上 下
33 / 142

自業自得の襲撃

しおりを挟む
「まさかあのクソジジイ! 【テレポート】まで使って逃げたのか⁉」
「…………そうですね、その可能性が一番大きいです」

 【テレポート】。それは空間系統の上級魔法である。当然、消費魔力量も膨大である。
 上級魔術師や宮廷魔導士、かの勇者でさえ命の危険を伴う魔法で、一生に一度しか使えないとまで言われている。
 決死の魔法と言いていいだろう。

 そんな魔法をかの博識高い先代の族長が使ったということは…………

 ドガンッ! ドガンッ!

「何だッ! 何が起きた⁉」

 二回ほど巨大な音が鳴り、まるで地震のように地が揺れた。
 そして、新たに男が一人、この部屋に息を荒げながら入ってくる。

 あの男は私の兄の『カンザス』だ。

「キールとシャルロッテが集落からいなくなりました! それと、キールの家を置き手紙があったのでそれをお届けに参りました!」

 『キール』は私の息子で『シャルロッテ』はキールの妻。私の義理の娘だ。

 キールは本当なら私が庇ってあげなければならなかったのだが、アレンのことを一族の皆がいじめていた時に唯一親身になって相談に乗ってあげていた弟思いの優しい兄だ。

「「……………………えッ」」

 私と妻は同時に素っ頓狂な声を出してしまう。
 
「…………何だとぉ⁉ どいつここいつも!」

 キールは次世代の期待の星であり、次期族長までうたわれた人間だった。
 誰からも慕われ、誰にも優しく、それはアレンにも同様である。

 深海竜ヴァスレアを従えており、海の場所でしか呼び出せないという制約はあるものの当然、あの竜種の末裔だ。そこらの獣とは格が違う存在だ。
 また、他の数十の獣を従えているため、この集落の騎士団長まで上り詰めた。

 そんな男が集落から出ていった。
 となると普通に考えて五百匹を相手するのは難しい。

「…………読ませていただきます。『俺は人殺しの族には属したくない。正直お前たちがその状況に陥ったのは自業自得だ。自分たちで何とかしろ』とのことです」
「どいつもこいつも調子に乗りやがってぇ!」

 この部屋にいる全員が怯んでしまうような声で族長は吠えた。
 隣にいる妻は体を小刻みに震わせながら顔を押さえている。
 息子の不祥事は親も罰せられる。それを妻は恐れているのだろう。

「……………………え?」

 ドスッ

 呆けた声と鈍い音が一つ、この部屋に鳴り響いた。
 私は急いでその方向に視線を移す。
 しかし、そこには一人も人間・・はいなかった。
 
「きゃああああああぁぁぁ!」

 妻が断末魔のような叫び声を上げる。
 私は急いで妻を抱きかかえるようにして近くに寄せる。

 地面にカンザスの首が転がり、胴体は首がついてあったところから鮮血がほとばしっている。
 まるで血の花。そう錯覚してしまうような勢いで舞い上がっていた。

「【召喚コール土蜥蜴つちとかげ! 侵入獣を殺せ!」

 族長は急いで魔法を行使し、竜と錯覚してしまうような巨体の蜥蜴を部屋に召喚した。
 そしてカンザスの物陰から一体、いや一人の獣が出てきた。

「ギャアアアァァ!」

 土蜥蜴は族長の命令に従い、一瞬で命を刈り取るような速さで巨大な尾を薙ぎ払うようにして叩きつけた。
 しかし、

「……………………ギャ?」
「本当に調子に乗らないでもらいたいっすよ。そんな獣風情が獣人の俺に勝てるわけないっしょ?」

 その獣人と名乗る男はまるで白虎のような容姿をしているが、まるで魔族のように的確に人語を話し、二足歩行をしている。
 そして薙ぎ払らいに飛んできた自分の身長より何倍もある巨大な尾を片手で持ち上げていた。

 それだけで分かる。このままでは殺されると。

「【召喚コール】!月隈つきぐま!」

 私は急いで自分が契約している中で一番強い獣を召喚する。
 すると私の目の前には三メートルを超える巨大な黒い熊が現れた。

「行け! 今すぐ排除しろ!」
「むだむだむだぁ!」

 こうして私たちの最後の戦いが幕を開けた。


***********************

 補充説明

 零段階 → 一段階→二段階→三段階 → 準魔王級 → 魔王級


 魔物  →   魔族   →    準魔王  → 魔王
         魔獣   → 魔獣王(八魔獣)→神魔獣
 獣   →   獣人   →    獣王   → 獣神


 人間は獣を、魔族は魔物を肉として食している。
 特に仲間意識はない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

勇者のハーレムパーティを追放された男が『実は別にヒロインが居るから気にしないで生活する』ような物語(仮)

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが 別に気にも留めていなかった。 元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、彼には時期的にやりたい事があったからだ。 リヒトのやりたかった事、それは、元勇者のレイラが奴隷オークションに出されると聞き、それに参加する事だった。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 そんな二人がどうやって生きていくか…それがテーマです。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公になれない筈の二人が主人公、そんな物語です。 最近、感想欄から『人間臭さ』について書いて下さった方がいました。 確かに自分の原点はそこの様な気がしますので書き始めました。 タイトルが実はしっくりこないので、途中で代えるかも知れません。

最強魔獣使いとなった俺、全ての魔獣の能力を使えるようになる〜最強魔獣使いになったんで元ギルドを潰してやろうと思います〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
俺は、一緒に育ってきた親友と同じギルドに所属していた。 しかしある日、親友が俺が達成したクエストを自分が達成したと偽り、全ての報酬を奪われてしまう。 それが原因で俺はギルド長を激怒させてしまい、 「無能は邪魔」 と言われて言い放たれてしまい、ギルドを追放させられた。 行く場所もなく、途方に暮れていると一匹の犬が近づいてきた。 そいつと暫く戯れた後、カロスと名付け行動を共にすることにした。 お金を稼ぐ為、俺は簡単な採取クエストを受注し、森の中でクエストを遂行していた。 だが、不運にも魔獣に遭遇してしまう。 無数の魔獣に囲まれ、俺は死を覚悟した。 その時だった。 地面を揺らし、俺の体の芯まで響いてくる何かの咆哮。 そして、その方向にいたのはーー。 これは、俺が弱者から魔獣使いとして成長していく物語である。 ※小説家になろう、カクヨミで掲載しています 現在連載中の別小説、『最強聖剣使いが魔王と手を組むのはダメですか?〜俺は魔王と手を組んで、お前らがしたことを後悔させてやるからな〜』もよろしくお願いします。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~

竹間単
ファンタジー
【勇者PTを追放されたチートなユニークスキル持ちの俺は、美少女と旅をする】 役立たずとして勇者パーティーを追放されて途方に暮れていた俺は、美少女に拾われた。 そして俺は、美少女と旅に出る。 強力すぎるユニークスキルを消す呪いのアイテムを探して――――

処理中です...