遊び人の恋

第四章

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伊織は雪が元気そうにしていて安心しきった表情を浮かべ、雪に物を与えた。
一度も袖を通しているように見えない着物と手荒れに効く軟膏に、金平糖に、しまいには小遣いまで渡そうとして雪は必死になって「貰えないです」と慌てて断ったが、半ば強引に握らされた。小さな封筒は重く手触りはどう考えても小判三枚程の厚さだ。

そんな伊織と会ってからの帰り道。

雪は一着くらいだと思っていたが、まさかあんなに大量に買うつもりだと知った雪は一人あたふたしているのを薫から笑われながら見つめられたのだった。

「貢いでもらったら？」
「お金勿体ないし、それに背が高くなるかもしれないから着物を買ってもらっても着れなくなっちゃうかも」
「高くなるかな……？」

どうも自分の周りには、私の事を良くしてくれる人が沢山いる、と雪は思った。
こんなにも温かいのだ。
恩着せがましい訳ではなく、全員が善意でしている。彼らの目は慈愛で満ちていて心地良い。
薫は笑いながらも「元気そうで何より」とあれからの私を心配していたと言って抱き締めてくれた。

ふと、雪は気付いてしまった。
自分が如何に大事にされているのか。どんなに恵まれているのか。

何故、この優しい世界に怖さを感じて、自分を卑下して受け入れられなかったのか。
自分を否定する事は、彼らを否定するのも同じような気がした。

ふと、雪の着る着物を物色している男の背中を薫と抱き締めあいながら盗み見た。

あの優しさを一度は信じられなくなっまけれど、また信じようと思ったのは久賀さんに「信じられないのなら俺を刺せ」と脅された訳ではない。心の奥で分かっていた――久賀さんは何があっても、私を裏切らない。きっとあの橋で初めて久賀さんの瞳を見た時に、そう気付いていた。
きっと、私は――久賀さんに無理矢理されたとしても、久賀さんを信用してしまうんだろうな。

だって――尊敬しているから。





少女は、未だに自分の胸に巣食うその気持ちに気付いてはいなかった。

それに気付いた時。
もしくは悟られた時。

その時は、篠　雪は久賀　京に骨の髄までしゃぶられてしまうだろう。

果たして、どちらが先になるか。
どちらが幸か不幸かは分からない。

あとは、今後の本人達次第だった。