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初めてをいただきます

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「あれぇ。これなのぉ」
「…………これって。本当に体液なわけが――」

 俺の言葉を遮るようにリーシャは真っ赤な唇を俺の唇に重ねる。
 俺はその衝撃を忘れ、一瞬で脳が溶けてしまうような感覚に陥った。
 すぐにでも気を緩めれば一瞬で意識が、いや違う。何か強固に締められていた檻が外れる。

 すると、リーシャは無理矢理何か温かいものを俺の口内にねじ込んでくる。
 そして、口内にドロッとしたものをリーシャは舌を器用に使って差し出す。

「……………………ッ!」

 これは一年前に飲んだ飲み物と少し似ている味だった。
 そして、俺はある結論に至る。

(まさか……………………あれが唾液⁉)

 その俺の様子を確認したリーシャは唇を放し、俺を拘束するように腹の上に座った。

 本気を出したら逃げられるだろうか。
 それは否だ。準魔王級となると女性でも力はとてつもなく強い。
 俺が抵抗したところで何も出来ないだろう。

「今回はどんな味がしたのぉ?」
「ゼンカイヨリ、アマイサトウミズデス」

 俺は現状が全く理解できておらず、唇に残る余韻が俺の脳を狂わせようとしている。
 俺は片言の言葉でそう正直に答えた。
 すると、リーシャは本当に嬉しそうな表情になる。

「やっぱりぃ! 私とアレンは相性がいいんだよぉ!」
「ドウイウコトデショウカ?」
「蝙蝠系統の魔族の唾液は相手との相性がいいほどおいしく感じるんだよぉ。だから私言ったよねぇ? アレンのことが好きだってぇ」

 すみません。内容が全く入ってきません。

 これは俺の心臓の音だろうか。
 ドクドクと心臓が跳ねる音が二人の間に響き渡る。
 
「アレンはいつ答えてくれるのぉ? 私、アレンと結婚できるのずっと待ってるんだよぉ?」
「いや、俺はまだ十三歳の少年でして…………結婚するなどの行為は少し早いかと……………………」

 俺が視線をそらして苦笑いしながら言うと、リーシャは少しすねたような表情になる。
 そして、何か閃いたのか急にリーシャはパッと表情を明るくした。

「じゃあ初めてはもらっていいかなぁ?」
「……………………ん? 初めてってナンデショウカ?」

 俺は背筋が凍るような気分になった。
 これは後戻りできないやつだと、直感で理解する。

 逃げるように足をじたばたするもリーシャの拘束は固く抜け出せる気がしない。

「じゃあ…………いただきますぅ!」
「や、やめ――」

 リーシャは歪なほどに口角を上げ、俺の顔もとに自分の顔をゆっくりと近づけてくる。
 そして…………

 カプリッ!

「……………………あ」

 俺の首元にリーシャはゆっくりとかぶりついた。
 そして、徐々に俺の血を吸い始める。

(そういうことか…………)

 蝙蝠族で血を吸うのは常識だったはずだ。
 相性というのは血のおいしさだったりするのだろう。

 俺は一瞬で冷静を取り戻す。
 なんかドキドキした俺が馬鹿だったみたいではないか。
 そんなことを考えていると急に部屋の扉が開いた。

 ドンッ! 

「おーい! アレン! 用事ってなん……………………おっとすまない。お取込み中だったか」

 バタッ

 笑顔で入ってきたグレーが俺たちを見ると一瞬だけ驚いて固まったが、すぐに申し訳なさそうな表情で足早にドアを閉め、どこかへ去っていった。

「あぁ。美味しかったぁ!」

 こちらはこちらで満面の笑みで俺の血を美味しそうに飲み終わり、満足げな表情で俺の上から退く。

(え? 絶対勘違いされてるよね? 俺も一瞬しかけたからしょうがないんだけれど)

 冗談なしで本当に今日の夜は長くなりそうです。
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