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3章 養い対決

30話 二日目

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 養い対決、二日目。

 俺はアルに呼び出されて魔王城の頂上、玉座のある部屋にいた。
 視線の先では、やる気に満ち溢れたアルが玉座に座っている。

「今日は私の番! 魔王の恐ろしさを味合わせてあげる!」

 人間であれば誰もが恐れおののくような言葉。しかし可愛げがあるように思えるのは何故だろう。

「あぁ。それで何をするんだ?」
「まずは城下街に行く。美味しいものもいっぱいあるから」
「養い対決なのに、料理とか作らなくていいのか? エリ―ナとかは料理の腕で戦いたがってたけど」

 昨日、エリーナは朝食と夕食を用意してくれた。
 その時に絶対に魔王様より美味しいものを作る、そう意気込んでいたのだが。
 すると、アルは胸を張り、誇らしげに言う。

「ふふっ、私がご飯なんて作れると思う?」
「堂々と言うな」

 まぁアルが料理を作ったり、家事をしたりするなど想像もつかないから、納得は出来る。
 それよりも一つ気になっていることがあった。

「そういえば、俺は魔王城から出たらいけないんじゃないのか?」

 忘れているかもしれないが、この養い対決の目的は俺の処遇について。
 そんな最中、魔王城から出るのはいささか本末転倒な気がするけど……

「こうすればいい。【身体操作《ペルソナ》】」

 アルは俺に向かって状態変化の魔法を使った。
 すぐに俺の身長はみるみる縮み、十歳ぐらいの頃の幼少期のような容姿になる。
 そんな俺を見て、アルはにんまりと笑みを浮かべていた。

「ふっふっふ、これで私の方がお姉さん!」

 俺の身長はアルより少し小さくなっている。
 アルより身長が低い者はそういない。新鮮に感じているんだろう。

「ならお姉さん。今日はしっかりエスコートを頼む」
「もちろん! お姉さんに任せて!」 

 意気揚々と頷いたアルは嬉しそうに俺の前を駆ける。
 そんな彼女の後を俺も微笑をもらしながら追いかけたのだった。


 ◆



 魔王城を出た後、俺たちはすぐに繁華街へと赴いた。
 もちろん魔王が街を安易にぶらぶらしていていいはずがない。そのためアルは認識疎外が付与されたフードをしていた。
 彼女曰く、周りからはカッコいいお姉さんのような姿で見えているそうだ。まぁ俺は妨害系のスキルを阻害するスキルを持っているため、何一つ変わってなく見える。それは彼女も承知の上だろう。

「まずは繁華街で美味しいものを食べる!」
「行く場所とか決まってるのか?」
「そ、その場で決めるのが魔王流! ほら、もう着く!」

 アルは少々慌てながらも視線の先を指す。
 今日の詳細は決めてなかったのだろう。そもそも魔王流ってなんだよ。
 そんなツッコミを心の中でいれていたが、すぐに興味はアルが指した方向へと移った。

「おぉ……! ここが……」

 魔王城から見ていた景色と、目の前の景色とでは比べ物にならない。
 等間隔に並んだ美しい街並みに、活気ある国民たち。
 この通りは飲食店が多いらしく、料理店や屋台などいくつも視界に映る。
 いくつもの美味しそうな香りが鼻腔を通り抜けていた。
 アルは何故か決然とした様子で聞いてくる。

「エル、準備はいい? 全部行くよ!」

 ん? 全部と聞こえたのは気にせいだろうか?

「全部? まさか本気でこの通りにある店を……」
「そう、ここにある店を制覇する。それが今日の目標!」

 嬉しそうに、楽しそうに。アルは子供のようにはしゃぐ。
 そんな彼女とは対照的に俺は一瞬で青ざめた。
 だって何店あると思ってるんだ。余裕で五十は越えてるぞ?
 俺を気遣ってか、彼女はドンと俺の背中に手を置いて、

「魔王と勇者、二人合わせれば不可能なんてことはない!」
「その言葉、もっといいタイミングで聞きたかったな……」

 俺はそんな言葉を漏らすが、アルの耳には届かなかった。
 既にアルの意識は食事へと移っていたから。

「ほら! 早く!」

 先に進んでいたアルは嬉しそうに、はにかみながら手招きをしていた。

 その少女の笑みを見るとつい忘れてしまいそうになる。彼女が魔王だということを。
 昨夜エリ―ナが忠告したように、ここから先は茨の道が待っているだろう。
 考えなければならないことだって、やらなければならないことだって、いくつもある。

「あぁ、今行く!」

 でも、今だけは何も考えずにこの時間を楽しもう。
 彼女が魔王ではなく、一人の少女としていられる時間だけは――
 

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