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1章 少年編

18話 闇

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 一方その頃。ニルヴァーナ家では。

「クソがっ!!」

 ニルヴァーナ家当主、アルバスは自室で声を荒らげる。
 国王に王城に招集されて以来、このように苛立ちを隠せていなかった。
 その理由はフィルが奪われたからではない。

「私に才能が無いだと……?」

 ただ単に自分の才能を侮辱されたためである。
 それも自分では言い返せない国王という絶対的権力者に。

「私はあのニルヴァーナ家の当主だぞ?」

 今まで調教之王テイマリストのアルバスに歯向かう者はいなかった。
 誰もがテイマーの頂点だと崇め、誰もが最強だと恐れおののく。
 だからこそ高貴なプライドに傷がつくことはこれが初めてだった。

「父親としての才能がない? 何を根拠に! フィルは失敗したかもしれないが、リンクもデュークも立派に育っているではないか!」

 国王はフィルの才能を見抜けていないことを指摘したのだが、アルバスはそのことに気付いていない。
 
「リンクは最年少の七歳にして獣を使役し、今では王宮魔術師になっているんだぞ!? デュークだってあの龍種を十五歳でテイムした! これで何が足りないというのだ!」

 アルバスは自問自答するように叫ぶ。
 国王に認められなかったことが、彼の尊大な自尊心を苛み続ける。
 そして彼は最終的に一つの結論に至った。 

「やはり『勇者』を超えるテイマーを育てないといけないのか……?」

 このヴィルヘルムの国王にも勝る絶対的な存在である勇者。
 調教之王テイマリストのアルバスも勇者だけは別格だと考えていた。
 彼自身、テイマーでは敵わないと決めつけていたのだ。

「やはり優秀なのはリンクか? しかし龍種をテイムしたデュークの方が……」

 アルバスはぶつぶつと独り言を口にしながら頭をひねる。

 彼はもともと当主の継承権すら持っていない一族の端くれだった。
 しかし実力で一族の者たちを黙らせ、実績で党首の座までのし上がった。いわば下剋上を果たした人間なのだ。
 だからこそ自分の息子たちにも同じような道を進んでほしい。自分が果たした偉業を一代で終わらせたくない。
 一見、親の愛情のように見えるが、ここまでくれば一種の妄執のようなものだ。

 そんな中、一人の青年が当主の部屋へと訪れる。

「失礼します。大きな声を出されていましたが大丈夫ですか?」
「デュークか。別に何の問題もない」
「それなら良かったです。父上の身に何かあったらと不安で……」

 そう言って、アルバスを気にかける青年の名はデューク。
 フィルの一つ上の兄であり、アルバスの次男である。

 三兄弟の中で最も父親に懐いており、こうしてたびたび父親の前に顔を出す。
 宮廷魔術師であるリンクは魔術塔暮らし。
 フィルも王城暮らしをする前は寮で暮らしていたため、こうしてアルバスと積極的に関わるのはデュークだけとなっていた。

「最近はどうだ? クラスでは一番をとれているか?」
「もちろんです! 同じクラスにいた邪魔者も排除出来ました」
「それでいい。自分に害をなす者は徹底的に排除していけ」
「分かってます。今ではBクラスも俺の支配下にあるですよ」
「……Bクラスだと?」

 聞いていたアルバスだが、その単語を聞くと耳をピクリと揺らす。
 その様子を見て、デュークは危険を察したのか急いで言葉を付け加えた。

「ら、来年にはAクラスに上がれる予定ですので、ご安心ください!」
「そうか、Aクラスで落ちこぼれるなんてことがないようにな。Aクラスだろうと一番を取るように」
「当然です。兄上にだって負けるつもりはありません」
「あぁその意気だ。フィルにも負けないようにな」

 そんなアルバスの言葉に、デュークはいつもなら何度も頷いて見せる。
 けれど今回は目を丸くして驚いていた。
 どうしてかフィルという名前が出てきたためだ。
 しかし、その表情は歪な笑顔にへと移り変わる。

「あっはっは! あの愚弟に俺が負ける? 父上もご冗談を言うようになったのですか?」

 一族内で最も父親を好いているデューク。
 そして最も弟を嫌っているのもデュークである。

 兄とは弟を守るために早く生まれてくる、なんて言葉がある。
 けれどデュークの場合は全くの正反対だった。
 いつも不出来な弟を見ては罵り、貶す。
 過激ないじめだって何度も行ってきた。

 だって、落ちこぼれている弟が悪いのだから。

「ん? いや、そんなことはありえないな。何故私はこのようなことを……」

 アルバスもつい口から滑り落ちた名前に、疑問を抱くのだった。
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