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2章 囚われの姫
16話 奇跡
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そして時は再び現在へと戻る。
アスラは自分の目を疑うように何度も擦る。それでも目の前の光景が変わることはなく、
「ど、どうしてフィーリアが部屋の外に……」
フィーリアは扉にもたれかかり、地面に足を抱え込んで座り込んでいた。
どれだけ連れ出そうとしても折れなかったフィーリアが、自分の目の前にいる。それがどれだけアスラにとって信じられないことか。
さらに、驚愕しているアスラに追い打ちをかけるような事実が発覚する。
「顔色が良くなってる……?」
それは絶対にありえないこと。
今まで一秒、一分、一時間。そうやって時間が経つにつれて、フィーリアの状態は悪化してきた。
それはこれからも変わらない。フィーリアが結界師の役目を辞めない限り絶対に。
なのに……どうして、目の前の妹は一週間前に見た時よりピンピンしているのだろうか。
フィーリアは砂ぼこりを払いながら、ゆっくりと立ち上がる。
「やっぱりお兄ちゃんから見てもそう見えるんだ。本当にエルはすごいよね」
フィーリアはまるで自分のことのように胸を張って言った。
されどアスラはその名前に聞き覚えがない。
「エル? 誰の話をしているんだい?」
「勇者のこと」
「勇者か……って勇者がここに来たのかい!?」
「うん、今そこにいるよ」
驚いているアスラとは対照的に、フィーリアは落ち着いた様子で自分の部屋に視線を向ける。
その部屋からは扉越しでも伝わるほどの魔力量が溢れていた。
「な、なんなんだ、この魔力量は!?」
「ふっふっふ……」
その魔力の圧は魔王幹部の二人をもプレッシャーを与えるほど。
アスラはこの状況は異常だとさらに警戒を強める。
フィーリアも警戒するかと思いきや、エルが自分のことを心配したから外に出したのだと気づき、にんまりと口角をあげていた。
アスラの目から見ても分かる。これは完全に恋する乙女の表情だった。
「ぼ、僕は何もかも分からない……」
「……え?」
アスラはフィーリアにも聞こえる声量でボソッと呟く。
その言葉は重く、飛んでいたフィーリアの意識もアスラに向けられる。
「なんで勇者が地下にいるのかも、なんでフィーリアが顔色を良くして、外に出ているのかも僕には分からない」
アスラの疑問が尽きることはない。現実味がなく、異常な光景が広がっている。
それでも絶望に染められていた未来に光が差し込んだことは事実で。
たとえ、それが逆夢であろうと、正夢であろうと。
自分の妹が笑ってる、それを見れるだけでアスラの沈んだ気持ちがどれだけ救われたことか。
アスラはフィーリアを引き寄せるように強く抱きしめた。
「でも、本当に無事で良かった。フィーリア」
「え、お兄ちゃ――」
フィーリアは抱擁から逃れようと抵抗しようとする。
この年になってまで兄に抱き着かれるなど恥ずかしいにもほどがある。
しかしフィーリアはすぐに抵抗を辞めた。アスラの雰囲気が許してしまうほどのものだったから。
「本当に、本当に良かった……!」
「……心配かけてごめんね」
歯を噛み締め、涙を我慢しているアスラに向かって、フィーリアは今までの感謝の気持ちを込めて、そう告げたのだった。
アスラは自分の目を疑うように何度も擦る。それでも目の前の光景が変わることはなく、
「ど、どうしてフィーリアが部屋の外に……」
フィーリアは扉にもたれかかり、地面に足を抱え込んで座り込んでいた。
どれだけ連れ出そうとしても折れなかったフィーリアが、自分の目の前にいる。それがどれだけアスラにとって信じられないことか。
さらに、驚愕しているアスラに追い打ちをかけるような事実が発覚する。
「顔色が良くなってる……?」
それは絶対にありえないこと。
今まで一秒、一分、一時間。そうやって時間が経つにつれて、フィーリアの状態は悪化してきた。
それはこれからも変わらない。フィーリアが結界師の役目を辞めない限り絶対に。
なのに……どうして、目の前の妹は一週間前に見た時よりピンピンしているのだろうか。
フィーリアは砂ぼこりを払いながら、ゆっくりと立ち上がる。
「やっぱりお兄ちゃんから見てもそう見えるんだ。本当にエルはすごいよね」
フィーリアはまるで自分のことのように胸を張って言った。
されどアスラはその名前に聞き覚えがない。
「エル? 誰の話をしているんだい?」
「勇者のこと」
「勇者か……って勇者がここに来たのかい!?」
「うん、今そこにいるよ」
驚いているアスラとは対照的に、フィーリアは落ち着いた様子で自分の部屋に視線を向ける。
その部屋からは扉越しでも伝わるほどの魔力量が溢れていた。
「な、なんなんだ、この魔力量は!?」
「ふっふっふ……」
その魔力の圧は魔王幹部の二人をもプレッシャーを与えるほど。
アスラはこの状況は異常だとさらに警戒を強める。
フィーリアも警戒するかと思いきや、エルが自分のことを心配したから外に出したのだと気づき、にんまりと口角をあげていた。
アスラの目から見ても分かる。これは完全に恋する乙女の表情だった。
「ぼ、僕は何もかも分からない……」
「……え?」
アスラはフィーリアにも聞こえる声量でボソッと呟く。
その言葉は重く、飛んでいたフィーリアの意識もアスラに向けられる。
「なんで勇者が地下にいるのかも、なんでフィーリアが顔色を良くして、外に出ているのかも僕には分からない」
アスラの疑問が尽きることはない。現実味がなく、異常な光景が広がっている。
それでも絶望に染められていた未来に光が差し込んだことは事実で。
たとえ、それが逆夢であろうと、正夢であろうと。
自分の妹が笑ってる、それを見れるだけでアスラの沈んだ気持ちがどれだけ救われたことか。
アスラはフィーリアを引き寄せるように強く抱きしめた。
「でも、本当に無事で良かった。フィーリア」
「え、お兄ちゃ――」
フィーリアは抱擁から逃れようと抵抗しようとする。
この年になってまで兄に抱き着かれるなど恥ずかしいにもほどがある。
しかしフィーリアはすぐに抵抗を辞めた。アスラの雰囲気が許してしまうほどのものだったから。
「本当に、本当に良かった……!」
「……心配かけてごめんね」
歯を噛み締め、涙を我慢しているアスラに向かって、フィーリアは今までの感謝の気持ちを込めて、そう告げたのだった。
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