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21話 早朝

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 コンコンコン!

「はーい!」

 起きていた私は荷物をまとめたポーチを腰に巻き、扉の方へと向かう。
 いつも王族だったときは従者が起こしに来てくれていたが、流石にこれからはそうはいかない。
 私は自立していかなければならないのだから。

 私はゆっくりと部屋の扉を開ける。

「お、おはようございます。エリス様」
「おはよう。サーシャ」

 サーシャは私が起きているとは思ってもいなかったのか少し動揺していた。

「そういえば敬語はもうやめない? 私たちは対等な平民なのだし。今日からはサーシャも冒険者なのでしょう?」
「ですが…………エリス様は元王族で…………」

 納得いっていないのか、サーシャは首を縦に振らなかった。
 そんなサーシャの頬を私は両手でぷにぷにとつまんだ。

「な、何をするんですか!?」
「本当なら私が下手に出ないといけない立場なんだから。対等にいこ?」
「エリス様……」

 私はサーシャに笑みを浮かべながら告げた。
 そこまで言われては、とでも言いそうなサーシャはゆっくりと首を縦に…………

「そうだぞ。だから最初から俺は敬語なんて使わなくていいって言ってただろ」

 そんなやり取りを中断させるように通路の奥からテスラがやってくる。
 どうやらテスラも私を迎えに来てくれたようだ。そこまで私は心配なのだろうか。

 すると、サーシャはまるで人が変わったようにテスラの腹に拳を突き刺す。

「……っ! この空気読めないバカ親父が!」
「え!? サーシャ!? 昨日の父親思いの優しいサーシャは何処に行ったの!?」

 特に物理的ダメージは入っていないようだが、精神的ダメージが入ったようだ。
 がっくりとテスラは肩を落とし項垂れた。

 昨日見せていたサーシャは仕事をする時のサーシャであり、本当のサーシャはこういう性格なのだろう。
 私にもいつかそんな態度をとって欲しいなと少しテスラに嫉妬してしまいそうになる。

「そういえば聞きたかったんだけど、サーシャって戦えるの?」
「おい。うちの娘をなめんなよ? サーシャはな……痛っ! なんで叩くの!?」

 胸を張って自分のことのようにサーシャを自慢しようとしていたテスラをサーシャがペチンと後頭部に平手打ちをする。
 そして、涙目なテスラを無視してサーシャは頬をリンゴのように赤くしながら私を見る。
 
「私は魔法での後方支援をする予定よ。だから背中は任せてね」
「わ、分かったわ! 頼りにしてる!」

 照れながらも敬語を止めてくれたサーシャに私は満面の笑みを浮かべる。
 これが友達ができた時の感情なのだろうか。心の中が高揚感に似た何かで満たされる。

 私とサーシャが微笑み合ってるのを見てテスラはリスのように頬を膨らませて嫉妬している。
 本当にテスラは親なのだろうか? 精神年齢が私たちと同じように感じてしまった。

 テスラはわざとらしい咳をして話題を変える。

「おっほん! じゃあそろそろ行くか。エルナも待ってる」
「「分かったわ……ふふふっ」」

 全く同時に口にした私たちは互いに見合って笑い合う。

「はぁ……本当にもう一人娘が増えたみたいだ」

 そんな私たちを見てテスラは先を歩みながら小さな声で呟く。
 しかし、テスラのそのため息は何処となく嬉しそうな表情から生まれたものだった。

 こうして私たちは受付へと向かったのだった。
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