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11話 勇者の力

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「これがギルマスのスキルか」

 少年はテスラのスキルを見て面白そうだと言わんばかりに口角を上げる。
 それに対して限界に近いテスラは大剣を鎌のように構えて少年を見据えた。
 
 すると、徐々に大剣が本当に鎌に変化していくではないか。
 形状変化のスキルだろうか。いや、それでは物足りない。
 おおよそ、その鎌にも何か付与されているのだろう。
 触れたら死ぬ。脳が直感で理解していた。

「これを見たもので死ななかった奴はいねぇ! 一旦、地獄見てこいや!」

 テスラは本物の殺気を少年にぶつけている。
 ギルマスが大人げない? そんなことを言ってられるレベルではないことは私でも分かる。
 
 そのギルマスの言葉とともに職員を治癒していた回復魔導士が集まってくる。

 ちなみに死者蘇生は不可能ではない。
 しかし、それには多くの優秀な魔導士と、死んでから十秒以内というルールが存在する。
 十秒以内でなければ魂が体から剥離されてしまうからだ。

 そのため、テスラが少年を殺した瞬間、すぐに回復魔導士が蘇生魔法を行使する。そんな考えというわけだ。
 
「おらああああああぁぁぁぁ!」

 テスラは私の時には一ミリも見せてない気迫で少年に刃を向ける。
 その速さはまるで風かと思うほど速かった。私の目などでは追えるはずがない。

 しかし、そんな速さで迫ってい来る脅威を少年は特に驚くことなく棒立ちしている。
 死ぬ気なのだろうか。
 そう思った時には私は叫んでいた。

「よ、避けて!」

 バタッ!

 だが、遅かったようだ。
 私の目の前に首をなくした少年が……あれ?

 私の見間違えだろうか。
 何度も私は目を擦るが、光景が変わることはない。

「雑魚すぎだろ。こんなのがギルマスとか笑うわ」

 少年は気絶しているギルマスに反吐を吐くようにして言った。
 そんな光景にここにいる全ての人が唖然としている。

「か、回復魔導士の皆さん! すぐにギルマスに治癒魔法を!」

 一番最初に現状を理解したのはサーシャだった。
 その掛け声で急いで回復魔導士たちがギルマスに近寄って回復魔法を行使し始める。
 回復魔導士たちの安堵する表情を見ればどうやら、死んではいないようだ。

「ってかそこの女、さっきなんて言った? 僕に避けろと命令したの?」
「え、えぇ。あの攻撃は流石に危ないかと思って――」

 私がそう説明すると少年は私の胸ぐらを掴んで目の前で吠えてくる。

「あん? 僕は勇者なんだぞ? 舐めた口叩くな! ババァが!」
「それはごめんね。以後気を付けるわ」

 こういう人間には素直に引いておけばいい。
 それは私が貴族社会で学んだことだ。

 そのため、私は申し訳ないように表情を暗くして謝った。 
 すると少年は胸ぐらから手を放す。

「……わ、分かりゃいいんだよ!」

 私から視線逸らし、頭をぼさぼさとかきながら私に背を向けてどこかへ歩いていった。
 すぐに私のもとにサーシャが近づいてくる。

「だ、大丈夫ですか!? どこか痛む場所は!?」
「えぇ。大丈夫よ。まぁ痛む場所なら先ほどの戦闘で山ほどできたけれど」

 私はサーシャを落ち着けるように言った。
 しかし、最後の言葉で私の傷を思い出したのか慌てふためきながら叫ぶ。

「一人! こちらに回復魔導士さん来てください!」

 こうして私の傷は全てきれいさっぱり癒されたのだった。
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