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長男の行動
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「シャル…………本当に僕の愚行に付き添わせてすまない」
「そんな自分を卑下しないでください。普通に考えて幼い子供を村の外に捨てるなど常識ではありません」
僕、キールは自分の契約獣『白馬』のロイに妻のシャルロッテとまたがり、父上の契約獣であるユニコーンのラッタの足跡を追跡している。
「…………でも流石に見殺しはくるものがあるな」
僕は独り言のように妻に聞こえないような声で言った。
僕の隣を逆走するように、今も何百もの獣たちが集落に向かって進行している。
そして後ろを振り返ると暗闇の中に一つ、月と並ぶほど光っている場所があった。
そう。今まで二五年間世話になった集落から火の気が上がっていたのだ。
(…………それでも、僕はアレンを救いに行く方が大切だ)
人殺しの集落と可愛い弟、片方しか救えないならどちらをとるだろう。
僕なら躊躇なく弟をとる。
毎日、無駄な時間を謳歌して、暗闇に沈んでいた僕を救ってくれた可愛い自慢の救世主なのだから。
そうして夜の暗闇の中、涼しい風を浴びながらラッタを追跡すること数十分――
その瞬間は唐突に訪れた。
「…………………なッ!」
急に右方向から強烈な衝撃が伝わり、僕たちは落馬してしまう。
衝動でズキズキと痛む頭を押さえながらゆっくりと僕は目を開けた。
そして、その光景を見て俺は呆けた声を出してしまう。
「…………は?」
そこには一つの死体があった。
そう。僕の契約獣であったロイだ。
横腹がえぐられており、そこから内臓が地面にぶちまけられている。
一瞬で絶命したのだろう。何の声も聞こえなかった。
「いやぁ。まさか混乱に乗じて逃げる奴がいるとはねぇ? 思いもしなかったよ」
右腕を真っ赤に染めた魔族、いや、獣の人型が頭をかきながら言った。
そいつから発せられるとてつもないオーラに体の臓器全てが絞られるような錯覚に陥る。
「…………は! シャル!」
僕は急いで一緒に落馬してしまったはずのシャルロッテの方へと振りかえる。
しかし、そこには誰もいなかった。
「シャル? この娘のこと?」
その獣の人型はシャルの首根っこを掴み持ち上げながらそう言った。
いつの間にシャルロッテを捕らえたのだろう。
その行動を見ることが出来なかった。
見た目は蜥蜴に近いだろうか。
頑丈そうな鱗につり目の鋭い目つき、まるで魔族の蜥蜴族をほうふつとさせる容姿だ。
しかし、魔族特有の角が生えていない。
魔族は必ず、どれだけ小さくても角が生えている種族である。
「シャル! おい! 貴様シャルをどうするつもりだ!」
僕はすぐに立ち上がり腰に差していた長剣を抜刀し、そのまま切りかかる。
しかし、
「いやぁ。活気盛んですねぇ…………こんな感じはどうでしょう?」
軽々と避けられ、その男は僕から距離をとった。
すると軽く、拘束程度に掴んでいたシャルロッテの首に徐々に力が入り始める。
「…………ぐっ……う……うッ……」
シャルロッテは表情を歪めながら悶えている。
その隣で男はシャルロッテとは正反対の歪な笑みを浮かべた。
「本当は今までお前たち人間が俺たちにしてきたみたいに契約魔法で奴隷にしてやってもいいんですよぉ?」
「…………ふざけるなぁ! 【召喚】! 灰色狼。フィフス!」
僕は親指を噛み、そこから出た血を地面に撒き捨てる。
すると、そこから五体の立派な大人の灰色狼が召喚された。
子供の頃から契約していた獣で、その頃は何ともなかったが、大人になり、力を持ち始めてからは、俺の許容を超えてしまった。
なので、こうして媒体として少量の血を使用しなければならない。
「お前たち! あいつを嚙み殺せ!」
「「「「「ワンッ!」」」」」
僕の呼びかけに応じるように五体の灰色狼が地を疾走する。
そして、目の前の醜い敵に向かって獰猛な歯を向ける。
「はぁ。俺は獣人だよ? そんな零段階の能無しに俺の敵が務まるはずがないよねぇ」
獲物に食らいつくように攻撃を仕掛けた灰色狼たちだが、獣人と名乗る男はため息をつきながらそう言った。
その瞬間にも離れていた獣人との距離が縮まっていく。
(絶対殺してやる)
僕はその光景を自分の怒りを鎮め、落ち着きながら見届ける。
灰色狼は個体は他の獣には劣るものの、群れを成すととてつもない力を発揮する。
現族長の契約獣である土蜥蜴にも勝てるほどだ。
どんな敵でも絶対に負けるはずがない。
残りの距離数メートル。完全に灰色狼の間合いだ。
しかし、僕が勝ちを確信し、安堵した瞬間。
蜥蜴のような獣人はにんまりと口角を釣り上げて一言、口を開いた。
「……………………【止まれ】」
たったその一言。
そう。そのたった一言で、
「…………なん……だと?」
五体、全ての灰色狼が獣人の目の前で腹を向けて寝転がった。
「そんな自分を卑下しないでください。普通に考えて幼い子供を村の外に捨てるなど常識ではありません」
僕、キールは自分の契約獣『白馬』のロイに妻のシャルロッテとまたがり、父上の契約獣であるユニコーンのラッタの足跡を追跡している。
「…………でも流石に見殺しはくるものがあるな」
僕は独り言のように妻に聞こえないような声で言った。
僕の隣を逆走するように、今も何百もの獣たちが集落に向かって進行している。
そして後ろを振り返ると暗闇の中に一つ、月と並ぶほど光っている場所があった。
そう。今まで二五年間世話になった集落から火の気が上がっていたのだ。
(…………それでも、僕はアレンを救いに行く方が大切だ)
人殺しの集落と可愛い弟、片方しか救えないならどちらをとるだろう。
僕なら躊躇なく弟をとる。
毎日、無駄な時間を謳歌して、暗闇に沈んでいた僕を救ってくれた可愛い自慢の救世主なのだから。
そうして夜の暗闇の中、涼しい風を浴びながらラッタを追跡すること数十分――
その瞬間は唐突に訪れた。
「…………………なッ!」
急に右方向から強烈な衝撃が伝わり、僕たちは落馬してしまう。
衝動でズキズキと痛む頭を押さえながらゆっくりと僕は目を開けた。
そして、その光景を見て俺は呆けた声を出してしまう。
「…………は?」
そこには一つの死体があった。
そう。僕の契約獣であったロイだ。
横腹がえぐられており、そこから内臓が地面にぶちまけられている。
一瞬で絶命したのだろう。何の声も聞こえなかった。
「いやぁ。まさか混乱に乗じて逃げる奴がいるとはねぇ? 思いもしなかったよ」
右腕を真っ赤に染めた魔族、いや、獣の人型が頭をかきながら言った。
そいつから発せられるとてつもないオーラに体の臓器全てが絞られるような錯覚に陥る。
「…………は! シャル!」
僕は急いで一緒に落馬してしまったはずのシャルロッテの方へと振りかえる。
しかし、そこには誰もいなかった。
「シャル? この娘のこと?」
その獣の人型はシャルの首根っこを掴み持ち上げながらそう言った。
いつの間にシャルロッテを捕らえたのだろう。
その行動を見ることが出来なかった。
見た目は蜥蜴に近いだろうか。
頑丈そうな鱗につり目の鋭い目つき、まるで魔族の蜥蜴族をほうふつとさせる容姿だ。
しかし、魔族特有の角が生えていない。
魔族は必ず、どれだけ小さくても角が生えている種族である。
「シャル! おい! 貴様シャルをどうするつもりだ!」
僕はすぐに立ち上がり腰に差していた長剣を抜刀し、そのまま切りかかる。
しかし、
「いやぁ。活気盛んですねぇ…………こんな感じはどうでしょう?」
軽々と避けられ、その男は僕から距離をとった。
すると軽く、拘束程度に掴んでいたシャルロッテの首に徐々に力が入り始める。
「…………ぐっ……う……うッ……」
シャルロッテは表情を歪めながら悶えている。
その隣で男はシャルロッテとは正反対の歪な笑みを浮かべた。
「本当は今までお前たち人間が俺たちにしてきたみたいに契約魔法で奴隷にしてやってもいいんですよぉ?」
「…………ふざけるなぁ! 【召喚】! 灰色狼。フィフス!」
僕は親指を噛み、そこから出た血を地面に撒き捨てる。
すると、そこから五体の立派な大人の灰色狼が召喚された。
子供の頃から契約していた獣で、その頃は何ともなかったが、大人になり、力を持ち始めてからは、俺の許容を超えてしまった。
なので、こうして媒体として少量の血を使用しなければならない。
「お前たち! あいつを嚙み殺せ!」
「「「「「ワンッ!」」」」」
僕の呼びかけに応じるように五体の灰色狼が地を疾走する。
そして、目の前の醜い敵に向かって獰猛な歯を向ける。
「はぁ。俺は獣人だよ? そんな零段階の能無しに俺の敵が務まるはずがないよねぇ」
獲物に食らいつくように攻撃を仕掛けた灰色狼たちだが、獣人と名乗る男はため息をつきながらそう言った。
その瞬間にも離れていた獣人との距離が縮まっていく。
(絶対殺してやる)
僕はその光景を自分の怒りを鎮め、落ち着きながら見届ける。
灰色狼は個体は他の獣には劣るものの、群れを成すととてつもない力を発揮する。
現族長の契約獣である土蜥蜴にも勝てるほどだ。
どんな敵でも絶対に負けるはずがない。
残りの距離数メートル。完全に灰色狼の間合いだ。
しかし、僕が勝ちを確信し、安堵した瞬間。
蜥蜴のような獣人はにんまりと口角を釣り上げて一言、口を開いた。
「……………………【止まれ】」
たったその一言。
そう。そのたった一言で、
「…………なん……だと?」
五体、全ての灰色狼が獣人の目の前で腹を向けて寝転がった。
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