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10話 冒険者に

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 私の中にある巨大の器は何も入っておらず、未完成な状態である。
 そして、今日。新たに一つが入った。
 孤独である少女にとっては初めてのもの。少女はその現状に歓喜するだろう。

 だが、それでも不十分。
 器の完成にはまだほど遠い。
 そのため、これからも少女は渇望するだろう。
 永遠に満たされることのない器を満たすために…………


 私が意識を覚醒させると目の前に知らない天井が広がっていた。

「ん? 私何をして……痛ててて」

 寝かされていた私は現状を理解しようとゆっくりと起き上がろうとする。
 しかし、そんな行動を私の痛覚は許そうとしなかった。

 すると、隣からサーシャがやさしく話しかけてくる。

「あ、起きましたか。大丈夫です?」

 どうやら私はランク付けの試験で気を失ってしまったようだ。
 そして、今、私は寝台に寝かされているというところだろう。

 しかし、今の私には自分の状態などどうでもいい。
 大切なのは最初でも途中でもない。終わり良ければ総て良しというやつだ。

「え、えぇ。結局私は冒険者になれなかったのかしら?」

 私は痛む腹を押さえながら声の大きさを押さえて聞く。
 するとサーシャは微笑むようにして私に一枚のカードを手渡してきた。

「どうぞ。これからエリス様は立派な冒険者です!」
「こ、これってもしかして!」

 私は痛みなど忘れて頬を緩めてしまう。
 これは証である。魔獣という絶対的な悪と戦える実力を持つという証だ。

「そうです。冒険者カードです。ランク付けはEからSまでありますが、エリス様はE級です」

 所詮E? そんなこと思うはずがない。
 E級の冒険者になれたのだ。これまで嬉しいことはない。

 冒険者カードにはしっかりエリスと刻まれていた。
 私はこれから何度もこの冒険者カードを見て今までの自分に対する優越感に浸ることだろう。

「テスラは? どこに行ったの? あと回復魔導士も」
「それが…………」

 その質問をするとサーシャは表情を暗くした。

「今、別のランク付けをしている新米と戦闘をしています。職員もそちら側です」
「見に行ってもいいかしら? その子がどれだけ耐えれるか見たいもの」

 私はそう言いながらゆっくりと寝台から立ち上がる。
 サーシャが軽く応急手当をしてくれたのだろう。
 しかし、根本的な骨の損傷や内臓の損傷は治っていない。 

 早めに治してもらわないと痛覚で神経がすり減りそうだ。

 また、私がここまで死ぬ思いをして勝ち取った冒険者カードだ。
 私の想いを新米が越えることなどあるはずがない。その子には可哀そうだが冒険者になるのは諦めた方がいいだろう。
 しかし、現実は違ったようだ。

「おい! ギルマス! こんなもんかよ!」
「ちっ! クソ生意気なガキだな!」

 私の目の前では怪物同士が戦っていた。

「……え?」

 私はそんな光景に唖然としてしまう。

 周辺には横たわっている職員が何人もいた。
 そして、その職員に回復魔法をかけている職員も。
 
 だが、今はそちらを気にしている余裕はない。
 目の前で繰り広げられているテスラと少年の戦いに意識を集中させられていた。

「おいおいおい! 雑魚かよ!」
「くっ! ふざけたスキルを持ちやがって」

 信じられるだろうか。
 私にとって最強と想像していた人間が一人の少年に蹂躙される光景を。
 私の目では終えないほど速い戦闘に私は立ち眩みしそうになる。

 少年は息も切らさず、無傷であるが、テスラは私同様に血を垂れ流し肩で息をしていた。

「あの少年は今日、勇者のスキルを得たのです。百年に一度の人材。ギルマスが負けている様子を見ると現段階でA級の実力があります」

 私の疑問に答えるように隣にいたサーシャが答えてくれた。

 勇者というのは人間の救世主。英雄とは少し違うが、似たような類だ。
 百年に一度しか現れないと言われており、そのスキルを所持したものは多大な恩恵を受けるという。

「俺のスキルでも食らいやがれ! 【執行者エクスキュート】!」

 テスラも本気を出すつもりなのか、テスラ周辺に異様な空気が漂う。
 触れただけで首が撥ねると錯覚してしまう空気である。やはりテスラのスキルも強力なスキルのようだ。

「これでお前も終わりだ」

 テスラは勝ち誇ったような笑みを浮かべて大剣を持ち直したのだった。
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