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本編

神主体験2日目 2

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今日も倫之くんが肉屋の奥さんに根掘り葉掘り聞かれて困っていたこと以外は無事に終わった。
昨日倫之くんと約束したハンバーグを本人に手伝ってもらって作り、宮司と3人で食べる。
宮司は今日も晩ご飯が終わると自分の部屋に引き上げて行った。

「宮司ってもしかしたら具合でも悪いのかな。
 昨日もすぐに部屋に引き上げたし、それに昼間もなんとなく様子がおかしかったし」

具体的にどこがどうおかしいとは説明できないのだが、どうも昨日から宮司の様子がいつもとは違う気がしている。
僕の言葉に、倫之くんは「あー……」と困ったような声を上げた。

「すいません、大叔父さんが部屋に引き上げたのは、僕が中芝さんと色々話がしてみたいって言ったからなんです。
 跡継ぎのこととか自分がいると話しにくいこともあるだろうから、席を外しておくと言ってくれて……」
「あ、そうなんだ」

倫之くんの話を聞いて、僕は納得した。
よく考えてみたら昼間の宮司の様子がおかしかったのも、倫之くんが跡を継いでくれるかどうか不安でそわそわしているだけなのかもしれない。

「なら大丈夫かな。
 けど一応は夜寝る時にちょっと気をつけて見てあげてね」
「はい」
「それで、僕と話がしたいんだったね。
 何か聞きたいことでもある?」
「あ、はい。
 えーと、中芝さんはどうして神主になったんですか?」
「あー、うーん、それかぁ……」

倫之くんの質問に、僕は口ごもる。

「ちなみに倫之くんは?
 養子の話が出たから神主をやってみようと思ったの?」
「いえ、それもあるんですけど、実は僕、これからもずっと歴史の研究をしていきたいと思ってるんですが、それを仕事にしていくのは難しいので、どうしようか悩んでいて」

倫之くんの話に、僕はうなずく。
歴史研究を仕事にしようと思ったら、大学の先生か学芸員か歴史関係の番組や本の制作に携わるくらいしかないだろうが、そのどれもが狭き門だろう。

「それで大叔父さんに相談したら、神社は暇な時間が多いから、その間は自分の好きな研究ができるよ、だから神主兼、在野の研究者になればいいんじゃないかって言ってくれたんです。
 僕は発掘とかじゃなくて文献の研究の方をやりたくて、それなら机があればどこでも研究できるので、それもいいかなって思って」
「なるほどね。
 それは確かにそうだね。
 神社って、正月とか忙しい時はめちゃくちゃ忙しいけど、暇な時は昨日今日みたいにすごく暇だから」
「それで、中芝さんはどうなんですか?」
「僕? うーん、僕はね……」

ここで、いつも用意している『親戚が神主をやっていて興味を持って』という、たてまえの理由を言ってしまうのは簡単だ。
しかし、倫之くんの真剣な目を見ていると、それでごまかしてはいけないような気がした。

「僕はちょっと特殊だから、あまり参考にならないと思うけど」

そう前置きしてから、僕はほとんど誰にも話したことのない、自分が神職になった理由を話し始めた。

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