上 下
35 / 142

長男キールの過去

しおりを挟む
 僕は昔、生きる意味を見失っていた。

『流石私の子! 神童だわ!』
『次期族長は絶対にキールくんだな!』
『もう、キールには勝てねぇわ』

 僕は幼い頃から天才や神童、かのこのテイマー一族を生み出した伝説のテイマーの生まれ変わりなどともてはやされた。
 そりゃあ最初は嬉しかった。
 でも、それからは苦痛でしかなかった。

 初めて獣と契約した時は僕だけ特例で五歳のころ。
 今でもはっきりと覚えている。僕を利用しようと考えていた大人たちの汚い目を。
 六歳で二体も獣を従え、契約魔法のほぼ全てを覚えた。
 そこからは僕の行動一つ一つが偉業としてとられる。


 そんな時、弟が生まれてくる。そう両親に言われた。
 僕は嬉しかった。やっと、この苦痛が終わる。そう喜んでいたんだ。

 しかし、そう現実は上手くいかない。

 生まれた七歳年下の弟、リンクは平凡な子だった。
 普通の子のように成長し、自由気ままに遊び、ぬくぬくと人生を送る。

 だから、僕はそこまでリンクのことが好きではない。
 実際リンクは神童の弟、として期待されていたのが重みになっていたかもしれないが、その頃の僕は子供だったため、そこまで気を利かせる余裕はなかった。

 そして、僕が十三歳のころ、また、新たな弟が出来ると、両親に聞かされる。
 もうこのころの僕が見る景色は全て灰色だった。
 毎日毎日褒められ、敬われ、同世代の子たちにも友達としてではなく、次代の族長として扱われる。
 これほど残酷なことはない。

 新たに生まれた三男の弟、アレンは落ちこぼれだった。
 どれだけ僕は運がないのだろう。
 もう、死んでしまおうかと迷ったぐらい生きる理由を見失っていた。
 しかし、

『兄にぃ! 見てこれ!』

 あれはアレンが四歳のころ。
 今はもう記憶はないだろうが、アレンは満面の笑みで僕にプレゼントを持ってきた。

『これは…………魔物の卵か⁉』

 僕はそう気づいた瞬間、急いで集落の外に捨てに行った。
 弟が忌み子だなんて信じられるはずがない。
 しかし、

『兄にぃ! また、これ家の前にあったよ』

 今でのあの衝撃は覚えている。

 アレンはその魔物の卵と契約をしていたのだ。
 
 だから何度捨てても元に戻ってきた。
 その時の僕は魔物は獣に劣る。だから幼い落ちこぼれのアレンでも契約できたのだろう。そう考えていた。
 なので、僕は試しに、集落の外でたまたま見つけた魔物に契約魔法をかけてみた。

『…………あれっ?』

 僕が契約魔法を行使しようとした瞬間、僕は気を失ってしまう。
 あの時は契約獣が守ってくれたから生き延びれたものの、実際、魔物の前で気を失うなど間一髪だった。

 そして僕は、一週間意識不明の状態が続いた。
 王都の宮廷治癒士が僕を治してくれたため生きることが出来たのだ。

 症状は魔力欠乏症。
 僕は治癒士に頼んで、ただの体調不良ということにしてもらったので誰も知らない。
 本当は魔物と契約しようとしたことで、僕の膨大にあったはずの魔力が一瞬でなくなったのだ。

 目を覚ました時、僕は大いに家族と抱き合って喜んだ。
 家族は僕が生きていることに喜んだと思っているだろうが、僕はアレンという弟に歓喜していたのだ。

 僕はアレンという目標を見つけた。
 あれは神童でも天才でも忌み子でもない。
 僕をも超える化け物だ。

 これほど嬉しいことはない。
 誰も理解できなくても、誰も理解しようとしなくても僕だけは知っている。
 
 この瞬間、アレンは僕の目標になった。
 どれだけ努力しても追いつけそうにない高い壁。
 いつも灰色だった僕の景色は色を取り戻したのだ。

 毎日必死になって勉学に励み、修練に励み、そしてそれをアレンに教えた。
 するとアレンは僕よりもっと上の段階を歩み始める。

 もう楽しくて仕方がなかった! 僕より上の存在がいることが!

 アレン、そして、そのことを理解してくれるシャルロッテは僕にとって本当の支えになっていたのだ。

 まぁ結局、僕は自分のために行動もする酷い兄ちゃんである。

 でも……それでも僕が行動する一番の理由は別だ。
 それは、ただ単に僕の可愛い弟が僕みたいに孤独になってほしくないだけ。

 無邪気でいつも明るく振舞っているアレンに出来るだけ孤独感を与えない。
 僕を孤独から救ってくれた恩人である大切な弟を同じような目に合わせない。
 
 それが僕の行動の理由であり、存在意義でもある。

 だから僕は………………………………こんなところで止まってはならない!

「ふ……ふざけるなぁぁぁぁ!」

 僕は腹の底から雄たけびを上げて立ち上がった。
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

その最弱冒険者、実は査定不能の規格外~カースト最底辺のG級冒険者ですが、実力を知った周りの人たちが俺を放っておいてくれません~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
※おかげさまでコミカライズが決定致しました!  時は魔法適正を査定することによって冒険者ランクが決まっていた時代。  冒険者である少年ランスはたった一人の魔法適正Gの最弱冒険者としてギルドでは逆の意味で有名人だった。なのでランスはパーティーにも誘われず、常に一人でクエストをこなし、ひっそりと冒険者をやっていた。    実はあまりの魔力数値に測定不可能だったということを知らずに。  しかしある日のこと。ランスはある少女を偶然助けたことで、魔法を教えてほしいと頼まれる。自分の力に無自覚だったランスは困惑するが、この出来事こそ彼の伝説の始まりだった。 「是非とも我がパーティーに!」 「我が貴族家の護衛魔術師にならぬか!?」  彼の真の実力を知り、次第にランスの周りには色々な人たちが。  そしてどんどんと広がっている波紋。  もちろん、ランスにはそれを止められるわけもなく……。  彼はG級冒険者でありながらいつしかとんでもない地位になっていく。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

処理中です...