上 下
8 / 142

八話 レッツ魔王城

しおりを挟む
「…………本当にすまなかった」

 俺たちの考えは杞憂だったようだ。
 ドラは急に腰を折り頭を下げながら言ったのだった。


 ドラは顔を上げ言いにくそうに、少し恥ずかしそうに言う。

「もう一度俺と契約してくれないか?」

 その様子を見て疑うようにゴブくんが口を開け。

「何の風の吹き回しなんですか? 先ほどまでは主を手にかけようとしていたのに」
「強制契約も外れてる…………」

 俺とゴブくんの間にあった強固な偽りのつながりが今、切れたのが分かった。

緑人族ゴブリナ……いや、ゴブさん。あんたも契約した時に気づいたはずだ。その子供の中にある膨大な魔力とその心を…………」

 そのドラの様子を見てゴブくんは吹き出すように笑った。

「ドラさんもあれを見たんですか? あッはッは! ならしょうがないですね!」
「ちょっと話についていけないんだけど……」

 俺がそう言って二人の会話に入ろうとすると、二人は笑いながら、

「主は魔王より凄いってことですよ」
「魔王様はあそこまでとは言わないが結構、綺麗で、一生仕えたいと思うぐらいだったぞ? まぁこの子供を見ればちょっとその気持ちは揺らいでしまうが」

 俺はその話を聞いて思い出す。
 ドラは元々誰かに仕えていたということに。
 まぁ行く宛てもなかったのでちょうどいいといえば良いだろう。

「じゃあ行こっか!」
「何処にですか?」

 ゴブくんは興味深さうに俺に聞く。
 いや、少し顔が青くなっているように見える。
 まぁ元々緑色なのでほぼ分からないが。

「ん? 決まってるじゃん。マオウさんに会いにいくんだよ!」
「「…………は?」」

 本当に息ぴったりに二人は口を開けた。
 俺はそれが少しおかしくて笑いながら、

「ドラの主はマオウさんだったんでしょ? ならその人に許可をもらわないと契約は出来ないよ。まぁさっきは殺されそうだったから一時的に契約しようとしたけど」

 その俺の言葉を聞いて信じられないと言うような表情をしながらドラは言う。

「いや、マオウさんって……一応、魔族の父なわけで…………」
「…………マオウさんて独りぼっちの魔族を見捨てるような人?」

 急な話の展開に少し理解していないような口ぶりでドラは、

「そりゃあ寛大なお方だからな。見捨てるはずがない」

 まるで自分のことのように嬉しがりながら言った。
 それに続くようにゴブくんも、

「僕たちのような最弱の種族のことも考えてくれている方ですからね……」

 ゴブくんが魔物であった時の話だろう。
 俺はその言葉を聞いて嬉しがるように拳を握りしめる。

「じゃあ俺も親を失った魔族ってことでマオウさんに匿ってもらお!」
「ちょっと待ってください。主。流石にそれは…………」
「ドラ! もうちょっと大きくなれる?」

 俺はゴブくんの弱弱しい否定の声を無視し、ドラの翼を触りながら言う。
 ドラの翼はと鱗で覆われていて触るだけで指から血が出そうだ。

「分かった…………うッ!」

 俺はドラから距離をおいてその様子を見守る。
 ドラは力を入れるように背を丸くした。

「…………わぁ」

 すると小さな翼がまるで本物の龍のような巨大な翼になり、身体も十倍以上の大きさになる。
 まるでおとぎ話の龍神を見ているようだった。
 俺は少しの間ドラに見惚れてしまう。

「魔力感知で他の幹部が来てもいかない。さっさと行くなら行こう」
「うん。そうだね! 行くよゴブくん!」
「……あのー。僕の意志は…………」

 俺はゴブくんの腕を引っ張って差し出されたドラの手の中に入る。
 そして入ったのを確認したドラは俺たちを背中の柔らかい羽根のような所に置く。
 全方向に柔らかい羽根がありもたれかかっても大丈夫。
 まるで人間を駄目にするような空間だ。
 
「じゃあ飛ばすぞ!」
「いぇーい!」
「嫌だああああぁぁぁ! 行きたくなぁぁぁぁぁい!」

 ドラは体を細くし空気を切るように飛び始める。

 俺は心の底から笑いながら、ゴブくんは心の底から悲しみながら魔王城へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

勇者のその後~地球に帰れなくなったので自分の為に異世界を住み良くしました~

十一屋 翠
ファンタジー
長く苦しい戦いの果てに、魔王を倒した勇者トウヤは地球に帰る事となった。 だがそこで予想もしない出来事が起きる。 なんとトウヤが強くなりすぎて元の世界に帰れなくなってしまったのだ。 仕方なくトウヤは元の世界に帰るアテが見つかるまで、平和になった世界を見て回る事にする。 しかし魔王との戦いで世界は荒廃しきっていた。 そんな世界の状況を見かねたトウヤは、異世界を復興させる為、ついでに自分が住み良くする為に、この世界の人間が想像も付かない様な改革を繰り広げてしまう。 「どうせいつかは地球に帰るんだし、ちょっとくらい住み良くしても良いよね」 これは故郷に帰れなくなった勇者が気軽に世界を発展させてしまう物語である。 ついでに本来勇者が手に入れる筈だった褒美も貰えるお話です。 ※序盤は異世界の現状を探っているので本格的に発展させるのは10話辺りからです。 おかげさまで本作がアルファポリス様より書籍化が決定致しました! それもこれも皆様の応援のお陰です! 書き下ろし要素もありますので、発売した際はぜひお手にとってみてください!

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、pixivにも投稿中。 ※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。

伝説のドラゴン 世界をかけた戦い~記憶がない俺が天龍から授かった魔法で無双になる?!~

杏子
ファンタジー
俺はふと目が覚めると、崖の下に寝転がっていた。 頭が割れるように痛い。 『いって~······あれ?』  声が出ない?!! 『それよりも······俺は·········誰?』  記憶がなかった。  振り返るとレインボードラゴン〈天龍〉が俺の下敷きになっていたようで気を失っている。 『こいつのおかげで助かったのか?』  レインボードラゴンにレイと名付け、狼の霊獣フェンリルも仲間になり、旅をする。  俺が話せないのは誰かが魔法をかけたせいなのがわかった。 記憶は?  何も分からないまま、なぜか魔法が使えるようになり、色々な仲間が増えて、最強(無双)な魔法使いへと成長し、世界を救う物語です。

処理中です...