上 下
24 / 58
2章 最強冒険者

過去

しおりを挟む
 あれは一年前のことだ。
 俺の家庭には父親がいなかった。私の母はシングルマザーというやつだ。
 だから俺は母の苦労を少しでも和らげようと十六歳の時に冒険者になった。

「ぐ、ぐ、グラトニーさんはSランク冒険者です!」
「…………へ?」

 あの時の衝撃は未だに鮮明に覚えている。
 冒険者ギルドに行った初日に最強冒険者となってしまったのだ。
 だからといって能力は最強だとしても、知識や経験は最弱だ。

「はぁ、はぁ、はぁ…………」

 適当にランクが高いからと言ってダンジョンの最前線に飛ばされた俺は何度も死にかけた。
 俺はモンスターの特性、戦い方も全くも知らない。
 そして、更には誰も行ったことのない未踏の地であるボス部屋に行かされたのだ。

 ちなみにボスは5層に一度発生する。
 ボスは誰かが倒せば再発生しなくなるため、強いランカーに任せればいいのだ。
 そんな理由で俺は四十五層にAランク数人と潜ることになった。

「ぼ、ボスが二体!?」

 ボスは絶対に一体。そんな常識を覆す事件が45層で起きた。

 ボスが二体など誰も想定もしていなかった。
 そのため、戦力不足だったのだ。圧倒的な。

「「ギャアアアアアアアアァァァァ!!」」
「「「い、い、いやあああああああああぁぁぁぁぁ!!」」」

 死んだ、死んだ、死んだ。
 俺以外の冒険者は一瞬で死んだ。

「…………クソっ!」

 最後の残された俺は二体の怪物に部屋の隅へと追いやられた。
 もし、知識が、経験が俺にあれば勝てただろう。このみなぎる力を活用できれば勝機があったのだろう。

 だが俺には何もかも足りなかった。

(…………あ、俺死ぬのか)

 あの時は本当に死を覚悟した。
 俺の全てが闇に包まれるような感覚。冷たい箱に永久とこしえに入れられるような感触。

 だが、そんな暗闇に一つに光が差しこんだのだ。

「……………………あ」

 俺は信じられなかった。見ている光景全てが信じられなかった。
 一瞬ここは既に天国なのかそう思ってしまったのだ。

「死ねやあああああああああぁぁぁぁぁ!」
「……………………ギャ!?」

 誰が信じられるだろうか。ボスを一撃で吹っ飛ばす者がいるなんて。
 Sランク冒険者の俺があれほど苦戦して、死にかけて、それでも勝てなくて。
 そんな相手を一撃て葬った者がいるなんて存在するはずがない。
 存在していいはずがないのだ。

「おらおらおらおらおらおらおら!」

 だが、俺の目の前には現れた。
 灰色のおんぼろのフードを被り、巨大なフライパン、、、、、を握りしめた少女。
 見た目はそこまで華美ではない。しかし、俺には見えた。

「天使なのか…………」

 あの瞬間、俺は惚れた。破壊者デストロイヤーと呼ばれる一人の少女に。

 当初、前線地と破壊者デストロイヤーが潜る階層が近かった。
 そのため、俺の実績に変わることが多く、特に噂になることはなかったのだ。

「…………ん? 冒険者?」
「…………お、俺はアレ――」

 俺はアレン・グラトニー。名前を口にしようとする声を破壊者デストロイヤーは遮った。
 それはまるで別次元にいるのだと証明されているようで、

「もう、初心者ならもっと下の階層に潜らないといけないわよ。どうせ私たちは底辺冒険者。無理したって早死にするだけだわ」

 俺にはその言葉が全く意味が分からなかった。
 ボスを一撃で殺す人間が底辺冒険者? 何の冗談を言っているのだ?
 だが、それよりもっと俺の心に衝撃を与えた言葉があった。

 今までSランク冒険者として頼られ、希望とされ、英雄と奉られていた俺を初心者と言ったのだ。
 皆が向けてくる目ではない。鮮やかな金色の長髪をフードから漏らしている少女は俺に同情の目を向けてきたのだ。
 
 それが何か微妙に嬉しかった。それが何故か異様に心地よかった。

「…………うわっ! もうこんな時間だわ! キールに怒られちゃう!」
「待って、あなたの名前は…………」
「私? えっと…………エリスよ」

 それだけ言い残して少女は転移石を使い、この場から足早に去っていた。

「エリスか…………」

 巨大な魔石二つと取り残された俺はゆっくりと天井を見る。

「俺はいつかあなたの隣に立てる男になる…………」

 モンスターや冒険者の血で生臭く、汚らしい45層で一人の少年は誓った。
 こうして一人の最強冒険者が生まれた。国民の期待を背負う英雄として歴史に名を刻むアレン・グラトニーと言う男が。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

juice
ファンタジー
過去に名家を誇った辺境貴族の生まれで貴族の三女として生まれたミラ。 しかし、才能に嫉妬した兄や姉に虐げられて、ついに家を追い出されてしまった。 彼女は森で草を食べて生き抜き、その時に食べた草がただの草ではなく、ポーションの原料だった。そうとは知らず高級な薬草を食べまくった結果、体にも異変が……。 知らないうちに高価な材料を集めていたことから、冒険者兼薬師見習いを始めるミラ。 新しい街で新しい生活を始めることになるのだが――。 新生活の中で、兄姉たちの嘘が次々と暴かれることに。 そして、聖女にまつわる、実家の兄姉が隠したとんでもない事実を知ることになる。

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

婚約破棄と追放をされたので能力使って自立したいと思います

かるぼな
ファンタジー
突然、王太子に婚約破棄と追放を言い渡されたリーネ・アルソフィ。 現代日本人の『神木れいな』の記憶を持つリーネはレイナと名前を変えて生きていく事に。 一人旅に出るが周りの人間に助けられ甘やかされていく。 【拒絶と吸収】の能力で取捨選択して良いとこ取り。 癒し系統の才能が徐々に開花してとんでもない事に。 レイナの目標は自立する事なのだが……。

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~

一色孝太郎
ファンタジー
【小説家になろう日間1位!】 悪役令嬢オリヴィア。それはスマホ向け乙女ゲーム「魔法学園のイケメン王子様」のラスボスにして冥界の神をその身に降臨させ、アンデッドを操って世界を滅ぼそうとした屍(かばね)の女王。そんなオリヴィアに転生したのは生まれついての重い病気でずっと入院生活を送り、必死に生きたものの天国へと旅立った高校生の少女だった。念願の「健康で丈夫な体」に生まれ変わった彼女だったが、黒目黒髪という自分自身ではどうしようもないことで父親に疎まれ、八歳のときに魔の森の中にある見放された開拓村へと追放されてしまう。だが彼女はへこたれず、領民たちのために闇の神聖魔法を駆使してスケルトンを作り、領地を発展させていく。そんな彼女のスケルトンは産業革命とも称されるようになり、その評判は内外に轟いていく。だが、一方で彼女を追放した実家は徐々にその評判を落とし……? 小説家になろう様にて日間ハイファンタジーランキング1位! 更新予定:毎日二回(12:00、18:00) ※本作品は他サイトでも連載中です。

処理中です...