遊び人の恋

第二章

2-8

『名前はゆき、といいます。
年齢と性別は言ってはいけないとの約束なので、言えません。ごめんなさい。
でも薫さんより年下だということはいえるので想像してくれたら良いかなって思います。
お手紙を返してもらえるなんて夢にも思っていなかったです。とても嬉しいです、これからもよろしくお願いします

ゆき』

『年下だと思ってたの。私の読みは当たったわ。
でも歳は近いと思うし、年下だけど友達になるのだから敬語は使わないでね。薫って呼び捨てしてね。
年齢と性別を言ってはいけないって言われたの？親に？そんなに厳しいの？手紙で友達を作るとか、人に会えないような生活を強いられてるの？まさか監禁されてるの？

薫』

『薫、って呼ぶね。
両親はとっくに亡くなってて、ある方の身の回りのお世話をしてて、監禁はされてないんだぜ。
厳しくもないし、すごく優しいんだ。心配性なだけさ。
友達が欲しいって前から思ってたけど話しかけても同性に無視されちまって上手くいかなかったんだぜ。

ゆき』

『ゆき、ごめんね。
その手紙の口調、すごく使い辛そうだから普通に戻って良いよ。無理してるなって思ってつい笑っちゃって、お姉ちゃんに変な目で見られちゃった。私五人姉妹の末っ子なんだ。両親は呉服屋営んでてお姉ちゃん全員それ手伝ってて私の面倒見る暇ないの。だから、大抵はなんでも自由だよ。好きにしてるもん。ゆきは面倒見てもらってる？というか見てるのかな？？お世話してるならさ。その人に好きにさせてもらってる？
ある人の身の回りの世話って相手は男性？大変じゃない？変な事されてない？世の中変な男ばかりだから気をつけるんだよ。股間を蹴り上げたら大丈夫だから。
無視するような女の子なんて、ろくな女にならないんだから、負けちゃだめよ。私なら髪引っ張ってぼこぼこにするわ

薫』

『薫へ。
ごめんなさい、敬語じゃない喋り方ってよく分からなかったんでそう言ってもらえると助かります。
お姉ちゃんが四人もいるんですね。私は年子の妹が居たんだけど離れ離れになっちゃって。すごく、可愛い妹なんです。笑うと花が咲くみたいに明るくなって幸せな気持ちになります。
お世話してるのは男性です。料理、洗濯、掃除、などしてます。とても優しい人でかっこ良い素敵な人です。みんな、振り向いて見ちゃうくらい素敵です。
身の回りのお世話はしてますが、面倒を見てるより、見てもらってます。前に助けてもらったんです。そのお礼に身の回りのお世話もしたいと言ったのでやらせてもらってます。最近では迷惑がられてないかなって不安に思ってたりします。でもそれを感じさせないくらい優しいです。最近では夕食を作ってくれます。とても美味しいんです。こないだ食べた栗ご飯とても美味しかったんですよ。
男性の股間を蹴り上げるってどういう状況の時にしたら良いですか？蹴り上げたら男性はどうなるのでしょうか？

ゆき』

ゆきは女の子だ。

と薫は確信していた。
無理に男性言葉を使った文章を見て、疑いから確信に変わったのである。あれには無理があったし、爆笑をしてしまった。まず、股間を蹴られたどれ程痛いのかわからない時点で男ではない。どれだけ痛いかを文章で説明してあげたが、手紙の様子から見て、引いていた。
文章の言葉も柔らかく、おそらく見た目も柔らかい雰囲気の子なのだろうと想像を膨らませながら、薫は雪と何通も手紙のやりとりをしていた。
ニヤニヤしながら手紙を読んでいる薫を姉達は不審に思いつつも楽しそうに机に向かい筆を取る妹を姉達は見守る事にしている。大人びた子ではあるが道を外す事はないだろう。
薫は手紙の内容を考えつつ、雪の事を考えていた。
手紙からの印象で、かなりの世間知らずなのが読み取れた。監禁されてないと書いてあったが、何通も手紙を交わしてきて雪の行動範囲が狭い事に薫は疑問を抱いた。

食事の準備をする為に、八百屋に魚屋、米屋、酒屋と自宅としか往復してない様子が見て取れる。監禁はされてなくとも軟禁状態ではないかしら。ゆき本人が気付いていないだけで。

家事や洗濯もわざと遠くは行かせない為にやらさているように思えてしまった。そんなに素敵な男なら、ここまで家事をさせるかしら？

うーん、と薫は筆を取りながら悩んだ。
今日は筆が乗らない。自分が書こうとしている事を伝えて良いものか悩んだのだ。
しかし、手紙を出さないという選択肢はなかった。

「よし！　悩んでいてもしょうがない！！」

薫はそう叫ぶとつらつらと筆を動かし、書き終えると口笛を三回鳴らしたのだった。