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一人目 つよつよ幼馴染

幼い過去

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 僕は平民生まれの孤児だった。
 誰も頼れない。誰も頼ってくれと言ってくれない。
 毎日そこらに落ちている残飯を食い漁って生きていた。

「はぁ…………」

 そんな僕にとって花畑は唯一、心を落ち着けれる場所だった。
 まぁ当時の僕はそこまで考えていなかったかもしれない。本能的と言った方がいいだろうか。

「君は?」
「…………あん?」

 そんなときに一人の少女に出会った。
 僕の大嫌いである裕福そうな容姿をした少女と。

 だから僕は最初、威圧的な態度をとった。さっさと僕の領域から出ていってくれないかと。
 しかし、数秒もすれば理解した。
 その少女もこちら側の人間であることに。

 手慣れた作り笑いに、疲労がたまりそうな振る舞い。

「…………僕はレイ」

 適当に考えた名前を僕は出す。自分の名前など僕は知らなかったのだ。
 すると、少女はにかっと笑って答える。

「私はエリス! こんなところで何をしてるの?」

 これが僕とエリスの出会いだった。
 



「レーイ! いるー?」

 僕とエリスは毎日同じ花畑で会っていた。
 まぁ僕がいる場所にエリスが毎日やってくると言った方が正解か。

「また来たのか…………いるよ」
「こんにちわ~!」

 特に僕はエリスに対して優しい態度をとっていなかった。
 だが、それは嫌いだからではない。初めて話す異性に緊張していたのかもしれない。

 もしかしたらエリスを感じ取ってくれていたのかもしれない。
 エリスはそんな冷たい反応をする僕に積極的に話しかけてくれた。

 だから僕も思った。ここにエリスが来た時には疲労を溜めさせないようにしようと。
 僕と同じだ。エリスも何か抱えている。
 自分だってあの時は苦労していたはずなのに僕はエリスのことだけしか考えていなかったのだ。
 それが後々恋心に成長していく。

 僕にとってその時間は泥臭く、小汚い自分を忘れれる時間だった。
 そのため僕はその時間を好いていた。そしてその時間を作ってくれるエリスにも。




 しかし、エリスと出会ってから一ヶ月が経った時。
 そんな時間は一瞬で潰されてしまう。 

「きゃあぁぁぁ!」
「な、なにしてんだよ!」

 黒服の男たちが綺麗に手入れされた花畑にずかずかと侵入してきたのだ。
 まるで今までの思い出を全て潰されるような感覚。
 僕は抵抗しようとした。連れ去られそうになるエリスを連れ戻すために。

「どけ! クソガキがっ! 汚いんだよ!」

 六歳の僕が大人の男性に勝てるはずがない。
 しかも、僕は平民だ。

 ――殴られた。
 ――嬲られた。
 ――殺されかけた。

「…………うぅ……え、えりすぅ…………」

 俺は醜く汚れた花畑で醜く血を出しながら倒れていた。

 出自が良ければこんな状態にはならなかっただろうが。
 もっと僕が強ければエリスを連れ去られなかっただろうか。

 普通は今、考えればただ逃げ出していたエリスの回収に来ただけだ。
 だが、幼かった僕はエリスが誘拐されたのかと思った。

 そんな僕に取り残された感情は、

 ――憎悪
 ――憤怒
 ――怨念

「絶対に取り返してやる…………僕の大切な時間を」

 やっと僕は生きる意味を見出せた。
 これから僕の執念に駆られた人生が始まる。





「これがお前との契約だ。それでも乗るか?」
「当たり前…………です。これからはカイロス様に僕の全てを尽くしましょう」

 僕は毎日死ぬほど努力した。死ぬ思いも何度もした。
 そして、二年後に辿り着いた。エリスの父の目の前に。

「では、お前の名はこれからキール・アルバートだ。アルバート家の養子に入れさせる」

 カイロスは平民の僕にチャンスをくれた。
 下剋上を出来る、エリスの隣に立てるというチャンスを。

「頑張って見せろ。平民の可能性を」

 こうして僕はカイロスと誓約を結んだ。
 レイと言う少年はここで死に、キールと言う少年が生まれた。




「エリス様。お初目にかかります」
「…………どちら様?」
「僕はキール・アルバ―トと申します。仲良くしてくれると嬉しいです」

 こうして僕はエリスの幼馴染になった。
 いつか、婚約相手として隣に立てる日を目指して。
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