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本編

翌日 1

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目が覚めると、つり目のイケメンが柔らかい笑顔を浮かべて僕を見つめていた。
その表情は余裕たっぷりのように見えるけれども、その頭の上の三角形の耳はぴくぴくと動いていて、倫くんが落ち着かない気持ちで僕が目覚めるのを待っていたことがうかがい知れる。

「……狐の耳が出てる時は、人間の耳はなくなるんだね」
「ちょっ、第一声がそれ⁈」

倫くんはがっかりしたような声を上げ、おまけに頭の上の耳もへにょっと伏せてしまう。

何百年も生きている神使という凄い存在なのに、倫くんの耳や尻尾はまるで初めて恋をした少年のような素直な気持ちを伝えてきて、そのわかりやすさが可愛いと思えてしまう。
佐々木宮司に対する憧れや尊敬の気持ちとは違うけれども、倫くんのこういう可愛いところも好きだなと思う。

「ごめんごめん。
 おはよう、倫くん」

がっかりしている倫くんに謝って改めてあいさつすると、倫くんも機嫌を直していい笑顔であいさつを返してくれた。

「おはよう、拓也。
 体の方は大丈夫?」
「……えーと、うん、大丈夫みたい」

倫くんの言葉に、今さらながら昨夜倫くんにされたことを思い出し、ちょっと赤くなりながらも僕は答える。
昨日は疲れて気絶するように眠ってしまったが、今はちょっとだるい気がするくらいで別に痛いところもない。
そう言えば昨日は体のあちこちが汚れてしまったはずなのに、体もお風呂に入った後のようにさっぱりしている。

「もしかして、倫くんが体拭いてくれたの?」
「うん、まあ、そんなようなものかな」

倫くんの微妙な返答に、ああ、神通力を使ったんだなと納得する。
昨日は体の外だけじゃなく中も汚れてしまったので、もしかしたら中まで拭いてもらったんだろうかと心配したのだが、神通力なら一瞬だっただろうから安心した。

「今何時くらい?」
「あー、そろそろ起きなきゃいけない時間。
 出来れば今日は一日中このまま拓也とこうしていたいところだけど」
「だめだよ、起きなきゃ。
 これからは毎日だって一緒に寝られるんだし」

僕がそう言うと、布団から先っぽが出ていた尻尾がばさばさと動いた。

「うん、そうだな。
 それじゃ朝飯は俺が作るから、拓也はゆっくり来てくれたらいいよ」

そう言うと倫くんは布団から出て一瞬で服を着ると、尻尾を振りながら部屋を出て行った。
 
「……もしかして、寝るって意味、勘違いされた?」

倫くんが出て行った後でそう気付いたが、今さら追いかけて訂正するわけにもいかないので、僕は諦めて起き出して服を着ることにした。

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