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十話 明確な力量の差

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「私は魔王幹部の一人。不屈の炎人族イフリート! 魔王様の敵手よ! 私が来たからにはもうここで終わりだと思え!」

 全身炎で構成されている人型の魔族が空中に仁王立ちして、そう言ったのだった。


 ドラはその炎人族イフリートと顔見知りのようで強張っていた身体を緩める。
 そして、ドラは元気よく手を振りながら口を開ける。

「おお! 炎人族イフリート! 俺だよ俺! 元だけど至高の龍人族ドラグニートだ!」

 しかし、そのドラの反応と反対に炎人族イフリートは眉間にしわを寄せながら大声で言う。

「そんな奴、知らん! 知ってたとしてもお前みたいに強い魔族ではない!」
「いや、俺、幹部だったんだけど…………」
「至高の龍人族ドラグニートは弱すぎて郊外に左遷されたんだよ! 魔法障壁を軽く突き破る魔族が至高の龍人族ドラグニートなわけがない! いつも至高の龍人族ドラグニートは魔法障壁にぶつかってみんなの笑いものになっていたぞ!」
「…………うッ」

 最初は自信満々に話しかけていたドラだが、精神的にダメージを食らってしまい撃沈してしまった。
 俺とゴブくんは羽毛の部屋の中でクスクスと笑う。

「そんな言い訳はもういい! さっさと死ねぇ! 【ファイアオーブ】!」

 先ほどの獄炎の玉とは比べも二にならないほど大きな獄炎の大玉オーブが空中に出現する。
 城下町にいる数万の魔族たちは空中に腕を上げて街や城に被害が出ないように魔法障壁を発動させる。
 一人一人なら小さな障壁でも数万もの魔族が協力すれば、俺たちと炎人族イフリートを囲い込む何重もの障壁となる。

「行くぞ! 地獄の業火ファイブレム!」

 ファイアオーブを媒体とし、その大玉オーブから幾つもの炎が俺たちに向かってくる。
 触れてもないのに肌が焼けるような感覚に陥ってしまう。

「…………ちょっと揺れるぞ!  しがみついとけよ!」
「「…………うわッ!」」

 ドラは体を反り起こし立つようにして空中を飛ぶ。
 俺たちは落とされないようにドラの毛にしがみつく。

「【ファイアボール】!」

 迫りくる獄炎に向かってドラは口から小さな火の玉を吐く。
 その様子を見て炎人族イフリートは嘲笑うかのように、

「なめてるのかしら? 炎特化の魔族に炎で対抗するのは当然、【ファイアボール】ごときで相殺できるとでも?」

 あッはッは。と笑いながら炎人族イフリートは炎を幾つも繰り出す。

「【ファイアボール】は初級魔法。【ファイアオーブ】は超級魔法です」

 ゴブくんは隣で俺に小さな声で説明してくれた。
 魔法に関して疎い俺でも分かる。
 明確な差があるということに。

 だが、その考えは覆される。

 ドラはにんまりと口角を上げて言う。

「お前こそ。良くも俺の繊細な乙女のメンタルに傷をつけてくれたな? 後悔するなよ?」

 ドラが繰り出した一つの小さな炎の玉と炎人族イフリートが繰り出す火炎放射のような獄炎が空中で衝突する。

「「…………うッ!」」

 衝突で起きる熱風に俺たちはさらされ悶える。
 その熱風は障壁をも貫通し、城下町まで伝わっているようだ。
 熱い、焼けるなどの悲鳴が聞こえる。
 まぁこんなに近くの俺が生きているのだ。そこまでではないだろう。


「…………終わったぞ」
「「…………は?」」

 ぼそッとカッコつけて言うドラに俺たちは唖然としてしまう。
 ゆっくり俺たちは毛の中から顔を出し、外を見渡す。
 すると、

「どこにこんな力が…………クソっ」

 元々はオレンジ色の容姿だったのに、今は丸焦げ、傍から見て真っ黒な炎人族イフリートは脱力するように、

 ドガンッ!

 魔法の効力を保つのが難しくなったのだろう。
 高さ何百メートルあるところから地面に巨大な音をたてて垂直落下した。
 
「…………何故こんなことに? 相手も幹部だったのでは?」
「言っただろ? 俺強くなってんじゃねぇかって。それはお前も一緒だろうが」

 そう。
 ドラの小さな火の玉が炎人族イフリートの地獄化と錯覚してしまうような幾つもの炎を全て相殺したのだ。
 いや、正確には相殺ではない。
 貫通して炎人族イフリートに瀕死になるほどのダメージを与えているのだから。

「そんなにも力の差が…………恐ろしいですね」
「ああ。そうだな…………本当にこいつ、、、は恐ろしい」

 苦笑いしながら二人はそう口にした。

 この時の俺はドラの話をしているのだと思っていた。
 まさか、自分がそんなこと言われるなんて最弱テイマーだと思い込んでいる俺が思うはずがないだろう。
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