魔王に養われる【ヒモ勇者】ですが何か?~仲間に裏切られたけど、魔王に拾われたので、全力で魔界ライフを満喫しようと思います~

柊彼方

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2章 囚われの姫

10話 勇者

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「その答えは一つだ。誰かがその膨大な魔力の媒介になっている」
「…………」

 俺は自信ありげに告げた。
 図星だったのか、フィーリアは何も反論することが出来ず、黙り込んでしまう。

「魔王幹部の一人が結界師と聞いた時に何となくは察してはいたんだ」

 そもそも結界師とは戦闘空間に味方を補助する結界を張る職業だ。
 役割を見れば分かるが、重宝される職業ではない。ハズレ職業とまで言われるほど。
 そんな職業が魔王軍幹部? それを周囲に認めさせるには何か絶対的な評価が必要である。
 彼女にとってそれがこの国の結界の維持にあたるというわけだ。

「この結界って相当昔から使われてるよな? 魔力の変換効率も現代と比べて悪い。それを一人の魔力で満たすとなると、制約があるとしか考えられない」

 制約とはその名の通り、制限されることを指す。
 聞いた感じ悪いようにも思えるが、その制限の代償に恩恵をもらえる。

「この【隠匿結界】の制約は少量の魔力で補える代わりに、同じ血筋の魔力しか受け付けない。そんなところだろ」

 人間界でも同じような例はあった。
 例えば巫女だ。神に祈りをささげる巫女は同じ血族でなければならない。
 その祈りを何十年、何百年維持することで神から恩恵が与えられるのだ。まぁ本当に神がいるのかという点は置いておこう。

「それでも足りないな。となると回復ポーションでの補充か? そうすれば体がやせ細って衰弱していく、これで不治の病の完成だ」

 傷を癒し、魔力を回復してくれる回復ポーションだが、万能ではない。
 それは液体が胃を満たすから。どうしても三本、いや、無理をして四本が限界だ。
 フィーリアは満腹になるまでポーションで魔力を回復し続けてきた。まともな食事なんてしてないんだろう。

「ど、どうして……推測だけでここまで辿りつけるはずが……」
「似たような奴を知ってるからな。自分の命なんて気にしない……いつも魔力が枯渇するまで他人の傷を癒す奴が知り合いにいたのさ」

 勇者パーティーに所属する者は皆、『エゴイスト』だ。
 誰もが器たちを蹴落として、その称号を得ているのだから。

 【聖女】は自分の命を蔑ろにしてでも誰かを癒そうとする。
 【武神】は武術を極めるためならどんな手段も使う。
 【賢者】は自分が全知であり、誰からも求められたいという承認欲求を持つ。

 フィーリアもどこか俺たちに似ているんだよな。
 自分の苦しみなんて二の次で。誰かの為に生きることをよしとして。
 その生き方は正真正銘、エゴイストそのもの。
 でなければ毎日そんな生活を送ることも、衰弱するまで使命を果たそうとすることも、出来るはずがない。

 黙り込んでいたフィーリアは声を震わせながら、

「え、エルさんも……そうやって私の生き方を馬鹿にしに来たんですか……!」

 分かっているとでも言いたげに彼女は言う。
 最初に放ったアスラに対しての二度と来ないでという言葉。
 妹を守りたい兄と使命を全うしたい妹。異なる意見で兄妹喧嘩でもしたのだろう。

「そんなわけないだろ。俺は称賛こそしないけど、馬鹿にすることなんて絶対にない」
「……え?」

 想像もしていなかった俺の反応にフィーリアは唖然とした。
 今まで誰からも、そのやり方を批判され、非難され。
 誰からも認めてもらえなかったはずだ。
 だったら俺ぐらいは彼女を認めてもいいだろう。

「フィーリアはこうして裏で国民の幸せのために毎日死ぬような思いをして頑張っている。やり方は間違っているけど、それはとても凄いことだ」
「うっ………」

 フィーリアは何かが込み上げてきたのか、嗚咽を漏らす。

 俺たち勇者パーティーは人類の希望として。
 誰かに認めてもらえて、誰かに後押しされて、誰かに必要とされて。

「私も……分かってるんです……でも、そうするしかない。私の母も祖母も曾祖母も、この使命を全うしてきたから……!」

 フィーリアは悔しさを噛み締めるように言った。
 彼女がしていることは俺たちと同じはずなのに。
 誰からも反対されて。賛同を得られなくて。
 それでもその方法にすがるしかなくて。

 俺は彼女に何もできないのか? 他人だからって見て見ぬふりをするのか?

 そんなことは絶対にない。だって俺は勇者なんだから。

 【勇者】は偽善者だ。善行をして自分に酔うエゴイスト。

 だから、俺は――フィーリアを自分のために助ける。

「フィーリア」
「は、はい」

 俺の覚悟ある口ぶりで察したのか、フィーリアしっかりと応えた。
 互いの顔は扉で見えない。
 恨んでいるのか、怒っているのか、はたまた泣いているのか。
 それでもフィーリアが苦しんでいることは確実で。その状況を黙認してはいけなくて。

 彼女が笑える未来が訪れるように――

「君を俺に救わせてくれ」

 俺は決然と告げたのだった。
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