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35話 魔界
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「……はぁ」
私はハデスに連れられてきた部屋で一人、大きなため息を吐いていた。
夢ならば覚めてほしい。しかし、夢ではないので覚めることはない。
『ここは魔族が住まう世界。魔界だよ。そして、そこで王をしているハデスだ。よろしくな』
どうやら私は魔王であるハデスに魔界に連れてこられたようだ。
あの人のように知能の高い者たちは魔族と言うらしい。魔獣とは従属関係を結んでいるらしく、魔族の配下が魔獣のようだ。
『今の君には二つ選択肢があるんだ。一つ目は人間界に帰るために俺たちと戦う。二つ目は俺たちと一緒に暮らして、強くなってもらう。どっちがいい?』
ハデスに私はこの二つの選択肢を委ねられた。
どうやらただで返してくれる、と言うわけにはいかないらしい。
『二つ目で。強くなれるのなら別にどこだって構わないわ』
『あのパーティーメンバーと当分会えないんだぞ?』
『今の情けない姿じゃ恥ずかしいもの。それと少し違和感がね』
私は二つ目を選択し、今は魔王城の一室で休憩をとっている。
どこで強くなろうが特に問題はない。三人に会えなくなるのは寂しい以外の何でもないが、生きているのであればまだ会える。ここで命を懸けてまで逃げる気にはなれなかった。
「やっぱり……」
私はエルナからもらった短剣を見て再確認する。
この短剣は刃が鉄でできておらず、刃が押されると柄に引っ込むため、刺さらない仕組みになっていた。
どう攻撃しても相手に危害が加わることがない、訓練用の短剣であった。
「どうしてエルナはこんなことを……」
どことなくあった違和感が確実なものに近づいていく。
別のものと間違えた、その可能性もあるかもしれないが、このような状況で試し切りをしていないはずもない。
確実にエルナは私を殺そうとこの短剣を授けたのだ。
もし、私がダンジョンに向かう前に別の短剣を買っていなければすぐに死んでいただろう。
「まぁ終わったことは忘れよ!」
今考えたところで、当分エルナたちと会うことはない。
責任など問い詰めるのは私が苦手とすることである。わざわざ憎む相手を見つけるようなこともしたくない。
「それにしても私、生きていけるのかしら?」
私は来週から魔法学院に通うことになるらしい。
角と尾はハデスにつけてもらえる予定だ。流石に人間が魔界をうろちょろしているのが公になると問題視するものも出てくるらしい。
正直に言うと私は魔法に関して、知識はほぼ皆無だ。あれほど強力な魔族たちと渡り合っていけるはずもない。
しかし、私はここでは強くなる以外の道はないのだ。逃げる場所も隠れる場所もない。
自称であるがこの世界で一番の権力を持っている魔王の庇護下にあるのだ。私も思う存分鍛錬することが出来る。
「ふわぁ……」
そんなことを考えていると急に眠気が私を襲う。
どうやら一人になれたおかげでどこか緊張の糸が緩んだようだ。
私は部屋にあったベッドにダイブし、顔を枕に押し付けた。
ハデスはまた明日の早朝に会いに来ると言われている。
ここがどこだか、何の目的で攫われたのかも私は知らない。
だが、どことなく嫌な、恐怖のような感情は今の私には消え去っていたのだった。
私はハデスに連れられてきた部屋で一人、大きなため息を吐いていた。
夢ならば覚めてほしい。しかし、夢ではないので覚めることはない。
『ここは魔族が住まう世界。魔界だよ。そして、そこで王をしているハデスだ。よろしくな』
どうやら私は魔王であるハデスに魔界に連れてこられたようだ。
あの人のように知能の高い者たちは魔族と言うらしい。魔獣とは従属関係を結んでいるらしく、魔族の配下が魔獣のようだ。
『今の君には二つ選択肢があるんだ。一つ目は人間界に帰るために俺たちと戦う。二つ目は俺たちと一緒に暮らして、強くなってもらう。どっちがいい?』
ハデスに私はこの二つの選択肢を委ねられた。
どうやらただで返してくれる、と言うわけにはいかないらしい。
『二つ目で。強くなれるのなら別にどこだって構わないわ』
『あのパーティーメンバーと当分会えないんだぞ?』
『今の情けない姿じゃ恥ずかしいもの。それと少し違和感がね』
私は二つ目を選択し、今は魔王城の一室で休憩をとっている。
どこで強くなろうが特に問題はない。三人に会えなくなるのは寂しい以外の何でもないが、生きているのであればまだ会える。ここで命を懸けてまで逃げる気にはなれなかった。
「やっぱり……」
私はエルナからもらった短剣を見て再確認する。
この短剣は刃が鉄でできておらず、刃が押されると柄に引っ込むため、刺さらない仕組みになっていた。
どう攻撃しても相手に危害が加わることがない、訓練用の短剣であった。
「どうしてエルナはこんなことを……」
どことなくあった違和感が確実なものに近づいていく。
別のものと間違えた、その可能性もあるかもしれないが、このような状況で試し切りをしていないはずもない。
確実にエルナは私を殺そうとこの短剣を授けたのだ。
もし、私がダンジョンに向かう前に別の短剣を買っていなければすぐに死んでいただろう。
「まぁ終わったことは忘れよ!」
今考えたところで、当分エルナたちと会うことはない。
責任など問い詰めるのは私が苦手とすることである。わざわざ憎む相手を見つけるようなこともしたくない。
「それにしても私、生きていけるのかしら?」
私は来週から魔法学院に通うことになるらしい。
角と尾はハデスにつけてもらえる予定だ。流石に人間が魔界をうろちょろしているのが公になると問題視するものも出てくるらしい。
正直に言うと私は魔法に関して、知識はほぼ皆無だ。あれほど強力な魔族たちと渡り合っていけるはずもない。
しかし、私はここでは強くなる以外の道はないのだ。逃げる場所も隠れる場所もない。
自称であるがこの世界で一番の権力を持っている魔王の庇護下にあるのだ。私も思う存分鍛錬することが出来る。
「ふわぁ……」
そんなことを考えていると急に眠気が私を襲う。
どうやら一人になれたおかげでどこか緊張の糸が緩んだようだ。
私は部屋にあったベッドにダイブし、顔を枕に押し付けた。
ハデスはまた明日の早朝に会いに来ると言われている。
ここがどこだか、何の目的で攫われたのかも私は知らない。
だが、どことなく嫌な、恐怖のような感情は今の私には消え去っていたのだった。
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