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二人目 幼なじみ

学園での

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「はぁ~疲れたわぁ」
「エリス様。休み時間だとしてもしゃきっとしてください。誰が見ているか分かりませんよ」
「キールも肩の荷を下ろしたらどう? 絶対にこんな場所されも来ないのだし」

 私とキールは昼休み、第三講義室で食事をしていた。
 この教室は使われなくなった教室である。そのため、私が使っていいかと教師に聞くと自由に使っていいと許可をもらったのだ。
 別に教室で食事をしてもいいのだが、半年通った今でもクラスメイトとそこまで馴染めていない。それであれば人目の付かないところでだらだらしたいという考えだ。
 意外と爵位が高すぎるのも不便である。

「キール」
「なんですか?」

 私は机に突っ伏した状態で顔だけ上げてキールの方に視線を向ける。
 今日は一時間目から考えていた。

 家に帰りたいと。

 気怠さで授業なんてまともに受けていられない。まぁ昨日、ダンジョンに潜った私が悪いのだが。
 それともう一つ。頭の片隅からある人間が離れてくれない。私がノートを取り忘れていたことなんで今日が初めてなのではないだろうか。

「…………帰りたい」
「分かりました。帰りましょう」
「そうよね。公爵令嬢として…………え?」

 うつむいていた視線を上げてキールを見返す。
 私はキールの答えに唖然としてしまった。

 いつも礼儀とか、公爵令嬢としてとか、グチグチうるさいキールが帰っていいと言ったのだ。
 普通なら幻聴と思うのが道理である。

「え? 本当に帰っていいのかしら?」
「ええ。いいですよ…………教室にですけどね」
「……………………」

 そうだった。キールはこういう人間だったのだ。
 下をうつむいた私は一度、暴れそうな心を鎮めようとする。
 だが、今回は無理のようだ。

「むかああああああああああぁぁぁぁぁ!!」
「痛い痛い痛い!?」

 私は手を握りしめてポコポコとキールを殴る。
 私のストレスの半分はキールではなかろうか。
 先ほどの一瞬の高揚感をどこに置けばいいのやら。

「…………はぁ。無駄に疲れたわ」

 疲れるまで殴り終えた私はもう一度、机にぐてーんと突っ伏す。
 キールはそんな私を見て、歪な表情を浮かべながら聞いてきた。 

「そういえば新しい男は見つけたんですか?」
「い、いや見つかっていないわよ?」

 唐突なストレートの質問に私は少し動揺してしまう。
 そしてすぐに脳裏にアレンが…………私は首をぶんぶんと横に振って消滅させる。

 今まで何回も殿方と付き合ってきたが、こんな感情は一度も湧かなかった。
 だから違うはずだ。この感情は好きという感情ではないはずだ。
 私は何度も自分に言い聞かせる。

「……………………ならいいです」
「…………? なんでキールがホッとした表情するの?」
「…………え? そんな表情してないですよ?」

 私が少し興味深そうに聞くとキールは首をぶんぶんと横に振った。
 私の見間違えだろうか。一瞬ホッとした表情を見せた気がするのだが。
 まぁいつも煽ってくるキールがそんな表情するはずもない。

「それより、もうすぐ昼休みも終わります。教室に戻りますよ」
「ふぁーい」

 私はあくび混じりに返事をしてゆっくりと椅子から立ち上がる。
 午後は確か座学と実践訓練が半分ずつだったはずだ。
 座学で寝るという事態だけは絶対に避けなければならない。

「早くキールも見つけなさいよ」
「ん? 見つけるって何をです?」

 私は教室を出る間際に背中を向けたままキールに言った。
 自分の心配ももちろんのことだが、こうして私の従者を担ってくれているキールも十六歳を過ぎているにも関わらず、婚約出来ていない。

「婚約相手よ。たまには自分の心配もしなさい」

 十六歳を過ぎた時にキールに一度従者の役を解くかと提案したことがあった。婚約相手を見つける時間がないのではと危惧したからである。
 だが、あの時は少し涙目になりながらそれだけは止めてくれと懇願してきたのだ。
 なぜ、キールがこの従者という仕事にここまで本気になっているかは知らない。別にそんなに高い給金だって出されていないはずだ。

 だが、キールが続けたいというなら私も歓迎する。
 もう私の専属従者はキール以外考えられない。

「早く見つけないと、私みたいに独り身になるわよ」

 私は自嘲気味にキールに背を向けて口にした。
 そして、扉を開けて第三講義室をあとにする。


 静けさが戻ってきた講義室。キールは一人、部屋の中で微笑を浮かべる。
 そして、そのまま自分に言い聞かせるようにボソッと呟いた。

「もう、僕の婚約候補は決まってますよ」

 こうして二つ目の歯車もゆっくりと回り始めたのだった。
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