2 / 170
序章
2
しおりを挟む
突然、大柄な男は糸が切れたように少女ーーー篠 雪の上へ倒れ込んできた。
ヒッ、と男の胸を支える為に両腕を前に出し、両目を閉じた雪だったが、倒れ込んできた男の体重を一向に両手に感じず、また、身が軽くなるのを感じた。
ドサっと自分の横に何かが倒れる音がした。
「汚ねぇもんぶら下げやがって。これが腹上死だったら良かったのになぁ。あ。でも死んだ事にさえ気付かなかっただろうし、おっ勃てたままだし、女の腹の上で斬られたんだから、ある意味…腹上死か…?」
ブツブツ喋る男の声がする。
その声は低く、大柄な男が発していた濁声とは違い、心地よかった。やけにお腹に響く気がしたが、雪は幼過ぎてそれがなんなのか、全くわからなかったし、もう一人登場人物が増えた事により恐怖が増して、それどころではなかった。
目を閉じたまま、身を起こす。立ち上がろうとしたが、腰が抜けているようで、座り込んだままになってしまった。
早く逃げなければ、と思いつつもこの調子では、逃げられそうにない。2人の男に抑えられては、逃げられる筈がない。
絶望していると、目の前に気配を感じた。
先ほどの男が、目の前に座り込んだようだった。
男の手が、頬に触れる。
殴られる、そう思って力一杯歯を食いしばったが、その気配はなく、先ほど殴られた頬に触れられただけだった。
一瞬、気配が消えバシャバシャと水の音がしたかと思えば、その気配はまた目の前に現れ、濡れた手拭いで殴られた痕を冷やしてくれた。
殴らないの…?
不器用ながらも、その手は優しく、殴られた頬を、切れた唇の端をゆっくりと冷やしていく。
自分に危害を加えないかも、と思うと雪は恐る恐る目を開いた。
目の前の男と瞳が合った。
生まれて初めて、綺麗な顔を見た。
お互い、同じ瞬間にそう思った。
…と言っても、雪は10年しか生きていないのだが、それでもこの人生の中で、こんなにも綺麗な顔の男性を見た事なかったのである。
眉と目と瞳と鼻と唇と額に顎に頬に、とにかく作られたように綺麗だった。その反面、伸ばされた指先は、男性らしくごつごつとしていたが、それも魅力だった。
ほうっと見つめられている男…雪を見つめている男も同じ事を思ったわけだが、男は雪より12年生きていて、女は腐る程見てきたにも関わらず、同じ事を思ったのである。
お互い見つめあってるなど、微塵も気付いてなかった。
これは、将来美人になるな…
男の率直な意見だった。
幼いながらも、へんに色気がある。
溢れんばかりに見開いた瞳は、恐怖が浮かびながらも、綺麗に長い睫毛に縁取りられていた。涙が浮かんでいたせいか、睫毛が輝いて見える。
その唇はふっくらと吸い付きたくなるほどの綺麗な形で、口紅を施していないにも関わらず、ほのかな桃色、そこから微かに覗く白い歯と舌は、舐め回したい、吸いつきたいと男に思わせてしまうほどの、魅力を感じてしまうのは男として致し方ない。
胸は膨らみ始めたくらいで、膨らみが横に広がっていた。
この胸を、一晩中揉みしだいて、育てあげたい。
…あくまで、俺以外の男がそう思うがな
男はこの容姿で女に苦労した事は一切ない。
まして、大人の女と遊び呆けても子供に手を出すような畜生ではなかったし、そんな男を自分の経験からか毛嫌いしていた。
その筈なのだが。
「痛いとこはないか?」
黒い瞳に真っ直ぐに見つめられ、雪は一瞬戸惑ってしまった。
じっと見られており、再度同じ質問を投げかけられて、自分の事を訊かれてると気付いた雪は激しくフルフルと首を横に振った。
男がふっと笑い、その表情も綺麗だと雪は思っていると、肌けた胸に手を伸ばされた。先ほどの男に体を弄られた事を思い出してしまい、思わず手を払い退けて後ずさった。
その払い退けた手の甲に爪痕をつけてしまい、もともと色白の顔色を更に悪くした。
ヒッ、と男の胸を支える為に両腕を前に出し、両目を閉じた雪だったが、倒れ込んできた男の体重を一向に両手に感じず、また、身が軽くなるのを感じた。
ドサっと自分の横に何かが倒れる音がした。
「汚ねぇもんぶら下げやがって。これが腹上死だったら良かったのになぁ。あ。でも死んだ事にさえ気付かなかっただろうし、おっ勃てたままだし、女の腹の上で斬られたんだから、ある意味…腹上死か…?」
ブツブツ喋る男の声がする。
その声は低く、大柄な男が発していた濁声とは違い、心地よかった。やけにお腹に響く気がしたが、雪は幼過ぎてそれがなんなのか、全くわからなかったし、もう一人登場人物が増えた事により恐怖が増して、それどころではなかった。
目を閉じたまま、身を起こす。立ち上がろうとしたが、腰が抜けているようで、座り込んだままになってしまった。
早く逃げなければ、と思いつつもこの調子では、逃げられそうにない。2人の男に抑えられては、逃げられる筈がない。
絶望していると、目の前に気配を感じた。
先ほどの男が、目の前に座り込んだようだった。
男の手が、頬に触れる。
殴られる、そう思って力一杯歯を食いしばったが、その気配はなく、先ほど殴られた頬に触れられただけだった。
一瞬、気配が消えバシャバシャと水の音がしたかと思えば、その気配はまた目の前に現れ、濡れた手拭いで殴られた痕を冷やしてくれた。
殴らないの…?
不器用ながらも、その手は優しく、殴られた頬を、切れた唇の端をゆっくりと冷やしていく。
自分に危害を加えないかも、と思うと雪は恐る恐る目を開いた。
目の前の男と瞳が合った。
生まれて初めて、綺麗な顔を見た。
お互い、同じ瞬間にそう思った。
…と言っても、雪は10年しか生きていないのだが、それでもこの人生の中で、こんなにも綺麗な顔の男性を見た事なかったのである。
眉と目と瞳と鼻と唇と額に顎に頬に、とにかく作られたように綺麗だった。その反面、伸ばされた指先は、男性らしくごつごつとしていたが、それも魅力だった。
ほうっと見つめられている男…雪を見つめている男も同じ事を思ったわけだが、男は雪より12年生きていて、女は腐る程見てきたにも関わらず、同じ事を思ったのである。
お互い見つめあってるなど、微塵も気付いてなかった。
これは、将来美人になるな…
男の率直な意見だった。
幼いながらも、へんに色気がある。
溢れんばかりに見開いた瞳は、恐怖が浮かびながらも、綺麗に長い睫毛に縁取りられていた。涙が浮かんでいたせいか、睫毛が輝いて見える。
その唇はふっくらと吸い付きたくなるほどの綺麗な形で、口紅を施していないにも関わらず、ほのかな桃色、そこから微かに覗く白い歯と舌は、舐め回したい、吸いつきたいと男に思わせてしまうほどの、魅力を感じてしまうのは男として致し方ない。
胸は膨らみ始めたくらいで、膨らみが横に広がっていた。
この胸を、一晩中揉みしだいて、育てあげたい。
…あくまで、俺以外の男がそう思うがな
男はこの容姿で女に苦労した事は一切ない。
まして、大人の女と遊び呆けても子供に手を出すような畜生ではなかったし、そんな男を自分の経験からか毛嫌いしていた。
その筈なのだが。
「痛いとこはないか?」
黒い瞳に真っ直ぐに見つめられ、雪は一瞬戸惑ってしまった。
じっと見られており、再度同じ質問を投げかけられて、自分の事を訊かれてると気付いた雪は激しくフルフルと首を横に振った。
男がふっと笑い、その表情も綺麗だと雪は思っていると、肌けた胸に手を伸ばされた。先ほどの男に体を弄られた事を思い出してしまい、思わず手を払い退けて後ずさった。
その払い退けた手の甲に爪痕をつけてしまい、もともと色白の顔色を更に悪くした。
0
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説
どうやら私はバッドエンドに辿りつくようです。
夏目
恋愛
婚約者であるギスランは、他の男と喋っていただけで「閉じ込めたい」という怖い男。こんな男と結婚したくないと思っていたが、ある時、命を狙われてしまった。そこから、ギスランの行動はどんどんと常軌を逸脱し、エスカレートしていく。
自己中悪役系お姫様カルディアとヤンデレ尽くし系貴族ギスランが喧嘩っぷるしながらメリバへ突き進む話。
(1章まではなろう様に同じものがあります。また現在3章までをムーンノベルズ様で投稿しています。年末頃まで更新をお休みさせていただきます。よろしくお願いします)
ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》
和刀 蓮葵
恋愛
今から約800年前、突如謎の扉が日本に現れた。そしてそこから約300年後に次々と謎の扉が世界に現れる。そこから人類の敵である吸血鬼が化け物を引き連れて世界に人類に牙を剥いていく。
ただ、人類も手をこまねいてはいない。対吸血鬼の軍を世界に有している。
対吸血鬼部隊に所属している、日本国のエース的な存在の夜神凪中佐と軍大学四年生の庵海斗が出会ってしまったばっかりに歯車が少しずつ傾いていく━━━
その出会いは運命だったのか?それとも宿命だったのか?
吸血鬼と戦う軍人と吸血鬼の皇帝との執着的な運命も宿命の一つだったのか?分かっているのは血の記憶だけ。記憶を蘇らせるのは誰の体に流れている血なのか?
✶✶✶✶✶✶✶✶✶✶✶✶✶✶✶✶✶✶✶✶✶✶✶✶✶✶✶✶✶
・物語の視点がコロコロと変わります。基本は主人公の夜神中佐ですが、大学生の庵学生だったり、皇帝だったり、その他の人たちだったりと色々です。
・前書きに「流血表現」と書いてあるものは、戦闘による流血表現です
❁❁❁❁❁❁❁❁❁❁❁❁❁❁❁❁❁❁❁❁❁❁❁❁❁❁❁❁❁
・庵大学生✕夜神中佐 皇帝✕夜神中佐です。男性二人共ヤンデレ気味です。基本、二人共愛重め
・庵大学生は言葉でやんわり攻めて、自分で動けないように催眠?にも近い拘束で、皇帝は物理的に拘束をして、ほぼ無理やりに近い状態で、ヒロインの夜神中佐に快楽を与えます。
・物語の後半に行くほどRの話が多め
・少々、マニアックなプレイが出てきます(拘束・薔薇・蜜を塗る等々)
・※(Rの話、最後まではない又は前戯)
・※※(Rの話、最後までします)
・小説家になろうでも、投稿してます
ちびっ子ボディのチート令嬢は辺境で幸せを掴む
紫楼
ファンタジー
酔っ払って寝て起きたらなんか手が小さい。びっくりしてベットから落ちて今の自分の情報と前の自分の記憶が一気に脳内を巡ってそのまま気絶した。
私は放置された16歳の少女リーシャに転生?してた。自分の状況を理解してすぐになぜか王様の命令で辺境にお嫁に行くことになったよ!
辺境はイケメンマッチョパラダイス!!だったので天国でした!
食べ物が美味しくない国だったので好き放題食べたい物作らせて貰える環境を与えられて幸せです。
もふもふ?に出会ったけどなんか違う!?
もふじゃない爺と契約!?とかなんだかなーな仲間もできるよ。
両親のこととかリーシャの真実が明るみに出たり、思わぬ方向に物事が進んだり?
いつかは立派な辺境伯夫人になりたいリーシャの日常のお話。
主人公が結婚するんでR指定は保険です。外見とかストーリー的に身長とか容姿について表現があるので不快になりそうでしたらそっと閉じてください。完全な性表現は書くの苦手なのでほぼ無いとは思いますが。
倫理観論理感の強い人には向かないと思われますので、そっ閉じしてください。
小さい見た目のお転婆さんとか書きたかっただけのお話。ふんわり設定なので軽ーく受け流してください。
描写とか適当シーンも多いので軽く読み流す物としてお楽しみください。
タイトルのついた分は少し台詞回しいじったり誤字脱字の訂正が済みました。
多少表現が変わった程度でストーリーに触る改稿はしてません。
カクヨム様にも載せてます。
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~
日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。
もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。
そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。
誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか?
そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。
心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。
三月べに
恋愛
古川七羽(こがわななは)は、自分のあか抜けない子どもっぽいところがコンプレックスだった。
新たに人の心を読める能力が開花してしまったが、それなりに上手く生きていたつもり。
ひょんなことから出会った竜ヶ崎数斗(りゅうがざきかずと)は、紳士的で優しいのだが、心の中で一目惚れしたと言っていて、七羽にグイグイとくる!
実は御曹司でもあるハイスペックイケメンの彼に押し負ける形で、彼の親友である田中新一(たなかしんいち)と戸田真樹(とだまき)と楽しく過ごしていく。
新一と真樹は、七羽を天使と称して、妹分として可愛がってくれて、数斗も大切にしてくれる。
しかし、起きる修羅場に、数斗の心の声はなかなか物騒。
ややヤンデレな心の声!?
それでも――――。
七羽だけに向けられるのは、いつも優しい声だった。
『俺、失恋で、死んじゃうな……』
自分とは釣り合わないとわかりきっていても、キッパリと拒めない。二の足を踏む、じれじれな恋愛模様。
傷だらけの天使だなんて呼ばれちゃう心が読める能力を密かに持つ七羽は、ややヤンデレ気味に溺愛してくる数斗の優しい愛に癒される?
【心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。】『なろうにも掲載』
らぶさばいばー
たみえ
恋愛
私、シオン・ノヴァ=デルカンダシア辺境伯令嬢は日本からの転生者である。
そして転生した先は魔法も使えて妖精や精霊、神様さえ身近で当たり前のファンタジー世界。アラフォー目前で亡くなったとは思えないほど、それはもう大人気なく狂喜乱舞した。
――だがちょっと待ってほしい。よくよく調べれば何処かで聞いたような歴史、国、人名。
……もしかしてここ、『らぶさばいばー』の世界と似てない?
どうやら、寂しい独身貴族を貫いた前世でどハマりした学園系乙女ゲームの世界へ転生してしまったらしい、が――マズイ。非常にマズイ。
この世界は確か、攻略対象全員が理不尽級なヤンデレだったはず……あ、なんだ。よく考えたら私モブだから大丈夫だったわ。
この物語は、前世でプレイしていた乙女ゲーム世界へ転生し、無視しようとしてもなんやかんやで自ら関わって行ってしまう主人公が、最終的に世界を救うまでの苦労譚である。
※他の作品優先なので更新頻度は遅くなります。
※こっちのほうが感想貰いやすいかなと載っけてますので、たまに最初の誤字脱字のまま放置されてることもしばしば。
※修正改稿なし。ほぼ原文ママ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる