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27話 宴

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 ダンジョンから帰還し、ダンジョンの待合室にて。

「「「「お疲れ~!」」」」

 私たち四人はジョッキを片手にカツンっと鳴らせて乾杯をした。

 いつもならエルナとサーシャが二人で食事を作ってくれている。それは節約のためが一番大きい。
 ちなみに私も一度だけ手伝ったことがある。
 しかし、私が美味しく食べてくれるところを見るために作ってるの。と言われたので最近は食べる専門である。

「それにしても今日は豪華だなぁ!」

 私たちが果汁ジュースを飲んでいる中、テスラは一人、酒を豪快に飲んでいた。
 私たちはテスラにとってみればまだまだ子供である。
 そんな三人を一人でまとめ上げるのは毎日苦労しているに違いない。
 そのため、今日だけは誰も文句を言わなかった。

「明日だね……」

 サーシャは少し不安そうに呟いた。
 こうしてサーシャは仕事をしているとき以外は敬語を使わず、距離感を縮めて接してくれているのだ。
 
「三人なら大丈夫でしょ! カーラ村の救世主でもあるんだから!」

 エルナはジョッキを片手にいぇーいと喜びをあらわにしている。

 カーラ村の救世主。私たちは今、カーラ村の人たちにそう呼ばれているのだ。
 未だ誰も手を付けていなかった未知のダンジョンを攻略する三人の冒険者。

 こんな辺境であるため強盗や殺人などの脅威はほぼない。
 しかし、唯一の心残りがあった。それがダンジョンである。
 人間の恐怖の根源はすべて未知に依存する。そんな未知を取り除こうとしているのが私たちなのだ。
 村人から褒めたたえられるのも納得がいくというものだ。

「ねぇ父さん。一週間後ぐらいにしてはどう?」

 まだ不安が拭えていないのかサーシャはテスラに提案した。
 その提案に、少し酔っているのか頬を赤くしたテスラは首を縦に振ろうとする。

「あぁ別にいい――」
「三人ならいけるよ! 私三人がすごいこと知ってるんだから! ね? パパ?」

 テスラの言葉を遮るようにエルナが言った。
 エルナがそこまで明日に固執するのに違和感を覚えるものの、すぐに私は納得する。
 ダンジョンさえ攻略すれば想定を上回るほどの金銀財宝をもらえるはずだ。
 それこそ、エルナたちの母の治療費など簡単に出せるほどのお金が。

 エルナの意見も伝わったのか、それとも酔っているからなのかテスラはすぐに意見を変える。

「そうだな~! さっさとあんなダンジョン攻略するぞぉ~!」
「うんうん! 三人なら絶対大丈夫! 私応援してるから!」

 エルナはその答えに満足したのか満面の笑みを浮かべている。

「そういえばダンジョンの奥には何があると思う?」 
「金だろ」
「ボスね」
遺物リークでしょ」

 テスラは金。サーシャはボス。エルナは遺物リークと各自違うものを想定していた。
 だが、すぐにテスラは訂正する。

「まぁ冗談抜きで言うとボスだろうな。サーシャも気配で分かったんだろ?」
「えぇ。あれほどのオーラ気づかない方がおかしいわ」

 二人はまるでオーラを感じるのが当たり前だとでも言いたげに話していた。
 ちなみに私にはオーラなんて分かりません。
 そもそもオーラって何ですか? 強い人と強い人は惹かれ合うっていうやつですか?

 だが、そんなことを二人の前で言ってしまえば、私のしょうもないプライドが粉々になってしまう。
 私はそんな動揺を隠すように口を開く。

「そ、そうよね! も、もちろん私も気づいていたわよ?」
「「…………」」

 二人はジト目で私を見てくる。
 止めて! そんな目で私を見ないで!
 そんな冗談を心の中で言っていると隣にいるエルナがにんまりと笑みを浮かべていた。

「それは楽しみね……」

 ボスの死体にでも興味があるのだろうか。
 魔獣の死体は高額で取引される。大量の金になるはずだ。

 そもそも私さえ王族であれば王宮魔導士など使い放題だった。こけて出来た擦り傷でさえ王宮魔導士が治すレベルなのだから。
 しかし、今の私には何もできない。そんな無力さに私は歯を噛み締める。
 だが、それと同時に私、エリスという個人の力が上がっていることに高揚感を覚えたりもしていた。

「まぁ頑張るしかない。サーシャ。エリス。お前らも明日は気合入れて行けよ」
「もちろんよ!」
「元王族の底力見せてやるわ!」

 サーシャと私はテスラの言葉に乗せられるように笑みを浮かべて言った。
 隣にいるミーナも握りこぶしを作ってよしっとやる気が満ち溢れた様子を見せる。

「私も頑張らないと!」
「あっはっは! エルナは頑張らなくていいだろ? ギルドで吉報を待っててくれ」

 テスラはエルナの言葉を笑いながら返した。
 受付嬢と冒険者では仕事の量も質も違うのは目に見えている。

「……だ、だよね。うん! 私は安心して待ってる!」

 エルナもそれは理解しているのかうんと頷いて応援をしてくれた。
 その様子を確認したテスラはジョッキを再び掲げ声を高らかと上げる。

「じゃあ二人とも明日は気合入れていくぞおお!」
「「おおー!」」

 こうして私たちは戦の前の宴を満喫したのだった。
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