遊び人の恋

猫原

文字の大きさ
上 下
13 / 170
第二章

2-1

しおりを挟む
「え?今なんて言ったの?」

久賀は秋空の下、そう聞き返していた。

青々と茂っていた草木は黄色に変わりつつある。その落ち葉は地面を黄色く染めていた。
季節は夏から秋に入っていた。
秋と言えば食欲の秋であり、夏よりも食材の種類は豊富だ。
久賀は縁側で胡坐をかきながら、栗をひたすら剥いていた。雪に栗ご飯を食べさせる為である。
ある日雪が寝込んでから久賀が食事の用意をしてからというもの、晩だけは久賀の時間が空いている時は久賀が用意するようになった。なんせ、雪は自分で食事を作ると自分の量が極端に少ない。無理に食べさせようとすれば、食べられないと辛い顔をされるので無理強いは出来ずにいたが、それでは一向に力を付けられないと悩んでいた矢先に雪が熱で倒れたのだった。
その時の久賀は酷い物だった。
近くに住む老医師を他に診ている患者が居たにも関わらず半ば誘拐といった形で連れてきて熱に魘される雪の横に座らせると「治せ」と刀に手をやる。
ヤクザ者も治療しているが、この男の方が質が悪そうだった。なんせ、目が本気だったのだ。ヤクザ者の方が人情はある。あちらは親分が殺されかけても治療する筈の医者に刀を抜いたりはしないのだから。
やれやれと臆する事もなく老医師の北は診察の為に雪の前を緩めると、今まで男の子と思っていた子供の胸が小さく膨らんでいるのが見えた。

こりゃやっぱし女の子だったか

少女のように可愛らしい顔をしていると思っていたものだ。
この男が異常なまでに心配するのも合点が行く。
北は雪の性別に口出しはせず、

「悪いとこはねぇ。こりゃ知恵熱だ。こんくらいの歳の子にはあるもんだよ」

「栄養のあるもん食わせろ。水分も取らせて体力をつけなさい。年頃にしては細すぎるぞ」

と老医師は薬を煎じてあげたのだった。

それから、雪が寝込んだ三日三晩、付きっ切りで看病をした。
お粥を作り、熱が下がった頃には病人食ではなく、力をつけるよう肉を出すようにした。

「————!
久賀様はお料理お上手ですね!一人で食べるより久賀様と一緒に食べると美味しいです」

ニコニコと笑う。
雪が寝込んでから雪一人だけ食べさせ、久賀は食事を後回しにしていた。
この食事は雪が完治して久しぶりの二人での食事で、雪の一言だった。
久賀が作った食事は、せっかく作ってくれたから申し訳ないという気持ちが勝って、量を増やしても食べてくれた。最初は苦しそうだったが今では白米茶碗一杯分を苦しまずに食してくれるようになった。おかわりは出来ないが。
雪は食べる量が増えたからか、頬に丸みが見え、背も少し伸びた。といっても背は久賀の腕までしかないし、細さはあまり変わらない。普段はさらしを巻いてるせいか胸は一向に膨らんでこなかったが、雪はその事は気にしていないようだった。むしろ身長が伸びて欲しいようだ。

どんどん女の子らしい顔になっている気がするが、元気な方が良い

それにここ最近は、雪はあまり遠出したがらなくなっていた。近所の五軒までしか動かないのだ。目の悪い老人にしか会ってない。ばれる心配は皆無だ。
そんなこんなで、久賀は今雪に何度目かの晩飯の支度をしていた。栗ご飯にさんまの塩焼き、大根の味噌汁、白菜の漬物。完璧だと自画自賛した。
その栗の準備をしている時、庭に出ていた雪が久賀へと近づいてきて、あるお願いをしてきたのである。

「—————よく聞き取れなった。もう一回言ってもらえる?」

思わず栗を落としてしまう。その栗を拾う雪を視線で追った。
雪は栗を握りしめながら、もじもじとして久賀を見た後に意を決したのか、雪は息を大きく吸って見せた。


「お友達が欲しいです」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【R-18】初恋相手の義兄を忘れるために他の人と結婚しようとしたら、なぜか襲われてしまいました

桜百合
恋愛
アルメリア侯爵令嬢アリアは、跡継ぎのいない侯爵家に養子としてやってきた義兄のアンソニーに恋心を抱いていた。その想いを伝えたもののさりげなく断られ、彼への想いは叶わぬものとなってしまう。それから二年の月日が流れ、アリアは偶然アンソニーの結婚が決まったという話を耳にした。それを機にようやく自分も別の男性の元へ嫁ぐ決心をするのだが、なぜか怒った様子のアンソニーに迫られてしまう。 ※ゆるふわ設定大目に見ていただけると助かります。いつもと違う作風が書いてみたくなり、書いた作品です。ヒーローヤンデレ気味。少し無理やり描写がありますのでご注意ください。メリバのようにも見えますが、本人たちは幸せなので一応ハピエンです。 ※ムーンライトノベルズ様にも掲載しております。

子どもを授かったので、幼馴染から逃げ出すことにしました

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※ムーンライト様にて、日間総合1位、週間総合1位、月間総合2位をいただいた完結作品になります。 ※現在、ムーンライト様では後日談先行投稿、アルファポリス様では各章終了後のsideウィリアム★を先行投稿。 ※最終第37話は、ムーンライト版の最終話とウィリアムとイザベラの選んだ将来が異なります。  伯爵家の嫡男ウィリアムに拾われ、屋敷で使用人として働くイザベラ。互いに惹かれ合う二人だが、ウィリアムに侯爵令嬢アイリーンとの縁談話が上がる。  すれ違ったウィリアムとイザベラ。彼は彼女を無理に手籠めにしてしまう。たった一夜の過ちだったが、ウィリアムの子を妊娠してしまったイザベラ。ちょうどその頃、ウィリアムとアイリーン嬢の婚約が成立してしまう。  我が子を産み育てる決意を固めたイザベラは、ウィリアムには妊娠したことを告げずに伯爵家を出ることにして――。 ※R18に※

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

処理中です...