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72話 影の集団

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「えぇ、二人で協力してがんば――」
「アレン様! お待たせしました!」
「ごめんなさい。アリア様、クロ先輩がどうしてもと聞かなくて……」

 緊張が走っていたこの場に二つの声が響く。
 一人はネイトだ。シアンを安全なギルドまで送り、戦場へと戻ってきてくれたのだろう。
 もう一人は聞き覚えがない。アレンの知り合いっぽいけど……

「クロ、どうしてお前がここに?」
「前にアレン様がおっしゃっていたではないですか! 魔族が現れたと!」
「ま、魔族? 何の話だい?」

 アレンは意味が理解できていないようで首を傾げている。

 そもそも、あの伝説上の魔族が存在することはまずない。
 何故なら魔族を封印するため、私たちの村が九十九層で百層の扉を守護しているのだから。
 祖父の目が光っている限り、魔族がダンジョンに出ることも、地上に出ることも絶対にありえない。

「時間を止めたり、山一つ越えるほど飛ばされたり……自分たちが雑魚とまで卑下してたではありませんか!」
「あっ、その話か……」
「時間を止める?」

 私は納得したアレンを横目に目を細める。
 時間を止めるなんて芸当を可能にする者など、私の知る限り一人しかしらない。
 アレンはクロに説明するために、口を開こうとした。
 しかしクロにその言葉が届くことはない。

「それは魔族じゃなくてえいゆ――」
「さすがの私でも分かります。アレン様の背後にいるのが魔族なんですね!」

 クロは私たちの背後で仁王立ちをしているクラウスに視線を向ける。 
 彼は先ほどから私たちの話が終わるのを律義に待っていた。
 それは余裕なのか、傲慢なのか。どちらにしろハデスの力に溺れていることは確かだ。

「いや、こいつはクラウ――」
「そりゃあ私たちもアレン様のように強くはありません! ですが一応私たちもA級並みの実力は持ち得ています! 足手まといにはなりません!」

 どれだけアレンが説明しようと、クロは聞く耳を持たない。
 こうなったらこちらが折れるしかないだろう。

「アレン、もうクラウスが魔族ってことにしちゃいましょ」
「あはは……まぁ見た目は完全に魔族ですからね」

 私の提案にアレンは苦笑を浮かべながら頷いた。
 この状況下でクロとネイトが参戦してくれるのは非常に助かる。
 私の補助魔法をかけ合わせれば二人も十分、アレンに次ぐほどまでには成長させられるだろう。

「クロの言う通りだよ。手伝ってくれるかい?」
「えぇ! 私はあなたの影ですから!」

 クロはアレンの言葉に応えるように強く頷く。
 そして、彼は高らかに叫んだ。

「お前ら! やるぞ!」
「「ん? お前ら?」」

 私とアレンはクロの言葉に違和感を持つ。
 クロとネイトしかこの場にはいないはずなのに……
 そんな私たちの疑問はすぐに明らかになった。

「やっと出番か。待ちくたびれたぜ」
「ふふっ、魔族はまだ切ったことがありませんの。切り甲斐がありそうですわね」
「この国を脅かす者なら容赦なく殺す。殺す殺す殺す」

 クロとネイトの影から黒いフードをかぶった者たちが現れる。
 その数は五十を超えており、複数の殺気が結界内に漂う。

「く、クロ!? これはどいうことだ!?」
「念のために援軍を連れてきてたんです! 全員、他ギルドの諜報部だったり、王族に仕えている者なので、A級並みの実力はあります!」
「「……は?」」

 私とアレンは同時に素っ頓狂な声をあげてしまった。
 そもそもA級は一国に数十人しかいないと言われている、冒険者の中でもエリートのことを指す。
 それが五十人? 何を言ってるのかな?

 クロは驚いている私たちを気にかけることなく、声を荒げた。

「行くぞお前ら! 魔族をぶち殺せ!」
「「「おおおおぉぉぉ!」」」

 本当に暗殺者なのか? と思ってしまうほどの声量で暗殺者たちは応える。
 そして、五十人の大群はクラウスめがけて疾駆した。

「ちょ、ちょっと待て! その数は聞いて――」

 先ほどまで余裕を見せていたクラウスも、流石にこの人数は想定していなかったのだろう。
 表情を一瞬で青ざめる。と言ってもクラウスはハデスの魔力で真っ黒なので、あくまで比喩的な表現だが。

 暗殺者たちは一目見るだけでも危険だと分かる武器を構えた。
 一人は巨大なハンマーを、一人は肉切り包丁を、一人は奇妙な液体が滴る剣を。

「死ねえええぇぇぇ! クソ魔族がぁぁぁ!」
「切り刻んでやりますわ!」
「殺す殺す殺す!」

 彼らはまるで飢えた獣のようにクラウスに飛び掛かった。
 当然、強大な力を手に入れたとしても、クラウスがこの人数をさばけるわけもなく。もらった力をすぐに扱えるわけもなく。

「い、いやああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 クラウスの断末魔が結界内に響き渡った。
 しかし、暗殺者たちの猛攻が止むことはない。たかるように暗殺者は攻撃を仕掛けていく。
 流石に殺されはしないだろうが、クラウスは死ぬよりも苦しいものを経験することになるだろう。
 うん、本当にご愁傷です。

「じゃあ帰ろっか。アレン」
「え、えぇ。なんかほんとにあっさり終わっちゃいましたね」
「そうね。あれじゃあクラウスも何も出来ないだろうし」
「さっきまで魔神がいたってのが信じられませんよ」

 覚悟を決めていたアレンは肩の力をどっと抜く。
 そんな彼に対して、私は確かな違和感が頭の中でしこりのように残っていた。

「魔神ね……」

 ハデスを捕らえられるような者、ハデスに召喚術式を刻めるような者。
 それこそ魔族なんて存在ではないと不可能なはず……
 
 そんなことを考えながら私はアレンと一緒に帰路に着く。
 こうして国を揺るがすはずの一大事件は、一夜のうちに影で処理されたのだった。

****

 本当に更新が遅れてすみませんでしたああああああぁぁぁぁ!
 学年末テストとかいうやつと、色々なタスクがたまってまして……
 本当にこんなに期間が空いたにもかかわらず、読んでくださる読者の皆様には感謝しかありません。
 もうこんなことにならないように、残り2話は明日と明後日で終わらせる予定です。
 最後までお付き合いいただけると嬉しいです!
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