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三人目 王族

マルク・ヴァルキリー

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「何の話をしてるんだい?」
「…………誰?」

 私は後ろを振り返って聞くと、そこには一人の青年がいた。

 私たちと同い年ぐらいだろうか。容姿はそこまで大人びではいないものの、風格はどことなくある。
 鮮やかな赤髪に低身長であるが、整い過ぎている顔立ちでそのデメリットは打ち消されている。
 また、それなりに裕福そうな身なりをしていた。

「ひっどいなぁ~。俺のこと知らないの?」

 青年は首を傾げて私たちに聞いてくる。

 あまり他人に興味のない私だが、流石にクラスメイトの顔ぐらいは覚えている。 
 このエレメンタルは一学年、四クラスで、一クラス二十人程度で構成。一学年八十人程度ということだ。
 流石に同学年の全員の顔は分からないが、二十人ぐらいは私でも覚えれる。

「不審者なの? このクラスの生徒じゃないわよね?」
「あっはっは! 不審者か! そんな言葉は生まれて始めて言われたよ!」

 その正体不明の青年は私の言葉に腹を抱えて笑い始めた。
 私は全くこの青年を知らないはずだ。だが、その青年の様子を見て違和感を覚えてしまう。

(どこかで見たことがあるような…………)

 この青年はそこらの同級生に比べれば容姿はずば抜けている。
 一度見れば私の記憶に残るはずだ。
 ここで私の脳裏にアレンが出てきたことは置いておこう。

 だが、私の記憶では見たことがあるような、ないような、そんな曖昧な状態だった。
 そんな私の考えを遮るようにキールが隣で息を呑む。

「…………ッ!」
「き、キール?」

 キールは口を押えて表情を一瞬で真っ青に染めた。
 まるで悪夢を見ているかのような表情をしてその場に崩れ落ちる。

「え、エリス様! 早く頭をおさげください!」

 崩れ落ちるというのは訂正しよう。
 キールは流れるように地に膝をつけて首を垂れるように頭を下げていたのだ。
 その見ず知らずの青年に。

 キールは侯爵家の出自であるため、エレメンタルでは上位の地位に位置する。
 私のような公爵令嬢や令息でなければキールに頭を下げさせるのは無理であるということだ。
 ということはこの青年は私と同地位ということになる。

「別に私が下げる必要なんてあるのかしら?」
「…………なッ!? 大ありですよ! 早くおさげください!」
「な、なにするのよ!」

 キールはその場から立ち上がり、私の頭を抑えつけるように頭を下げさせようとする。
 そんな私たちの様子を見て青年は再び笑い始めた。

「あっはっは! 君たち本当に貴族なのかい? そこらの堅物と違って面白いじゃん!」
「あはは…………それは恐縮です」

 キールはそんな皮肉じみた青年の言葉に頭をかきながら頭を下げる。

「君たちは俺に頭を下げなくてもいいよ。そっちの方が面白そうだし!」
「いえいえ、あなた様に頭を下げないなど…………」

 キールは首を横に振りながらその提案を受け入れようとはしない。
 そんなキールを見て青年は一つ冷たい声質で言った。

「俺が下げなくていいって言ったんだ。意味は分かるな?」
「…………ッ! 承知しました」

 キールはどこか納得いっていないようなそんな表情で頷いた。
 青年は満足したのかうんうんと頷いてから私たちに背を向ける。

「じゃあ、またね!」

 青年はそう言い捨てて満面の笑みを浮かべた。
 そして嵐のように足早にこの教室を去っていった。
 私とキールが残された教室には再び静寂が舞い降りる。

「…………って結局誰だったのかしら?」

 ずっと棒立ちでキールと青年の会話を見ていた私はキールに聞く。
 するとキールは今度は本当に気が抜けるようにその場に崩れ落ちた。

「だ、大丈夫!? どうしたのよ本当に」
「エリス様…………あのお方を本当に知らないんですか?」
「見たことはありそうなのだけど…………」

 そんな私を見てキールは大きく深いため息をついた。
 そして一呼吸おいてからキールは覚悟の持った表情で口を開く。

「あのお方はラグランドの第一王子であられるマルク・ヴァルキリー様です」
「…………殿下?」
「イエス」

 この瞬間私の脳裏に走馬灯のように先ほどの青年との会話が流れ込んでくる。

『不審者なの?』

 私も一呼吸おいてから大きく息を吸い込み今の感情を爆発させた。

「えええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 静寂の教室に一人の令嬢の叫び声が響いたのだった。
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