声無き世界

鳴神楓

文字の大きさ
上 下
30 / 36
番外小話

テディの名前

しおりを挟む
以下、番外の小話です。オチはありません。
時系列的にはエピローグのあたりで5エピソードで完結。
今回は旅の間の話。

────────────────────

 テディと話ができるようになったので、テディの本当の名前を教えてもらった。
 日本語にはない発音があったのでうまく言えなくて、口の中でもごもごと練習しているとテディが言った。

「出来ればこれからも和生がつけてくれた名前で呼んでくれないか?
 元の名前は孤児院で適当に付けられたもので『茶色』という意味だから、あまり好きじゃない」
「えー、そうなんだ。
 確かにそれはちょっとひどいね」

 明らかにテディの髪の毛の色を見てパッと決めましたという感じの名前の付け方にあきれたが、よく考えると俺も人のことは言えないと気付く。

「ごめん。実はテディっていうのもあんまりちゃんと考えた名前じゃないんだ。
 その、ちょっと言いにくいけど、テディっていうのは地球では世界的に有名なクマのヌイグルミの名前でさ……」

 自分を助けてくれた初対面の人を思いっきりクマ呼ばわりしていたのが後ろめたくて、俺が小さくなっていると、テディはちょっと笑って「知っている」と言った。

「英語の歌で歌詞に『テディベア』と出てくるものがあるから、それだろうなとは思っていた。
 魔術師は異世界の歌の内容を映像でイメージできるから、テディベアがどんなものかも知っている」
「あー、そうなんだ。なんか、ほんとごめん。
 けど、知ってたのなら何でテディって名前でいいって言ったの?」
「うれしかったからだ」
「うれしい?」

 テディの返答に首を傾げた俺に、テディは説明してくれる。

「和生は俺と最初に出会った時、俺のことを怖がっていたようだったのに、俺の名前にかわいらしいヌイグルミの名前を選んでくれたから。
 少し話をしただけなのに、俺の見た目の怖さとは関係なく内面を見てつけてくれたのだろうなと思って、だからうれしかった」
「そうだったんだ。
 けど初対面の時に俺が怖がってたのは、テディの見た目が怖いというよりは、テディの声を聞くのが怖かったんだけどね」
「確かにそうなんだが、でも和生があの時ちゃんと俺の内面を見てくれたことに変わりはないから」
「そっか。それならこれからもテディって呼ぶね」

 俺がそう言うとテディは「ああ」とうれしそうにうなずいた。


※──※──※──※──※──

ちなみにテディが土下座を知っていたのも日本の歌の歌詞にあったからで、この世界には土下座文化はないという設定だったりします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

四人の関係

鳴神楓
BL
都内の豪邸で4人で暮らしている男達。 攻め3人(使用人)受け1人(主人)という関係が、あるきっかけで攻めのうち1人が受け属性に目覚めたことで新しい関係へと変わっていく。     ■地雷要素が多いため、地雷避けしたい方は登場人物紹介の下の方をご確認下さい。重複投稿。

異世界のオークションで落札された俺は男娼となる

mamaマリナ
BL
 親の借金により俺は、ヤクザから異世界へ売られた。異世界ブルーム王国のオークションにかけられ、男娼婦館の獣人クレイに買われた。  異世界ブルーム王国では、人間は、人気で貴重らしい。そして、特に日本人は人気があり、俺は、日本円にして500億で買われたみたいだった。  俺の異世界での男娼としてのお話。    ※Rは18です

獣人カフェで捕まりました

サクラギ
BL
獣人カフェの2階には添い寝部屋がある。30分5000円で可愛い獣人を抱きしめてお昼寝できる。 紘伊(ヒロイ)は30歳の塾講師。もうおじさんの年齢だけど夢がある。この国とは違う場所に獣人国があるらしい。獣人カフェがあるのだから真実だ。いつか獣人の国に行ってみたい。対等な立場の獣人と付き合ってみたい。 ——とても幸せな夢だったのに。 ※18禁 暴力描写あり えっち描写あり 久しぶりに書きました。いつまで経っても拙いですがよろしくお願いします。 112話完結です。

BL漫画の主人公に転生したから地味に生きる。……つもりだった。

海里
BL
 交通事故で痛みを感じることなく死んだはずの俺は、気が付いたら異国の貴族(と言っても男爵)の子息として生まれ変わっていた!?  そして気付く、ここは俺が知っている世界だと……!  腐男子としてこっそり新刊が出るたびに買っていたBL漫画の世界だと言うことに気付いた。金髪碧眼の愛らしい容姿の主人公。その名もアーサー。……生まれ変わった俺の名前だよ!  俺は腐男子ではあるけれど、自分がそうなろうとは思っていない。傍観者でいることが一番の喜びだったのに……!  こうなったら主人公ではなくモブとして、地味に生きよう……!  髪を染めて前髪で目元を隠し、いかにも根暗そうな雰囲気で……周りのBLカップルたちを応援する人になろう!  そう決意して早数年。――学園生活が始まる。  傍観者になりたいアーサーと、そんなアーサーにちょっかいを出すユーゴの話。   ※固定CP、ユーゴ×アーサーです。 ※ムーンライトノベルズ様にも投稿しています。

【R18】義弟と義兄の家庭の事情

赤沼
BL
失業中で主夫になっている洋平。 奥さんの弟で、洋平の義弟である恭二。 このふたりには誰にも言えないヒミツがあった。 そんなふたりの家庭の事情。 表紙絵 白猫ナポリ様

悪役令嬢の双子の兄、妹の婿候補に貞操を奪われる

アマネ
BL
 重度のシスコンである主人公、ロジェは、日に日に美しさに磨きがかかる双子の妹の将来を案じ、いてもたってもいられなくなって勝手に妹の結婚相手を探すことにした。    高等部へ進学して半年後、目星をつけていた第二王子のシリルと、友人としていい感じに仲良くなるロジェ。  そろそろ妹とくっつけよう……と画策していた矢先、突然シリルからキスをされ、愛の告白までされてしまう。  甘い雰囲気に流され、シリルと完全に致してしまう直前、思わず逃げ出したロジェ。  シリルとの仲が気まずいまま参加した城の舞踏会では、可愛い可愛い妹が、クラスメイトの女子に“悪役令嬢“呼ばわりされている現場に遭遇する。  何事かと物陰からロジェが見守る中、妹はクラスメイトに嵌められ、大勢の目の前で悪女に仕立てあげられてしまう。  クラスメイトのあまりの手口にこの上ない怒りを覚えると同時に、ロジェは前世の記憶を思い出した。  そして、この世界が、前世でプレイしていた18禁乙女ゲームの世界であることに気付くのだった。 ※R15、R18要素のある話に*を付けています。

魔獣の姫に黒の騎士

鈴紐屋 小説:恋川春撒 絵・漫画:せつ
BL
独立魔導研究機関ウロボロス、その花形部門の筆頭の一つ魔道研究部門その第八課には『魔獣の姫』と呼ばれる変り者の男がいた。専攻はそのあだ名を違わぬ魔獣、若いながらも魔獣に関する知識はウロボロス随一と言われている。ただし、これが物凄い人嫌いの偏屈男でもあった。まるでどこぞの気位の高い姫君の様に不愛想な為着いたあだ名が『魔道第八の魔獣の姫』。 人嫌いの研究バカ、ソレが周囲の姫に対する評価だ。 そんな姫の研究室に最近入り浸る一人の獣人がいた。名をガルゴ、ウロボロス戦闘部門第一騎士団総団長である。 三月中完結予定(でした。申し訳ない。)・・・何か予定より長くなってしまいましたが一応短編(のつもり)です。 流石に五月までには書き上げられると思います!。ウチキリの漫画みないに尻切れにはしたくないのでストーリを省いて無理やり終わらせるのではなく、話をのばす事にしました。 もう少しだけ書かせて下さいっ。 あっさり作者の予想を裏切りGWに入りました。 申し訳ない、色々な理由で書けない日が終盤続きまして。 他の春撒作品をお待ちの方、早くフィナーレ回読みたい方には大変お待たせしてしまって申し訳ありません。 もうちょっと、もうちょっと書かせてください。 必ずフィナーレまでお連れします!。

不夜島の少年~兵士と高級男娼の七日間~

四葉 翠花
BL
外界から隔離された巨大な高級娼館、不夜島。 ごく平凡な一介の兵士に与えられた褒賞はその島への通行手形だった。そこで毒花のような美しい少年と出会う。 高級男娼である少年に何故か拉致されてしまい、次第に惹かれていくが……。 ※以前ムーンライトノベルズにて掲載していた作品を手直ししたものです(ムーンライトノベルズ削除済み) ■ミゼアスの過去編『きみを待つ』が別にあります(下にリンクがあります)

処理中です...