婚約破棄された第一王女～婚約者を奪ったくせに今頃、帰ってきてくれ？ ごめんなさい、魔王に溺愛されてるので難しそうです～

41話 これから

「おい、ミリン。本当に俺を解雇してくれるんだな？」
「え、えぇ！　貴方なんて絶対に解雇してやるわ！」

　ギルの態度にミリンは動揺するが、ここまで言い出してしまえばミリンも退くに退けない。
　彼女は堂々と胸を張って言い切った。
　そんな彼女の態度にギルもギルで満足そうに笑みを浮かべる。

「ミリンの父が俺を解雇してくれるまで……自習でもしてくれ」
「「「……は？」」」

　急に自習を言いわたされた生徒はまたもや唖然とした。
　初日から自習など前代未聞である。ましてや教師が自分から辞めたいと生徒の前で口にするなど言語道断だった。

「エリス、お前は来い」
「わ、分かったわ」

　教室の扉を開き、さっさとこの場から去ろうとするギルは出ていく間際に私を呼んだ。
　私は一気に全ての視線を引き受けてしまう。
　傍から見れば一番最後にやってきて、さらには先生に呼び出される。問題児だとでも思われているのだろう。

　そんな中一人の男子生徒が手を挙げた。

「先生、俺もついてっていい？」
「ふっ、まぁいいだろ」

　ギルならそんな馴れ馴れしい態度に腹を立てるのかと思ったのだが、何故か少し笑みを漏らしながら承諾した。
　男子生徒も男子生徒で満足そうに笑っている。

「じゃああとはよろしく。なんかあっても自分らで対処しろよ」
「「「…………」」」

　そんな言葉を言い捨て、私たちは教室をあとにした。





「ど、どこに行くのかしら？」

　何をするかも知らない私は、戸惑いながら尋ねる。
　すると、ギルではなく、隣にいた男子生徒が先に答えた。

「訓練でしょ。それ以外に何するんだよ」
「正解だ。お前ら二人は俺の特別レッスンをしてやる」
「……え？」

　二人が何故か理解し合っていることに私は驚愕してしまう。
　ギルに関しては先ほど授業をめんどくさいという言い訳をして、教師の役目を放棄してきたのだ。
　今頃残りの生徒は自習に励んでいるだろう。

「だってさっき授業はめんどくさいって」
「あぁ言ったな。もちろんめんどくせぇよ」

　ギルは髪をぼさぼさとさせながら愚痴を吐くように言う。
　その言葉はどう聞いても本心に聞こえた。

「ならなんで個人で練習なんか……」
「お前、名前は？」

　ギルは私の言葉を一度置き、男子生徒の名前を問う。

「俺はアルクっす」
「エリス。アルクがなぜ急に俺についてくるなんて言ったと思う？」
「そ、それは先生について行った方が安全だから？」

　急に振られたといに私はすぐに思い浮かんだ言葉しか出てこなかった。
　もちろんその答えは間違えなのだろう。ギルは呆れたような表情を見せる。

「アルクがついてきた理由は俺の力を断片的だが見抜いたからだ。だろ？」
「その通り。先生がわざと煽ってるのも分かってたし」
「わざと？」

　私はついていけない話の流れにただ疑問を浮かべることしか出来ない。

「俺の実力に気づけない時点で三流。ここまで魔力垂れ流して分らん奴はSクラスにいらん。それと自習と言われて自ら行動できないやつもいらん」
「そ、そこまで考えてたんだ……」

　ギルは脳筋タイプだと思っていたので、私は素直に尊敬してしまった。
　そんな話をしていると、すぐに訓練室にたどり着いた。

「じゃあ俺の特別レッスンを始めるか」