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一章

なんて使えるやつ

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 僕の中に入り込んだノワールの話によれば、僕の魔力量の約八十パーセントは闇属性と相性がよいもので、他の四大属性は残りの二十パーセントに過ぎないそうだ。
それでゴールドランク相当の魔力値なのだから、やっぱりノワールの言う通り、僕は規格外なのかなぁ。
 
「でも僕は魔法が……」
(私がいるのをお忘れですか? ご主人様の魔力量があれば、闇魔法は殆ど使う事が出来ますし、他の四大属性の魔法も、その辺にいる精霊達になら強制的に命令を聞かせる事も出来ます)

 へえ~……
 でも、その闇魔法ってのが分からない。そもそもこの世界には存在しない事になっている属性だし、何が出来るのかさっぱり分からない。
 その事をノワールに告げると、そこから彼女の闇魔法講座が始まってしまった。未知の知識を吸収するのはこの上なく有意義で楽しい。僕は時間が経つのも忘れ、ノワールの話す内容に没頭していった。
 この時ばかりはノワールの仇の事すら忘れてしまう程に。

△▼△

 それから数日の間、僕はノワールと共に森で過ごしていた。もちろん、闇魔法の習熟の為だ。魔物や襲ってくる獣を片っ端から片付け、水や食料は自給自足。
 ノワールのお陰で、僕の為に魔法を発動させる事を嫌がる精霊達もいう事を聞いてくれる。渋々って感じだけどね。
 そうなれば、水も火も問題ないし、ねぐらも土魔法で作る事が出来る。夜の警戒だって睡眠を必要としないノワールがしてくれた。というか、流石は闇属性の大精霊。夜の方がテンションが高い。
 魔物を見つけては僕の身体から抜け出し、狩ってしまう程だった。

「ご主人様も、だいぶ闇魔法を使いこなせるようになりましたね」

 ノワールは今、人間の少女の姿になっている。黒髪は肩までの長さだが、ウサギだった時の姿を彷彿させるタレ耳を模したカチューシャを付けていた。肌は褐色で瞳は赤みがかった黒。ノワールなりに、黒ウサギを連想させる姿で僕を安心させたかったのかもしれない。
 彼女がなぜ人型になっているかというと、僕が魔法を行使するにあたって、やはり前衛の役割をする存在がいた方が安全だったからだ。つまり、ノワールが前衛を務め、僕が魔法を放つ時間を稼いでくれる。
 当然の事だけど、彼女の為の武器や防具は無い。その事を彼女に告げたが、『問題ありません』と言って、嬉々として敵を蹴り倒していた。流石はウサギだ。それでも一応、僕の護身用のナイフを持たせている。

「ご主人様と一緒だと、身体が軽いというか、強いというか。やはり強力なバフが効いているようです」

 そんなノワールのフォローもあって、僕も闇魔法のみならず、四大属性の魔法もそれなりに使えるようになった。これなら闇魔法を人前で使わなくても、一般的なウィザード並の働きは出来そうだ。
 闇魔法はハッキリ言って人前で使うのはヤバい。あんな力が明るみになれば、多分国家権力が動くよ。

「ところで、随分と魔物や獣を狩ったおかげで素材や肉がたくさんあるんだけど、これ、どうしよう? とてもじゃないけど持ち切れないよね?」

 僕は僕で手に入れた力を使うのが嬉しくて、ノワールも解放されてテンションが爆上がり。おかげでこの辺りの敵性生物は殆ど狩り尽くしてしまった。結果として、膨大な量の素材や肉がある。
 ギルドや街の市場に流せばかなりの金額になるんだけど、残念だけどこれを運ぶ手段がない。
 しかしノワールは、神秘的な微笑みを浮かべながら言った。

「問題ありません。全て持ち帰りましょう」
「……え?」
「火の精霊は火を司り、水の精霊は水を司る。では闇は?」

 突然のなぞかけだ。闇が司るもの?
 暗闇、暗黒、影……?

「そうですね。概ね正解です。ですので、こうすればいいのです」

 彼女はそう言って、自らの影を素材を集めて置いてある場所へ伸ばしていった。すると、素材が全てその影に飲み込まれていく。

「――!! これは?」
「こうすればいくらでも持ち運べますね。あとは好きな時に好きな分だけ取り出せばよいのです。少しずつギルドに売却していけばよいのでは?」

 まさか影の中に収納できちゃうなんて……闇魔法、有用すぎるね……
 僕が精霊や魔法の話をノワールから教えてもらったように、僕も彼女に今の世界の話を教えてあげた。ある程度の知識は共有できたので、彼女からこうした提案をしてくる事もある。
 ギルドや素材の流通とか、社会で人間がどんな営みをしているか、それを理解してもらわないと街に行くのは色々とまずいだろうしね。

「なるほど。それでいこうか。さて、ちょっと面倒な事になりそうだけど、ギルドに行こうか」
「はい!」

 そうだ。僕にはやる事があったんだ。
 僕はとある決意を胸に、ノワールと共に街へと戻った。
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