上 下
71 / 142

けめはめ波

しおりを挟む
「二人とも! 少し時間稼げる?」

 俺が離れている二人に聞こえるような大きな声で言った。
 すると、二人とも辛そうな表情から一変、こちらを振り向きながら無理矢理に笑顔を作って頷く。

「はい! お任せください!」
「当たり前だろうが! 俺に任せとけ!」

 先ほどまで肩で呼吸をしていたにもかかわらず、二人は声を荒げながらランドロフに向かって突進した。
 あの勢いならあれほどの実力差があったとしても数分は稼げるだろう。


 俺はその隙に、脳の片隅にある記憶を引きずり起こす。

 あれは、俺が日課であるアニメを見ていた時だ。
 どんな窮地に陥ったとしてもアニメの主人公は必殺技を使うことでその立場を逆転することが出来る。 
 そのことを学んだ俺は、一つのアニメの必殺技を見て、俺も使えるのではなかろうかと思ったことがあった。

「……………………あッ! あれだ!」

 俺はその名を思い出すことに成功し、一人でガッツポーズをする。

 そう。その必殺の名は、『けめはめ波』だ。

 それは自分の手からどんな障壁も相殺し、相手に決定的な致命傷を与えることの出来る光線を出す必殺技である。
 最初の頃は俺は空間魔法以外の魔法が使えないため、諦めて、一人悲しんでいたものだ。だって、必殺技なんて男のロマンだろ?

 そのため、俺は諦めることが出来ず、グレードたちを配下にしたときから毎日、ひたすら試行錯誤していた。

 そして、つい最近、完成したのだ。

「……………………ふぅ」

 俺は一度、深呼吸をしてから全身の乱れている魔力を統制させる。
 この魔法は今まで使うどの魔法よりも扱いが難しく、失敗する可能性が高い。
 正直に言うと今まで一回も成功したことがない。
 もし、この状況で一回でも失敗してしまえば、俺たちの負けだ。

「……………………ふぅ……はぁ」

 俺は両手を広げ統制された魔力を右手と左手に集中させる。
 次に、その両手を上下合わせ、花のような形を作った。
 最後に、その両手を右腰に溜めるようにして引く。

 そして、俺は的であるランドロフに視線を移した。

「雷の加護のもとに…………【雷鎖】!」
「風の加護のもとに…………【風鎖】!」

 ラークとグレードは双方から拘束魔法をランドロフに向けて放つ。
 その瞬間、ラークは空中維持をすることが出来なくなり垂直落下。グレードも同じように気力切れでうつ伏せになって地面に倒れた。
 二人とも全力を尽くしてくれたのだろう。全身から血が流れており、疲弊感が見ているだけでも感じてしまいそうになる。

 そして最後に死力を尽くして放った魔法は、

「ちッ! 邪魔くさいな!」

 ランドロフに的中したようで、雷で出来た鎖と風で出来た鎖がランドロフの行動を封じている。
 しかし、それでもちょっとずつひびが入っているように見えた。
 時間をかけてしまえばすぐに抵抗レジストされるだろう。

「……………………流石、あの二人だね」

 俺はその隙を逃さないように腰を低くし、魔力を手のうちに凝縮させた。
 そして、その魔力は俺の手の中で渦巻いており、一瞬でも気を抜けばその魔力は空中に雲散するだろう。

「…………はッ! 所詮子供の魔法! 限界リミッター突破している俺に効くわけがないだろ!」

 俺とランドロフまでの距離は五百メートルぐらい離れている。
 そこまで届かせるために今、俺はけめはめ波の構えをキープしたまま魔力を溜めに溜めまくっている。
 そして、

「…………よし! いきます!」

 俺の全魔力を手の中に凝縮させると、少し神々しい銀色の玉が出来た。

 すると、完成した途端、聞こえていた雑音や騒音が一切聞こえなくなる。
 これが集中するということなのだろう。
 前方を見るとランドロフが挑戦的な表情をして待ち構えていた。

 俺はその様子を見てにんまりと口角を上げ、あのアニメの主人公と同じように全魔力を放出する。

「あッはッは! どんな魔法も俺には――」
「…………【次元空間圧縮砲アトミックキャノン】!」
「……………………は、はいッ!?」

 俺はその玉をランドロフに向けて押し出すようにしながら吠えた。
 すると、俺の手の中から眩い光が溢れだし…………
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されましたが婚約期間10年で相手家族全員の信頼を勝ち得てたので捨てられたのは婚約者の方でした。元サヤはありません。廃嫡されましたから

竹井ゴールド
恋愛
 婚約破棄された伯爵令嬢は卒業パーティーを出たその足で元婚約者の侯爵家の屋敷に最後の挨拶へと出向く。  だが、そこで伯爵令嬢が婚約破棄10年間で勝ち得た信頼が物を言い、新たな婚約が結ばれる事となった。  そうとは知らず卒業パーティーを呑気に楽しんで侯爵邸に戻った元婚約者は。 【2022/9/10、出版申請、9/28、慰めメール】 【2022/9/13、24hポイント1万8500pt突破】 【2023/3/18、しおり数110突破】

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

言い訳は結構ですよ? 全て見ていましたから。

紗綺
恋愛
私の婚約者は別の女性を好いている。 学園内のこととはいえ、複数の男性を侍らす女性の取り巻きになるなんて名が泣いているわよ? 婚約は破棄します。これは両家でもう決まったことですから。 邪魔な婚約者をサクッと婚約破棄して、かねてから用意していた相手と婚約を結びます。 新しい婚約者は私にとって理想の相手。 私の邪魔をしないという点が素晴らしい。 でもべた惚れしてたとか聞いてないわ。 都合の良い相手でいいなんて……、おかしな人ね。 ◆本編 5話  ◆番外編 2話  番外編1話はちょっと暗めのお話です。 入学初日の婚約破棄~の原型はこんな感じでした。 もったいないのでこちらも投稿してしまいます。 また少し違う男装(?)令嬢を楽しんでもらえたら嬉しいです。

【完結】拗らせ王子と意地悪な婚約者

たまこ
恋愛
 第二王子レイナルドはその見た目から酷く恐れられていた。人を信じられなくなってしまった彼の婚約者になったのは……。 ※恋愛小説大賞エントリー作品です。

王室の醜聞に巻き込まれるのはごめんです。浮気者の殿下とはお別れします。

あお
恋愛
8歳の時、第二王子の婚約者に選ばれたアリーナだが、15歳になって王立学園に入学するまで第二王子に会うことがなかった。 会えなくても交流をしたいと思って出した手紙の返事は従者の代筆。内容も本人が書いたとは思えない。 それでも王立学園に入学したら第二王子との仲を深めようとしていた矢先。 第二王子の浮気が発覚した。 この国の王室は女癖の悪さには定評がある。 学生時代に婚約破棄され貴族令嬢としての人生が終わった女性も数知れず。 蒼白になったアリーナは、父に相談して婚約を白紙に戻してもらった。 しかし騒ぎは第二王子の浮気にとどまらない。 友人のミルシテイン子爵令嬢の婚約者も第二王子の浮気相手に誘惑されたと聞いて、友人5人と魔導士のクライスを巻き込んで、子爵令嬢の婚約者を助け出す。 全14話。 番外編2話。第二王子ルーカスのざまぁ?とヤンデレ化。 タイトル変更しました。 前タイトルは「会ってすぐに殿下が浮気なんて?! 王室の醜聞に巻き込まれると公爵令嬢としての人生が終わる。婚約破棄? 解消? ともかく縁を切らなくちゃ!」。

遺言による望まない婚約を解消した次は契約結婚です

しゃーりん
恋愛
遺言により従兄ディランと婚約しているクラリス。 クラリスを嫌っているディランは愛人に子を産ませてクラリスの伯爵家の跡継ぎにするつもりだ。 どうにか婚約解消できないかと考えているクラリスに手を差し伸べる者。 しかし、婚約解消の対価は契約結婚だった。 自分の幸せと伯爵家のために最善を考える令嬢のお話です。

もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!

をち。
BL
公爵家の3男として生まれた俺は、家族からうとまれていた。 母が俺を産んだせいで命を落としたからだそうだ。 俺は生まれつき魔力が多い。 魔力が多い子供を産むのは命がけだという。 父も兄弟も、お腹の子を諦めるよう母を説得したらしい。 それでも母は俺を庇った。 そして…母の命と引き換えに俺が生まれた、というわけである。 こうして生を受けた俺を待っていたのは、家族からの精神的な虐待だった。 父親からは居ないものとして扱われ、兄たちには敵意を向けられ…。 最低限の食事や世話のみで、物置のような部屋に放置されていたのである。 後に、ある人物の悪意の介在せいだったと分かったのだが。その時の俺には分からなかった。 1人ぼっちの部屋には、時折兄弟が来た。 「お母様を返してよ」 言葉の中身はよくわからなかったが、自分に向けられる敵意と憎しみは感じた。 ただ悲しかった。辛かった。 だれでもいいから、 暖かな目で、優しい声で俺に話しかけて欲しい。 ただそれだけを願って毎日を過ごした。 物ごごろがつき1人で歩けるようになると、俺はひとりで部屋から出て 屋敷の中をうろついた。 だれか俺に優しくしてくれる人がいるかもしれないと思ったのだ。 召使やらに話しかけてみたが、みな俺をいないものとして扱った。 それでも、みんなの会話を聞いたりやりとりを見たりして、俺は言葉を覚えた。 そして遂に自分のおかれた厳しい状況を…理解してしまったのである。 母の元侍女だという女の人が、教えてくれたのだ。 俺は「いらない子」なのだと。 (ぼくはかあさまをころしてうまれたんだ。 だから、みんなぼくのことがきらいなんだ。 だから、みんなぼくのことをにくんでいるんだ。 ぼくは「いらないこ」だった。 ぼくがあいされることはないんだ。) わずかに縋っていた希望が打ち砕かれ、絶望しサフィ心は砕けはじめた。 そしてそんなサフィを救うため、前世の俺「須藤卓也」の記憶が蘇ったのである。 「いやいや、俺が悪いんじゃなくね?」 公爵や兄たちが後悔した時にはもう遅い。 俺は今の家族を捨て、新たな家族と仲間を選んだのだ。 ★注意★ ご都合主義です。基本的にチート溺愛です。ざまぁは軽め。みんな主人公は激甘です。みんな幸せになります。 ひたすら主人公かわいいです。 苦手な方はそっ閉じを! 憎まれ3男の無双! 初投稿です。細かな矛盾などはお許しを… 感想など、コメント頂ければ作者モチベが上がりますw

【完結】巻き戻してとお願いしたつもりだったのに、転生?そんなの頼んでないのですが

金峯蓮華
恋愛
 神様! こき使うばかりで私にご褒美はないの! 私、色々がんばったのに、こんな仕打ちはないんじゃない?   生き返らせなさいよ! 奇跡とやらを起こしなさいよ! 神様! 聞いているの?  成り行きで仕方なく女王になり、殺されてしまったエデルガルトは神に時戻し望んだが、何故か弟の娘に生まれ変わってしまった。    しかもエデルガルトとしての記憶を持ったまま。自分の死後、国王になった頼りない弟を見てイライラがつのるエデルガルト。今度は女王ではなく、普通の幸せを手に入れることができるのか? 独自の世界観のご都合主義の緩いお話です。

処理中です...