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次男、誤った道へ

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「落ちこぼれのアレンくせに! 調子に乗りやがって!」

 俺の名はリンク。
 あの次期族長とうたわれるキール兄様の弟だ。そして、族内一の落ちこぼれ、アレンの兄でもある。
 
 俺はいつものように魔大陸ディルガイナとの境界線の警備をしていた。
 アレンの契約の儀式が本日であるのは知っていたが、所詮あのアレンだ。
 契約なんて出来るはずがないだろう。そう思っていた。

 そしてその報告を聞いたときは声を上げて驚いたものだ。
 あのアレンが忌み子であるなんて。

 忌み子がいる年は巨大な厄災が訪れる。そう言い伝えられている。
 なので、うちの一族は誰がどんなであれ、忌み子なら即追放。そう決まっているのだ。

 俺はアレンのことを思い返すだけで無性に腹がたった。
 なので上を向いて別のことを考えることにする。

 ちなみに今は集落に帰っている途中。
 いつもならヴァッファローのモーに乗ってすぐに帰れるのだが、アレンのせいで疲弊してるため今日は徒歩だ。

 そして暗闇の中一人歩き続けて三十分が経った。

 一向にあの巨大な集落が見当たる様子がない。
 本当ならもう、辿り着いてもいい頃あいだと思うのに。
 そんなことを考えていると、

「…………うっ」

 急に何か焦げ臭いような生臭いにおいが漂ってくる。
 そして、俺は鼻を押さえながら歩いていると何か柔らかいものを踏んでしまった。

 グチュッ

「……………ん? 何だこれ?」

 俺はその柔らかい感触の方へと視線を向け――

「あああああああああああぁぁぁ!」

 そこには元人間だったもの・・がいた。
 これは俺の叔母にあたる『サルシィ』だ。

 俺はそのまま驚き、その場に尻もちをついてしまう。
 そして、気づいた。

 この荒れ地は俺の村があった場所だと。

「…………どういう…………ことだ?」

 僕は手にべっとりとついた血を視認しながらゆっくりと立ち上がる。

 そして目を見開くと、暗闇に曇る目が少しずつ開眼し始めた。
 すると、見えていなかったものが見え始める。

「……………………なッ!」

 巨大な我がテイマーの一族の集落は跡形もなくなっていた。
 住居は全て燃やされ塵しか残っていない。
 また、それと同時に家族たちが燃やされているのが分かる。

 俺みたいな馬鹿でも分かる。何かに襲撃されたのだ。

 ドクドクドク!

 高速で鳴り続ける心臓の音を抑えようとしながら俺はゆっくりと足を進めた。




「……………………」

 歩むにつれて、死体死体死体。

 この時の俺にはもう、感情がなくなっていた。
 何を見ても何を聞いても何を匂っても、何も感じない。
 そう。脳が麻痺してしまっていたのだ。

 そして、辿り着いた。族長の間に。
 そこには五つの死体と一体、いや、一人の獣がいた。

「…………お前が……いや違うか」

 その獣、いや獣人というべきだろう。
 獣人は俺の父、母、そして族長の目の前に跪き、涙を流していた。
 その背中からは後悔の念が伝わってくる。

「……何があったんだ?」

 自分でも、何故ここまで感情が落ち着いているのか驚いてしまう。
 俺はそう聞くと体を赤く染めた白虎の獣が嗚咽交じりに言った。

「……ううッ…………少し前に……魔族と人間がこの集落を……うう…………」
「それで、そいつらは何処に行ったんだ?」
「俺がかけ参じた時には…………もう遅かったっす…………何人かは敵を討てたものの…………全員を殺すことは……………………」

 ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 白虎は地面を何度も叩きその悔しさをあらわにする。
 族長が隠していた獣だったりするのだろうか。
 俺では手も足も出ない強種。そう直感で分かった。

「…………君の名前は? 俺はリンク」
「俺はタガ。白虎族の獣人っす」

 俺は淡々と家族の前に膝をつき両手を合わせる。

 心の奥に怒り、悲しみなど全ての感情を押し殺して。
 そして、その感情をいつか爆発的に発散するために。

 その隣で俺と同じようにタガも血で染まった手で手を合わせた。

 そして、数分後――

「リンクさん。一度獣人の国に来てみませんか? あなたはもう…………帰るところがないでしょ?」
「それより前に一つ聞かせてくれ」
「…………何です?」

 タガは少し不思議そうに俺を見てくる。
 俺はほんのり少しだけ口角を上げて口を開いた。

「俺がこの世の魔族と人間を…………皆殺しにするって言ったら付き合ってくれるか?」
「……………………」

 その問いにタガは一瞬固まった。
 それはそうだろう。自分でも何を言っているのか分からない。

 でも、俺にはもうこの世に守るものもないし、生きる理由もない。
 家族たちは全員死に、集落は跡形もない。
 俺にはもう何もないのだ。

 ならもう、全てを破壊してみよう。そんな考えに陥っていた。
 自然に考えてそうなったのか。それとも誰かに印象操作されてそうなったのか。
 しかし、今の俺にはどうでもいい。
 俺はただただ、もう全てを破壊してやりたい。

 普通なら頭がおかしい奴だと思うだろう。

 しかし、

「アッハッハッハ! 当たり前じゃないっすか! 族長の敵かたき一緒に取りましょうよ!」
「…………ありがとう」

 一瞬、その反応に驚いたものの、俺はにんまりと口角を上げる。
 俺は立っているタガに差し伸べられた手を強く握って立ち上がった。
 そして、俺は心の底に誓う。

(何があっても………家族のかたきはとってみせる)

 今、俺の目の前にその敵がいることなんて知らずに。



***********************

 こうしてエリートであるテイマー一族はこの日に歴史から消滅する。
 そして、その生き残りである三人兄弟は全く別々の道を歩み始めた。
 その道が、正解なのか不正解なのか、自分たちも理解出来ていないままに………………
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