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俺たちの流れ

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「…………ご、ゴブくん?」
「そうですよ。本当に問題を一人で抱え込まないでくださいよ。人に迷惑をかけるのが得意なのが主でしょう?」

 俺がゆっくりと深淵から目を覚ますとそこには俺の意識を引き起こしてくれた本人であるゴブくんがいた。
 これも夢なのだろうか。現実ではないのだろうか。

「ここは…………」
「主が倒れていたところから数キロ離れた草原地帯です」

 ゴブくんがここまで運んできたのだろう。
 しかし、現状が全く理解できない。
 俺の傷だらけの身体は完全に癒えていた。アンチマジックエリア外に出たのだろう。

「嫌な予感がしたので来ましたがまさかここまでの事態になっているとは」

 ゴブくんが苦笑いしながら言う。
 それに続くように、

「本当にぶっ飛んだ後輩だぜ」
「後輩の責任は私たちの責任でもありますからね」
「そうなの。アレンがいない間の学園は面白くなかったの。早く帰ってきてほしいの」

「な、なんで先輩たちまでこんなところに…………」

 ゴブくんの背後に笑顔を向けてくる先輩たちが視界に入った。
 グレーは俺の問いに苦笑いしながら答える。

「そりゃあこんな状態を交配一人に任せるわけにはいかないだろ? お前の責任は俺たちの責任だ。一人で抱え込むな…………それとリーシャさんのことだが」
「リーシャに何かあったの!?」

 寝かされた俺は飛び起きるようにその場に立つ。
 自分でもこれほどの力が出るのは恥ずかしいが、やはり愛の力とでもいうのだろうか。

「大丈夫だよぉ。私も何とか生きてるぅ」

 背後を振り返ると俺と同じようにリーシャは寝かされていた。その後ろにはたくさんの獣人たちと兄も寝かされている。
 俺はホッとして正面を向き直るとグレーは満面の笑みで言った。

「まじであんな女性と付き合えるなんて羨ましすぎる。学園に帰ったら五十回は殺す!」
「…………あ」

 終わった。と俺は心の中で思う。
 ゴブくんやリーシャは冗談だと思っているだろうが、俺やサテラ、ミーナは知っている。グレーが余裕で有言実行することを。

 ってかこんな話をしている余裕は俺たちにはないのだ。
 今にでも何十万人もの獣人が殺戮をしているはずである。

「…………あ! 獣人たちがまだ――」
「安心してください。そちらに関しては主の左腕が向かいました。ちなみに僕が右腕ですからね?」
「…………左腕?」

 ゴブくんは笑いながら特に問題視していないかのように答える。
 俺がいなければ標的が俺から人間や魔族に移るはずだ。それは絶対に俺が避けたかった未来である。

 しかし、そんな俺の避けたかった未来はどうやら絶対に来ないようだ。

「じゃあ戦場に戻りましょうか。君たちはリーシャさんと他の獣人たちの保護をお願いします」
「「「分かりました」」」

 ゴブくんは先生らしく生徒たちである先輩たちに向かって命令を出した。
 この場合俺はゴブくんを先生と見るべきなのだろうか。それとも配下のままでいいのだろうか。
 う~ん。難しいところである。

「主。お手を」
「…………え? 何をする気?」

 ゴブくんは俺に手を差し出すように要求してくる。
 だが、何をする気なのだろうか。ゴブくんは空間魔法系統は使えなかったはずだ。
 ただ手を握りたい、なんてこともないはずである。

 俺は渋々ゴブくんの手を握る。
 すると、ゴブくんはにんまりと笑みを浮かべてから詠唱を始めた。

「空間の加護のもとに…………」
「…………は?」

 急にゴブくんが使えもしない空間魔法の詠唱を始めたため俺は目を丸くして驚いてしまう。
 すると、そんな俺を見てサテラが教えてくれた。

「先生はアレンがいない間に必死に努力して、二段階…………準魔王級にまで進化したのよ」
「…………へ?」
「今では緑悪王ゴブリンロードになっているわ」
「お、王?」

 何の冗談だ? 半年で二段階も進化? それも準魔王級に?
 準魔王級と言えばリーシャやドラと同じ次元。種族の極致に辿り着くようなものだ。

 リーシャやドラ、寝ている獣人たちは俺の権能により進化したため、準魔王級に進化することが出来た。
 だが、努力でそこに辿り着くなどほぼ不可能なのである。
 それを最弱種族と言われていた小鬼族ゴブリンがやってのけるなど偉業にもほどがあるのだ。

「…………マジで?」

 俺は詠唱をしているゴブくんの方に視線を移す。
 するとゴブくんは詠唱をしながらもドヤ顔を見せてきた。
 
「…………【テレポート】!」

 それもつかの間。俺たちの視界はすぐに真っ暗に染まったのだった。
 
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