10 / 36
2章 囚われの姫
9話 違和感
しおりを挟む
あの後、俺は一般常識をラナから教えてもらい、多くの知識を本から得た。
特に驚いたのはこの国に人間が住んでいるということ。
アルは奴隷商に捕まっていた奴隷や難民などを人種関係なく保護しているらしい。
この国の魔族の総人口は一千万人ほど。そして、人間も百人ほどいるようだ。
一千万人のトップがアルなのか……そう言われるとアルはとんでもない凄い人になる。
本当にアルで大丈夫なのだろうか。なんか心配になってきたぞ。
「ここが地下の階段だな」
日も沈んだ静寂な夜。俺はとある女性の元へと向かっていた。
今回は俺の独断だから一人だけ。ラナは真実を知らされていないようだったので呼んでいない。
「不治の病なんてありえるのか?」
俺は地下の階段を下りながらぼそっと呟く。
俺が向かっていたのは地下にあるというフィーリアの部屋である。
建前はお見舞いという風にしているが実際は、真実を確認するためだ。
当然、本当にフィーリアが不治の病を患っているという可能性もなくはない。
「何となくは予想がつくけど……」
魔王城の地下には光が少なく、どこか監獄に似ていて。
こんな日の届かない場所で療養など出来るはずもなく。
徐々に俺の推測が確固たるものへとなっていた。
フィーリアの役職、不治の病、アスラの態度の変化。
それらを総合的に考えて、たどり着く答えは一つ。
俺はフィーリアの部屋に着くとコンコンコンと軽くノックする。
「お兄ちゃん? もう二度とこないでって――」
「ごめん。お兄ちゃんではないんだ。俺はエル。昨日魔王城来たばかりなんだけど……俺の話って聞いてたりする?」
扉越しに聞こえるかすれた弱弱しい声。
それは個性などと片づけられるレベルではない。
衰弱しているようで、衰耗しているように聞こえる。
「だ、誰ですか? どうして地下室に知らない人が……」
「そっか……驚かないで聞いてほしいんだけど、俺は人間なんだ。勇者と呼ばれてた」
俺は落ち着いたトーンでフィーリアに話しかける。
すると予想通り、彼女の態度は一変した。
「な、なんでこんな場所に勇者が……!」
「勇者パーティーから捨てられた俺を魔王様が拾ってくれたんだ。だから元勇者だな」
「魔王様が……だとしても貴方が勇者だったことは変わりません! 帰ってください!」
絶叫にも似た弱弱しい叫び声。
そこには憎悪や嫌悪などの感情が垣間見えて。
俺を忌避するような行動。いや、勇者を、の方が正しいかもしれない。
「分かった。すぐに帰るから、一つだけ聞かせてくれないか?」
「……な、なんですか?」
この時点で俺の推測はほぼ確実なものに昇華していた。
出会ったこともない勇者をここまで恨む理由。それは一つしかない。
「フィーリアは……『魔力根源』を担ってるんじゃないのか? それも一人で」
「……ッ!?」
扉越しにもフィーリアが息をのんだのが分かった。
魔力根源とは、何かの媒体になり、ただ魔力を吸われるだけの役目のこと。
ひたすらに魔力を吸われるため、疲労やストレスは計り知れない。
俺は彼女に追い打ちをかけるように続ける。
「そうだな、例えば……結界を維持するため。とかか?」
「な、なんで……」
フィーリアの声質が憎悪から戸惑いに変わっていく。
どうやら俺の推測は当たっていたみたいだ。
「魔界は良い所だよ。みんな優しいし、料理も美味しい、ふかふかのベッドで寝れる。ここ以上の場所を俺は知らない」
それは魔界に来て何度も思ったこと。
こんな暮らしが人間界で出来るのか。それは断じて否だ。
だからこそ俺は不思議に思った。
「でもさ、どうやって【隠匿結界】を維持してるんだ? 普通なら国を囲むほどの結界、何万人もの魔力が必要なはずだろ? なのに国民から魔力が吸われている様子はない」
魔王城からは出られないものの、魔王城の窓から城下街を見下ろすことは出来る。
何百人、何千人もの魔族が幸せそうに、楽しそうに、人生を謳歌していた。
まるで誰もが結界が張られていることを忘れているかのように。
「その答えは一つだ。誰かがその膨大な魔力の媒介になっている」
「…………」
俺は自信ありげに告げる。
図星だったのか、フィーリアは何も反論することが出来ず、黙り込んでしまった。
特に驚いたのはこの国に人間が住んでいるということ。
アルは奴隷商に捕まっていた奴隷や難民などを人種関係なく保護しているらしい。
この国の魔族の総人口は一千万人ほど。そして、人間も百人ほどいるようだ。
一千万人のトップがアルなのか……そう言われるとアルはとんでもない凄い人になる。
本当にアルで大丈夫なのだろうか。なんか心配になってきたぞ。
「ここが地下の階段だな」
日も沈んだ静寂な夜。俺はとある女性の元へと向かっていた。
今回は俺の独断だから一人だけ。ラナは真実を知らされていないようだったので呼んでいない。
「不治の病なんてありえるのか?」
俺は地下の階段を下りながらぼそっと呟く。
俺が向かっていたのは地下にあるというフィーリアの部屋である。
建前はお見舞いという風にしているが実際は、真実を確認するためだ。
当然、本当にフィーリアが不治の病を患っているという可能性もなくはない。
「何となくは予想がつくけど……」
魔王城の地下には光が少なく、どこか監獄に似ていて。
こんな日の届かない場所で療養など出来るはずもなく。
徐々に俺の推測が確固たるものへとなっていた。
フィーリアの役職、不治の病、アスラの態度の変化。
それらを総合的に考えて、たどり着く答えは一つ。
俺はフィーリアの部屋に着くとコンコンコンと軽くノックする。
「お兄ちゃん? もう二度とこないでって――」
「ごめん。お兄ちゃんではないんだ。俺はエル。昨日魔王城来たばかりなんだけど……俺の話って聞いてたりする?」
扉越しに聞こえるかすれた弱弱しい声。
それは個性などと片づけられるレベルではない。
衰弱しているようで、衰耗しているように聞こえる。
「だ、誰ですか? どうして地下室に知らない人が……」
「そっか……驚かないで聞いてほしいんだけど、俺は人間なんだ。勇者と呼ばれてた」
俺は落ち着いたトーンでフィーリアに話しかける。
すると予想通り、彼女の態度は一変した。
「な、なんでこんな場所に勇者が……!」
「勇者パーティーから捨てられた俺を魔王様が拾ってくれたんだ。だから元勇者だな」
「魔王様が……だとしても貴方が勇者だったことは変わりません! 帰ってください!」
絶叫にも似た弱弱しい叫び声。
そこには憎悪や嫌悪などの感情が垣間見えて。
俺を忌避するような行動。いや、勇者を、の方が正しいかもしれない。
「分かった。すぐに帰るから、一つだけ聞かせてくれないか?」
「……な、なんですか?」
この時点で俺の推測はほぼ確実なものに昇華していた。
出会ったこともない勇者をここまで恨む理由。それは一つしかない。
「フィーリアは……『魔力根源』を担ってるんじゃないのか? それも一人で」
「……ッ!?」
扉越しにもフィーリアが息をのんだのが分かった。
魔力根源とは、何かの媒体になり、ただ魔力を吸われるだけの役目のこと。
ひたすらに魔力を吸われるため、疲労やストレスは計り知れない。
俺は彼女に追い打ちをかけるように続ける。
「そうだな、例えば……結界を維持するため。とかか?」
「な、なんで……」
フィーリアの声質が憎悪から戸惑いに変わっていく。
どうやら俺の推測は当たっていたみたいだ。
「魔界は良い所だよ。みんな優しいし、料理も美味しい、ふかふかのベッドで寝れる。ここ以上の場所を俺は知らない」
それは魔界に来て何度も思ったこと。
こんな暮らしが人間界で出来るのか。それは断じて否だ。
だからこそ俺は不思議に思った。
「でもさ、どうやって【隠匿結界】を維持してるんだ? 普通なら国を囲むほどの結界、何万人もの魔力が必要なはずだろ? なのに国民から魔力が吸われている様子はない」
魔王城からは出られないものの、魔王城の窓から城下街を見下ろすことは出来る。
何百人、何千人もの魔族が幸せそうに、楽しそうに、人生を謳歌していた。
まるで誰もが結界が張られていることを忘れているかのように。
「その答えは一つだ。誰かがその膨大な魔力の媒介になっている」
「…………」
俺は自信ありげに告げる。
図星だったのか、フィーリアは何も反論することが出来ず、黙り込んでしまった。
0
お気に入りに追加
327
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~
春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。
冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。
しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。
パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。
そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる