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2章 囚われの姫
11話 二人の溝
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「この国の結界術式、それを俺が再構築して消費魔力を大幅に下げようと思う。制約は外せるかわからないけど」
「そんなことが……可能なんですか?」
フィーリアはその言葉を疑うように尋ねてきた。
身体能力に関しては魔族に圧倒的な利がある。
考えもなく戦ったところで人間が勝てるはずもなく。
「あぁ。術式の再構築に関しては人間の方が長けているから」
人類が魔族に勝る方法を模索した結果、術式の再構築が選ばれた。
魔法が火だとすれば術式は火炎放射器。
高度な知識を必要とするため、会得者は少ない。でも会得できたならば圧倒的な力となりえる。
「術式を見ないと分からないけど、多分、一日に一回補充すれば維持できると思う。それに効果も上がるだろうし」
「な、なんでそんなことを見ず知らずの私に……」
俺の誠意が扉越しでも伝わったのか、それとも並べた言葉が事実であるため俺を信用したのか。
フィーリアが俺の言葉を疑うことはなくなっていた。
されど、まだ俺という人間は疑ってはいて。
「私とエルさんは赤の他人です……何が目的なんですか?」
「目的か……仲良くなりたい、じゃだめか?」
「は?」
それは俺が何の着色もなく放った言葉。
俺は皆と笑って暮らせる未来を作りたい、そんな夢物語を望む偽善者だ。
そこにフィーリアが欠けていいはずがない。俺は自分の目の前で誰かが悲しむ姿を見たくない。
「俺はこれでも元勇者なんだ。ここにいる魔族の温かみを知った今、俺は見捨てることなんて出来ない」
「そういうものなんですかね?」
「そういうものなんだよ。勇者ってのは」
そこには何の説得力もなくて。でもこの状況では信じるしかなくて。
「その方法で私は今まで通り……この国の役に立てるんですか?」
それはフィーリアにとって命よりも勝る行動理由。
だから俺は力強く答える。
「あぁ、今よりもっと役立てるはずさ」
「……分かりました。今鍵を開けます」
フィーリアは苦渋の決断の末に、ガチャリと扉の鍵を開けた。
俺は恐る恐るドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開く。
すると、俺の正面に頭から毛布をかぶったフィーリアいた。
見えるのは膝より下ぐらい。ってかそれ、前見えないだろ。
「あ、ごめんなさい、顔を見られるのは恥ずかしくて」
「そ、そうだよな」
もともと内気な性格、というのもあるかもしれない。
でも一番の理由はやせ細った体を見られたくないのだろう。
『魔力根源』を担えば病に伏している者と同等に体が弱っていく。
「すみません。誰も入れる予定なんてなかったので少し散らかってますが」
部屋を見回すと、ポーションの空き瓶、空き瓶、空き瓶。
他にはベッドとテーブルがあるぐらい。女の子らしさなど欠片もない部屋だった。
だからこそ余計に腹が立つ。こんな環境を作り出すこの世界には。
「これが術式か」
「はい、エルさんが来る前に魔力を全て注いだばかりなので、あと三十分ほどは保つと思います」
俺は部屋の奥に向かうと一つの石板のようなものがあった。
そこには濃く赤い魔方陣が刻まれている。【隠匿結界】だ。
外側の光が薄れつつある。フェーリアの言う通り、三十分ほどで消えるだろう。
「じゃあ今から再構築を始めるけど……大丈夫?」
「大丈夫とは……?」
「ほ、ほら。もしかしたら俺が術式をわざと破壊する、って可能性もあるんだぞ? 一応アルに報告とか……」
もちろん俺はそんなことしない。するメリットもない。
だけど俺は勇者だ。人間の希望だ。それこそスパイという可能性もありえる。
疑うのは当たり前で。警戒しなければいけなくて。
「お、お腹痛い……わ、笑わせないでくださいよ」
なのに、フィーリアは「ふっふっふ」と悶えるように笑い始めたのだった。
「そんなことが……可能なんですか?」
フィーリアはその言葉を疑うように尋ねてきた。
身体能力に関しては魔族に圧倒的な利がある。
考えもなく戦ったところで人間が勝てるはずもなく。
「あぁ。術式の再構築に関しては人間の方が長けているから」
人類が魔族に勝る方法を模索した結果、術式の再構築が選ばれた。
魔法が火だとすれば術式は火炎放射器。
高度な知識を必要とするため、会得者は少ない。でも会得できたならば圧倒的な力となりえる。
「術式を見ないと分からないけど、多分、一日に一回補充すれば維持できると思う。それに効果も上がるだろうし」
「な、なんでそんなことを見ず知らずの私に……」
俺の誠意が扉越しでも伝わったのか、それとも並べた言葉が事実であるため俺を信用したのか。
フィーリアが俺の言葉を疑うことはなくなっていた。
されど、まだ俺という人間は疑ってはいて。
「私とエルさんは赤の他人です……何が目的なんですか?」
「目的か……仲良くなりたい、じゃだめか?」
「は?」
それは俺が何の着色もなく放った言葉。
俺は皆と笑って暮らせる未来を作りたい、そんな夢物語を望む偽善者だ。
そこにフィーリアが欠けていいはずがない。俺は自分の目の前で誰かが悲しむ姿を見たくない。
「俺はこれでも元勇者なんだ。ここにいる魔族の温かみを知った今、俺は見捨てることなんて出来ない」
「そういうものなんですかね?」
「そういうものなんだよ。勇者ってのは」
そこには何の説得力もなくて。でもこの状況では信じるしかなくて。
「その方法で私は今まで通り……この国の役に立てるんですか?」
それはフィーリアにとって命よりも勝る行動理由。
だから俺は力強く答える。
「あぁ、今よりもっと役立てるはずさ」
「……分かりました。今鍵を開けます」
フィーリアは苦渋の決断の末に、ガチャリと扉の鍵を開けた。
俺は恐る恐るドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開く。
すると、俺の正面に頭から毛布をかぶったフィーリアいた。
見えるのは膝より下ぐらい。ってかそれ、前見えないだろ。
「あ、ごめんなさい、顔を見られるのは恥ずかしくて」
「そ、そうだよな」
もともと内気な性格、というのもあるかもしれない。
でも一番の理由はやせ細った体を見られたくないのだろう。
『魔力根源』を担えば病に伏している者と同等に体が弱っていく。
「すみません。誰も入れる予定なんてなかったので少し散らかってますが」
部屋を見回すと、ポーションの空き瓶、空き瓶、空き瓶。
他にはベッドとテーブルがあるぐらい。女の子らしさなど欠片もない部屋だった。
だからこそ余計に腹が立つ。こんな環境を作り出すこの世界には。
「これが術式か」
「はい、エルさんが来る前に魔力を全て注いだばかりなので、あと三十分ほどは保つと思います」
俺は部屋の奥に向かうと一つの石板のようなものがあった。
そこには濃く赤い魔方陣が刻まれている。【隠匿結界】だ。
外側の光が薄れつつある。フェーリアの言う通り、三十分ほどで消えるだろう。
「じゃあ今から再構築を始めるけど……大丈夫?」
「大丈夫とは……?」
「ほ、ほら。もしかしたら俺が術式をわざと破壊する、って可能性もあるんだぞ? 一応アルに報告とか……」
もちろん俺はそんなことしない。するメリットもない。
だけど俺は勇者だ。人間の希望だ。それこそスパイという可能性もありえる。
疑うのは当たり前で。警戒しなければいけなくて。
「お、お腹痛い……わ、笑わせないでくださいよ」
なのに、フィーリアは「ふっふっふ」と悶えるように笑い始めたのだった。
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