俺とタロと小さな家

鳴神楓

文字の大きさ
上 下
22 / 65
第2章 成犬編

3 俺の自覚

しおりを挟む
いつもよりも少し早く、晩ご飯が出来上がった。
どうやら体が大きくなったおかげで、タロは今までよりも手早く料理を作ることが出来るようになったらしい。

今日のメニューは、焼き鮭とけんちん汁、それにレンコンのきんぴらと青菜のおひたしだ。
たぶん焼き鮭以外は、俺が明日も食べられるように多めに作ってくれてあるのだろう。

「いただきます」

いつものように2人して手を合わせてから、まず湯気を立てているけんちん汁に、箸をつける。

「あー、うまいな。あったまるよ」

冬の夜に、こういうあったかい汁物はありがたい。
それにタロが作る汁物は、和風だしの素まかせの俺の汁物とは違って、きちんとだしが効いていてうまいのだ。

「ほんとですか? よかった。
 あ、きんぴらも食べてみてください。
 レンコンだけでシンプルに作るのが美味しいらしいんですけど、どうでしょう?」
「うん、これもピリ辛でシャクシャクしてて美味しいよ。
 ご飯に合うな」
「よかったー。
 まだありますから、よかったらおかわりしてくださいね」

そう言うタロは、俺がうまいと言ったのがよっぽどうれしいらしく、にこにこと機嫌よさそうに微笑んでいる。

「……好きだなあ」

そんなタロの様子を見ていて、ごく自然に口から出てきた言葉に、俺は自分でも驚く。

「そうなんですか?
 確かにけんちん汁、おいしいですもんね。
 お好きでしたら、また作りますね」
「……うん、頼むよ」

好きなのは、けんちん汁じゃなくてお前のことだよと、タロの誤解を訂正することも出来ず、俺は手にしていたけんちん汁をすすった。


――我ながら、こんなふうにタロへの気持ちを自覚するのは、少々間抜けだとは思う。
けれども同時に、こうやって気付くのは自然なことだったような気もする。

うれしそうに俺の食事を作ってくれて、その食事を食べた俺がおいしいと言うと喜んでくれるタロ。
その様子は、タロが俺のことを本当に慕ってくれているのだということを教えてくれる。

そしておそらく、俺がタロを好きになった一番の理由は、タロのそういうところなのだ。
俺のことを好きでいてくれるからタロのことが好きだ、というのは、ある意味不純なのかもしれない。
けれども、子犬の頃からずっと、タロがこうやって俺を慕う気持ちを素直に表現するのを毎日見続けていれば、かわいい、愛しいという気持ちがわいてくるのは、きっとごく自然なことだったのだと思う。
これまではタロが子犬で子供だったから、その気持ちが恋愛感情だとは気付くことが出来なかったけれど、もしかしたらもっとずっと前から、俺はタロのことがそういう意味で好きだったのかもしれない。


「ご主人様、どうかしましたか?
 もしかして、鮭焼きすぎでした?」

俺の箸が止まってしまったのが気になったのだろう。
タロが心配そうな声で聞いてきた。

「あ、ううん。何でもないよ。
 鮭もちょうどいい焼き加減でうまいし」

俺が慌ててそう答えると、タロはほっとした顔になった。
俺が再び箸を動かし始めると、タロも安心したかのように食べ始める。

……うん、まあ、好きだって自覚したからって言ったって、何が変わるわけでもないしな。

俺がタロのことを恋愛の意味で好きでも、タロの俺に対する気持ちはあくまでも飼い主に対するそれでしかないだろう。
だから、俺もタロに自分の気持ちを伝えるつもりもないし、これからも今までと同じようにタロと共に暮らしていくだけのことだ。


――そう考えていた俺は、すぐに、自分があまりにものんきだったと気付くことになる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

助けの来ない状況で少年は壊れるまで嬲られる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

処理中です...