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第四章
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しおりを挟む久賀は泣きじゃくる雪をそっと下ろすと、先に帰るように促した。そう言うと泣き顔の雪が今以上に泣きそうになってしまう。
「一緒にっ」
「俺は二人と話してから行くから」
「待ってる……!」
どうして、先に帰ってって言うの?
ぐずぐず泣く雪は亮を見る。
亮から「居させてあげてよ」と言って欲しかったのだ。味方になってくれると思ったのだが、首を横に振られてしまった。
久賀の袖を握って嫌だという雪を見て久賀は雪の名前を呼び、両肩を掴んで視線を合わせた。
「雪だけ先に帰るんだ。慶ちゃんは先は長くないよ」
大きな目がこれ以上かという程に見開いた。
「刃に毒が塗られていたんだ。それに傷も深かったから。看取ってあげな」
「一番最初の友達、だった……」
「そうだね。だから傍に居てあげな。此処から近い呉服屋んとこに預けてあるから」
「か、薫のお家……?」
「そうだよ」
「俺も急ぐから」と目を細めて悲痛に言うと雪は袖で涙を拭って、「待ってます」と言い、蹴破られた場所から出て行った。
後ろ髪惹かれる思いでその背中が消えるのを待ち久賀はクルリと前を向くと、少女に見せていたような先程の表情が嘘のように口元を歪め酷く醜く——美しい笑みを浮かべていた。
その笑みにゾクリと身震いをした寛太は思わず後退るが、優花が未だ亮の腕に拘束されているのを解放するようにと二人に申した。すると二人の男は顔を見合わせるだけでどちらが先だったか吹き出した。
「この状況で信じるなんて~」とハハッと笑う。亮に口元を抑えられた優花は——ぐったりとしているように見えた。
「お嬢様を離せ!」と飛び掛かる寛太を亮は優花を拘束しながらも上手く躱すと、脚で寛太の脚を引っかけて転ばせた。すぐさま立ち上がろうとすると久賀から背中を足で押し付けられて畳に胸を強打した。
「お嬢様を助けてやるよ、とは言ったが解放するとは言ってないもんな」と久賀はバタバタと藻掻く寛太の両腕を背中に回して片手で拘束するともう片方の手で顔を畳に押し付けた。
「汚い手を雪から離せば、全ての事を俺がなかった事にしてやる、って言ったのにそれを聞かなかったのはお前だろう? あの時は本当に助けてやるつもりだったんだよ」
「ぐっ、ぐぐっ」
寛太は奥歯を噛み締めた。
「俺の雪を泣かせて、俺の雪を傷つけたのは万死に値する。でもそんなお前たちには俺からのお情けで今回は死なせないでおいてやろう」
「何がぁああっ! 泣かせて傷つけただっ……! お嬢様だって、だって!」
「だからと言って、薬漬けにしちゃ駄目だよな?」
「俺なんて可愛いもんだろ?」と久賀は訊ねると「可愛いかな……? どちらかというと今回のお情けは優しくて痺れる程かっこいい?」「だよなぁ。俺も成長したよ」と男二人の笑い声がやけに響いた。
「はなせぇっ……!」と藻掻いていると突然久賀から髪の毛を掴まれて顔を上げられた。
叫ぶ口に突然粉薬らしきものを久賀から大量に放り込まれ、亮からは頭上から急須に入った水を口目掛けて放たれる。咳き込もうとするとそれを阻止するかのように顎と頭をしっかりと固定され口を閉じらされて、頭を左右に振られた。その振動で口の中の大量の粉と水を飲み込んでしまう。咳き込む事も嘔吐する事も許されず、口の中の物がなくなるまで抑えられた。
口の中を嚥下してから、頭は解放された。しかし依然と久賀からは馬乗りにされたままだ。
「俺は——お前の恋の手助けをしてあげられるぞ?」と久賀は寛太の耳に囁いた。
一瞬何を言われているか分からなかった寛太はじたばた動いていたが理解すると否や藻掻くのを止めた。
「どういう意味だ——?」と訊ねると「言葉のままだよ」と久賀は言った。
「今回のお情けって言うのはな、お前たちの恋の助けをするって事なんだ。お前——お嬢様の事、好きだろう?」
耳に囁かれる言葉は酷く甘い物だった。好きだ。俺はお嬢様が好きだ。捨て子だった俺がお嬢様から拾われたその日から長年思い続けてきた。
「俺が現れたばっかしに——申し訳なかったな。あれがなければお嬢様はお前を選んでいたよ」
「ほ、本当に?」
「突然だろう? いつも傍に居て支えてあげてたんだろう?」
寛太はぼんやりとしていた頭の霧が一気に晴れたようにすっきりとしていた。その先に優花がいて、微笑みかけていた。あんなに優しく微笑まれた事なんぞ生まれて初めてだった。
「そうだ——俺が支えてた」
「じゃあ——行け」
ふと身体が軽くなる。
寛太は手を伸ばす。すると不思議な事に彼女は裸で何一つ身に纏っていなかった。横たわった彼女の裸は美しく造り物のようだった。
そんな優花の上に寛太は跨ると優花の目はぼんやりとしていて視界が定まらないようだった。
恐る恐る弾力のある二つの双丘を鷲掴みにするとその柔らかさに寛太は震えた。力強く掴んでも優花の口からは蔑んだ言葉が出るわけではなく、甘い嬌声が洩れるのだ。その頂きを口に含み噛み付くと腰に響く声を女はあげた。その声を自分があげている事に更に興奮した寛太自身は袴を押し上げる程勃ちあがっていた。
はぁはぁと息が上がり口の端から涎を垂らすその様は本当に犬のようだった。
「大事な物は押入れに入れとくからな。あと煙管を机の上に置いとくぞ」
コトンと机の上にそれを置いてへこへこと腰を動かす二人に久賀は声を掛けたが、二人からは返事はなく獣のような雄叫びを上げて絡み合うように抱き合っていた。
肉音と水滴の音に久賀は顔を顰めると、亮と共に部屋を後にした。
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