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一人目 最強

ストレス発散

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 スキル。それは冒険者の権能のようなものだ。
 冒険者は一人一つのユニークスキルを所持している。
 スキルはモンスターとの戦闘を有利に運んでくれる素晴らしい恩恵である。

「【殺戮の鉄鍋デスフライパン】!」

 私は自分のユニークスキルである【殺戮の鉄鍋デスフライパン】を行使する。

 その瞬間、私の手の中にどす黒い一つの鉄鍋が出現した。
 この鉄鍋はそこらで売っている一般の物と大きさはそう変わらない。
 たが、やはり戦闘では気が抜けるようなフォルムだ。
 一人の少女が鉄鍋を両手で構えてモンスターに立ち向かうなど。

 最初、私が冒険者登録をした時は本当に自分の才能を恨んだ。
 最低ランク冒険者のうえに、フライパンを出すだけのしょぼいスキル。

 貴族だからだろうか。私が平民ではないからだろうか。

 当初はそんなことを考えながらダンジョンに潜っていた。
 そのはずなのだが…………

「まぁアレ、、のおかげだろうけど、意外とこのフライパン、強いのよね」

 私はモンスターを見据えながらフライパンを斧のような持ち方で構える。
 
 このフライパンはどんなモンスターを叩いても全然変形しない。
 一年以上、こうしてたまにダンジョンに潜っているのだが、このフライパンが他の武器より劣るという現場を見たことがないのだ。

「ガアアアアアアァァァァ!」

 牛のような容姿をしたモンスターは私に向かって突進してくる。
 両手に持つ鋭利な斧。私のフライパンと比べたらどれほど見栄えがあるか。
 普通に考えたら鋭利な斧とフライパン。どちらが勝つかと言われたら斧という人が大多数であろう。

 だが、私の【殺戮の鉄鍋デスフライパン】を舐めてもらったら困る。
 私はモンスターの斧の振りかざしを防ぐようにフライパンを頭上に構えた。

 バキンッ!!

「ガァ!?」

 その光景にモンスターは素っ頓狂な声を上げた。

 ―― そう。斧がフライパンに負けて粉砕されたのだ。

 モンスターはその事実にたじろぎながら後ろに少しずつ下がる。
 そんなモンスター…………いや、ストレス発散相手を見て私は少し歪に口角を上げた。 

「今度は私の番ね! フライパンマスターの力見せつけてやるわ!」

 今回はいつも戦うモンスターより頑丈そうだ。
 何分もってくれるだろうか。いつもより長持ちしてくれるのは確かである。

「…………ふぅ」

 私は深呼吸をして自分の中のスイッチを切り替える。
 ここからは貴族の私ではない。ありのままの自分をさらけ出すのだ。



 さぁ…………ストレス発散の時間だ!



「…………死ねやあああああああああぁぁぁぁぁ!」
「ガアァァ!?」

 その急激な雰囲気の変化にモンスターは更に素っ頓狂な声を上げる。
 おしとやかなだと思っていた女性が実は猛獣だった。そんな現場を見れば誰でもそんな表情をしてしまうだろう。

「おらおらおらおらおらぁぁぁぁぁ!」

 私はフライパン片手にモンスターを乱打する。

「ギャアアアアアアァァァァ!」

 武器を持たないモンスターなど所詮サンドバックにすぎない。
 ドスドスと鈍い音を立てながら私は何度もモンスターを嬲り続ける。
 モンスターは全身をフライパンで殴打され、悲鳴を上げ続けた。

「なんで私は公爵家に生まれたのよおおおおぉぉぉ!」
「ギャアアアアアアァァァ!」

 ドカドカ!

「なんで私はモテないのよおおおおぉぉぉ!」
「ギャアアアアァァァ!」

 ドカドカドカ!

「なんで私は婚約できないのよおおおおぉぉぉぉ!!」
「……………………アゥ」

 ドカドカドカドカ!!

「ふぅ…………もう終わりかしら」
「……………………」

 私は声を出さなくなったモンスターを見てそんな言葉を漏らす。
 モンスターは徐々に消滅を始め、地面に一つだけの大きな魔石が残った。
 私は額に流れる汗を拭ってから【殺戮の鉄鍋デスフライパン】を消滅させる。

「いつもよりは発散出来たわね…………」

 いつもなら一、二分程度で終わってしまうのだが、今日は五分ぐらいは戦闘できたのではないか。
 正直、自分でも悪い趣味だとは思っている。
 だけれども、あんな堅苦しい貴族社会に染まってしまうよりはマシであるはずだ。

 ちなみにここでもう一度言っておこう。
 私はサイコパスなどではない。

「今日はもう帰ろうかしら…………」

 モンスターを倒したため、奥にある巨大な扉が音を立てながら開いた。
 そして、その隣に一階層へと戻るための転移石が出現する。
 私は落ちている魔石を回収して転移石へと足を運んだ。

 本当ならもっと暴れたいのだが、早めに帰らないとキールに不審がられる。
 私が冒険業をしていることは絶対にバレてはいけないのだ。

「1階層!」

 私はダンジョンに潜る前よりも晴れた気持ちで転移石に触れたのだった。
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