上 下
13 / 44

13話 妹

しおりを挟む
「ここを通ってと」

 私は庭園の中を這いつくばりながらこっそり進む。
 本当に元第一王女なのか自分でも疑いそうになる。
 しかし、バレた時には一瞬で死刑だ。それだけは何としてでも避けなければならない。



 時を遡ること一時間前

「ギルマ……テスラ様。流石に今日はもう日が暮れかけています。明日にしましょう」
「そうだな。明日の六時。冒険者ギルドに集合だ」

 テスラのその言葉により私たちは解散になった。

 しかし、サーシャはテスラに従順すぎではないだろうか。
 テスラは別のことに言い換えると、サーシャに仕事をやめろと言っているようなものだ。
 それを顔色変えず、更には嬉しそうに承諾するサーシャには本当に驚かされた。

 そもそも、何故二人まで私に同行するのだろうか。
 嬉しくないと言えば嘘になるが、正直二人には何の得もないはずだ。

 だが、今私が一人で考えたところで結果が出るはずもない。
 いずれ分かるだろうと結論付けて私も冒険者ギルドをあとにした。


 解散理由としては日が暮れているだったが、まだ夕暮れ時。活動時間は残っている。
 ということで私は唯一の心残りだったことを解消することにした。



 そして今に至る

「最後に妹を見ておかないとね」

 そう。私の唯一の心残りは妹についてだ。
 第一王女の私の妹である第二王女のミーナは私と違っておしとやかな性格だった。
 こんな私だからこそ平民として生きていける希望があるが、ミーナなら絶対に無理だろう。
 それほど人見知りも強く、命令されたことしかしない従順な人形だった。 

「見ておかないと安心できないもの」

 私は今、王宮に潜入していた。
 元王族である私だから知っている道はたくさんある。
 そのため、警備兵にバレることなく王宮に侵入できているのだ。

 何故、こんなリスクのあることをしたのか。
 それは先ほども言った通り、ミーナが心配であるからだ。
 私がいなくなればミーナを守る者はいない。
 第一王女に昇格したら風当たりも強くなる。
 ミーナは完全に孤独になってしまうわけだ。

「この時間なら……」

 この夕暮れ時、必ずミーナは庭園に来る。
 それも従者をつけずに一人でだ。
 あのミーナが自分から提案してきたことであったため賛否もあったが認められた。

 ということで私は今、庭園に侵入している。
 そろそろミーナが来るはず時間なのだが…………

「わぁ! 今日も美しい花々!」

 そんなことを考えていると一人の明るい少女の声が庭園に響く。
 確かに聞き覚えのある声。何度も私の耳に入ってきた声である。
 しかし、どことなく違和感があった。私の歯車を全て狂わせるような、そんな違和感があるのだ。
 
「ねぇ! そう思わない? マルク、、、!」
「えぇ。とても美しいです」
「…………ッ!?」

 私はそのミーナの言葉に声にならない叫び声を上げそうになる。
 反射的に口を押さえてなければ声が出ていただろう。
 しかし、すぐにそんな事実を覆い被さるほどの疑問が脳を埋め尽くす。
 
 何故マルクが王宮に? 何故ミーナからマルクの名が? 何故マルクが………

 ミーナののちに続いた声は確かにマルクだったのだ。

「それは花だけ?」
「いえ、もちろんミーナ様の方が美しいですよ」
「フフフ。それはよかったわ」

 私はその二人のやり取りを聞いて吐き気がこみあげてくる。
 こっそり茂みから二人の様子を覗くも、確かに私の知っている二人であった。
 その事実に更に憎悪や憤怒が増す。
 だが、その程度ではまだまだ足りないようだ。

「本当に姉がいなくなって清々したわね」

 その言葉を聞いた瞬間、私の中の最後の繋がりが切れたたような気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい

咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。 新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。 「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」 イルザは悪びれず私に言い放った。 でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ? ※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています

【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?

仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。 そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。 「出来の悪い妹で恥ずかしい」 「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」 そう言ってましたよね? ある日、聖王国に神のお告げがあった。 この世界のどこかに聖女が誕生していたと。 「うちの娘のどちらかに違いない」 喜ぶ両親と姉妹。 しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。 因果応報なお話(笑) 今回は、一人称です。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

処理中です...