけど、ウッドランクのノワールなら比較的すぐに昇級出来るだろうと思っていた。
普通は採取依頼などを地道に熟してランクを上げないといけないのが、ブロンズの僕とパーティを組んでいるおかげで討伐依頼も受ける事が出来る。
「ケッ! 残滓のヤツ、またいい相手を見つけたモンだぜ」
「本人は出来損ないのウィザードなのによぉ」
僕のウィザードとしての本当の力は公にする事が出来ない。だから誰の目にもつかない場所で戦っている。つまり、僕の力は誰も知らないのだから、周囲の僕に対する評価は変わらない。ノワールが強いのであって、僕は彼女のおまけって認識のままだ。
そんな聞こえるように言われた陰口を聞いたノワールが静かに殺気を漏らすけど、僕はノワールの頭にぽんと手を乗せ、制した。
「言わせておけばいいよ。それに、僕は『残滓』のままでいた方が色々とやりやすいだろ?」
そう静かに耳打ちすると、ノワールも殺気を収めてニッコリと笑った。
「そうですね。では、明日の依頼を探してきましょうか」
「ああ」
そうして僕とノワールは依頼が貼り出してある掲示板へと向かった。そこには、一際目を引くカラフルな文字で書かれた依頼表がある。
……そうか、もうそんな時期なんだな。
「ご主人様、これは?」
「ああ。共同クエストの募集だね。この街では一年に二回、近くのダンジョンに出向いて魔物の間引きをするんだ」
「ああ、そういう事なんですね」
その昔、ここから二日程の場所にある廃坑がダンジョン化してしまった。そこから魔物が溢れ出て来ないように定期的に大規模な討伐をする。この貼り紙はそれの募集って訳だ。
冒険者にとっては半年に一度のお祭りみたいなもので、ギルドからの褒賞に加えて、討伐した魔物の素材は狩った者に所有権がある。稼ぎ時ってやつだね。なので、毎回大勢の冒険者が参加するし、この街の治安維持部隊も参加する。
「ご主人様も参加されるのですか?」
「そうだね。半年前はまだウッドランクで参加出来なかったから、今回は参加しようかな」
「ですが、私はまだウッドランクです……」
そう言ってノワールが申し訳なさそうな顔をする。随分と人間らしい表情をするようになったな。人型になった当初はあんまり表情に変化が無かったんだけど。
「クエストまであと一か月ある。それまでにノワールのランクを上げてしまおう。なに、君の実力ならすぐだよ」
「はい!」
ノワールが笑顔で頷く。うん、彼女が闇の大精霊だなんて、とても信じられないな。
そして僕は別の討伐依頼の紙を剥がして、カウンターに持っていった。同時に、視界の端ではデライラの仲間達がこっちを見てほくそ笑んでいるのが見える。
ああ、分かってるよ。共同クエストで仕掛けてくるんだろ?
だから僕は敢えて聞こえるように共同クエストを受けるって言ったんだ。お前達を嵌めるのは僕のほうさ。
そしてそれから三週間、僕達は積極的に魔物を狩り続けた。影にしまい込んでいた素材も全てギルドに売り払った。
「ショーンさん、おめでとうございます! アイアンランクに昇格です! ノワールさんはブロンズランクですね!」
受付嬢のパトラさんが笑顔で祝福してくれた。このところの僕達の活動で、様々な疑惑は払拭されたらしい。何より、僕といる時のノワールが本当にいい表情をする。だから、僕がノワールを強制的に従えていると考える人は殆どいなくなった。
でも、嫉妬や羨望、やっかみといった感情はまた別のもので、他の冒険者の僕に対する風当たりは強い。
それを、実力で黙らせてやる。そのために。
「パトラさん。僕達のパーティも共同クエストに参加します」
「はい。ダンジョン調査ですね。受け付けました」
参加者の台帳か何かだろうか? 名簿に僕達二人の名前が書き込まれていく。
「今回は参加者が少な目なので助かります。あ、でも……」
そこでパトラさんが顔を寄せて小声で告げてきた。
「その、ショーンさんは色々と恨まれているようなので……ほら、ノワールさんって可愛らしいですし」
「あはは……恨みを買うような憶えはないんですけどね。気を付けておきます」
僕は苦笑しながらそう答えた。誰にも迷惑はかけてないのに、恨まれるとか意味が分からないよ。
「はい、十分に気を付けて下さいね? では、クエストは一週間後です」
「はい。それでは」
ノワール。あと一週間で僕達の復讐が果たせるよ。
僕が彼女に笑顔を向けると、普段は見せない妖艶な笑みを浮かべてこちらを見るノワールと目が合った。
デライラ達のパーティとも顔を合わせる事はあったけど、嫌な視線を向けられるだけで直接絡んで来る事はなかった。ただ、デライラだけは何か話したそうな表情だったけど、僕の方には話す事はないからね。
「ショーンさん、これが今回の報酬と素材の買取金額になります」
「はい。ありがとうございます」
「最近は安定した活躍ですね。ノワールさんの昇格ももうすぐですよ」
ギルドの窓口で換金の手続きを終えたと同時に、受付嬢さんからそんな事を言われた。
ブロンズランクの僕がアイアンランクに上がるには、もっと強い魔物を倒すとかの実績が欲しいけど、ウッドランクのノワールなら比較的すぐに昇級出来るだろうと思っていた。
普通は採取依頼などを地道に熟してランクを上げないといけないのが、ブロンズの僕とパーティを組んでいるおかげで討伐依頼も受ける事が出来る。
「ケッ! 残滓のヤツ、またいい相手を見つけたモンだぜ」
「本人は出来損ないのウィザードなのによぉ」
僕のウィザードとしての本当の力は公にする事が出来ない。だから誰の目にもつかない場所で戦っている。つまり、僕の力は誰も知らないのだから、周囲の僕に対する評価は変わらない。ノワールが強いのであって、僕は彼女のおまけって認識のままだ。
そんな聞こえるように言われた陰口を聞いたノワールが静かに殺気を漏らすけど、僕はノワールの頭にぽんと手を乗せ、制した。
「言わせておけばいいよ。それに、僕は『残滓』のままでいた方が色々とやりやすいだろ?」
そう静かに耳打ちすると、ノワールも殺気を収めてニッコリと笑った。
「そうですね。では、明日の依頼を探してきましょうか」
「ああ」
そうして僕とノワールは依頼が貼り出してある掲示板へと向かった。そこには、一際目を引くカラフルな文字で書かれた依頼表がある。
……そうか、もうそんな時期なんだな。
「ご主人様、これは?」
「ああ。共同クエストの募集だね。この街では一年に二回、近くのダンジョンに出向いて魔物の間引きをするんだ」
「ああ、そういう事なんですね」
その昔、ここから二日程の場所にある廃坑がダンジョン化してしまった。そこから魔物が溢れ出て来ないように定期的に大規模な討伐をする。この貼り紙はそれの募集って訳だ。
冒険者にとっては半年に一度のお祭りみたいなもので、ギルドからの褒賞に加えて、討伐した魔物の素材は狩った者に所有権がある。稼ぎ時ってやつだね。なので、毎回大勢の冒険者が参加するし、この街の治安維持部隊も参加する。
「ご主人様も参加されるのですか?」
「そうだね。半年前はまだウッドランクで参加出来なかったから、今回は参加しようかな」
「ですが、私はまだウッドランクです……」
そう言ってノワールが申し訳なさそうな顔をする。随分と人間らしい表情をするようになったな。人型になった当初はあんまり表情に変化が無かったんだけど。
「クエストまであと一か月ある。それまでにノワールのランクを上げてしまおう。なに、君の実力ならすぐだよ」
「はい!」
ノワールが笑顔で頷く。うん、彼女が闇の大精霊だなんて、とても信じられないな。
そして僕は別の討伐依頼の紙を剥がして、カウンターに持っていった。同時に、視界の端ではデライラの仲間達がこっちを見てほくそ笑んでいるのが見える。
ああ、分かってるよ。共同クエストで仕掛けてくるんだろ?
だから僕は敢えて聞こえるように共同クエストを受けるって言ったんだ。お前達を嵌めるのは僕のほうさ。
そしてそれから三週間、僕達は積極的に魔物を狩り続けた。影にしまい込んでいた素材も全てギルドに売り払った。
「ショーンさん、おめでとうございます! アイアンランクに昇格です! ノワールさんはブロンズランクですね!」
受付嬢のパトラさんが笑顔で祝福してくれた。このところの僕達の活動で、様々な疑惑は払拭されたらしい。何より、僕といる時のノワールが本当にいい表情をする。だから、僕がノワールを強制的に従えていると考える人は殆どいなくなった。
でも、嫉妬や羨望、やっかみといった感情はまた別のもので、他の冒険者の僕に対する風当たりは強い。
それを、実力で黙らせてやる。そのために。
「パトラさん。僕達のパーティも共同クエストに参加します」
「はい。ダンジョン調査ですね。受け付けました」
参加者の台帳か何かだろうか? 名簿に僕達二人の名前が書き込まれていく。
「今回は参加者が少な目なので助かります。あ、でも……」
そこでパトラさんが顔を寄せて小声で告げてきた。
「その、ショーンさんは色々と恨まれているようなので……ほら、ノワールさんって可愛らしいですし」
「あはは……恨みを買うような憶えはないんですけどね。気を付けておきます」
僕は苦笑しながらそう答えた。誰にも迷惑はかけてないのに、恨まれるとか意味が分からないよ。
「はい、十分に気を付けて下さいね? では、クエストは一週間後です」
「はい。それでは」
ノワール。あと一週間で僕達の復讐が果たせるよ。
僕が彼女に笑顔を向けると、普段は見せない妖艶な笑みを浮かべてこちらを見るノワールと目が合った。
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