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61話 国王
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時間が経ち、私たちは昼食を終えると会場へと案内された。
早速、模擬戦を行うらしい。
会場はごく普通の円形の会場。
場外禁止。気絶か棄権、審判が続行不能と判断した場合に勝敗が決まる。
「ふぁ、私はゆっくりと観戦させてもらおうかしら」
私は二階の観客席からアレクを見守ることにした。
この椅子がとてもフカフカで、つい堕落してしまいそうになる。
ちなみにシアンはここに来る道中、書庫があったのでそこに置いてきた。
どうせ結果の見えている試合だ。それならシアンには見聞を広めてもらう方がいい。
王宮などそう簡単に入れる場所ではないのだから。
模擬戦の開始が迫ってくると、二階の観客席にも多くの者がぞろぞろと訪れ始めた。
「ちっ、なんで俺らがアレクサンダーの試合なんて見ないといけないんだよ」
「そうだわ。どうせミート様が勝つと決まってるのに」
「十秒以内に終わるか、誰か賭けない?」
王族たちである。どうやら国王が観客として招集したようだ。
彼らは気色の悪い笑みを浮かべながらこちらへと向かってくる。
「おい! なんかこんなとこに平民がいるんだけど!」
「ほんとだ~! なんか臭いと思ったんだよね~!」
「マジで目が腐りそう。二階の席は王族限定って知らないのかよ」
私を見つけた王族たちは、まるで餌にたかる獣のように口々にした。
王族限定ってなによ。そもそも王宮なんて普通は王族以外来れないでしょ。
と内心ツッコミながらも私は視線を会場から動かさない。
反応するだけ無駄である。王族とはそういう人たちなのだから。
別に私は彼らを責めない。この境遇が、周囲の人たちが自然とそんな人格を作り上げてしまう。
まぁしかし、今の国王はどこか王族とは違っている気がする。
少しずつ王族も変化していくかもしれない。
「おい平民のくせに無視かよ! 王族のお言葉だぞ!」
「聞こえないんじゃない? 言語って一緒だっけ?」
「あっはっは! 言語は流石に一緒だろ! 俺らが使う言語を真似して使ってるらしいからな」
ふむふむ、常識離れにもほどがある。
まるで若い時の私を見ているようだ。
私も昔は皆が空を飛ぶと思っていたし、一発殴れば山を砕けると思っていた。
「おいっ! 無視するなって言ってんだろうが!」
無視し続けていると、一人の王族が、私のもとへと寄ってきた。
アレクより少し年上、二十代前半ぐらいだろうか。
彼は肉薄して私の胸ぐらを掴み、拳を振り上げた。
「痛い目見ないと分かんねぇのか? なら俺が一発――」
ここで私が動けば王族にケガを負わせたと責任を押し付けられるだろう。
なので私は何もしない。しっかりと頬で彼の拳を受け止め……
「辞めろ。カリオン」
青年の拳は私の額すれすれで止まった。いや、止められたと言うべきだろうか。
「お、おじさん。何でこんな所に……」
「おじさんだと?」
「い、いえ! 申し訳ございません! 陛下! ですが、この者は我ら王族の言葉を無視したのです!」
「下がれ。私から言いつけておく」
この圧のある雰囲気、アレクの父である国王だ。
彼もアレクの戦いを見に来たのだろう。
カリオンと呼ばれた青年はニマニマと笑みを浮かべながら集団のもとへと下がる。
「あっはっは、あの平民終わったな」
「そうね、数分もしたら首がはねられてるわよ」
「ふっふっふ。ざまぁないわね」
ん? 私何かしたかしら? すごい恨まれてるんだけれど。
国王は私の隣の椅子に深く腰かけた。
「済まなかったな。迷惑をかけて」
「いえ、しょうがないです」
「しょうがないか……君についてはアレクから色々聞いた。本当に間に合ってよかったよ。危うく王族全員が殺されるところだった」
「アハハ……流石に私はそんなことしませんよ」
私を何だと思っているのだろうか。流石にそこまで器は小さくないと自負している。
アレクから聞いたとなると、私が至極の三剣と関わりを持っていることでも言ったのだろうか。
まぁ国王はこの短期間だけだが、信頼における人物であると思っている。
話されても困ることはない。
「いや、君ではない。ゼルス、という名前を聞いたことはないか?」
「ゼルスおじさんのことですか? 赤髪の?」
「うぐっ……」
「うぐっ?」
私が国王の問いに答えると国王は腹を抉られたような声を出した。
そして一瞬で表情が真っ青に染まる。
私にとってゼルスとは近所のおじさんのことである。
歳は百五十ほど離れているものの、見た目は五十代くらいである。それこそ国王とあまり変わりない。
よく私におもちゃを買ってくれていた思い出がある。
「大丈夫ですか? お顔がすぐれないようですが……」
「全然大丈夫ではないです。本当に申し訳ございませんでしたあああぁぁぁぁぁ!」
「ん、んんんん!? 陛下!? どうしたんですか、急に!?」
私が心配して声をかけると、国王は一瞬で私のもとで土下座した。
しかも喋り方が敬語になっている。どういうことだろうか? 急な展開に私はついていけない。
私の目の前で国王が土下座? ん? 本当に意味が分からない。
すると国王は頭を地面に擦り付けながら告げたのだった。
「ゼルス様はこの国の建国者であり、私の曽祖父です」
「曾祖父ですか……え? 建国者?」
早速、模擬戦を行うらしい。
会場はごく普通の円形の会場。
場外禁止。気絶か棄権、審判が続行不能と判断した場合に勝敗が決まる。
「ふぁ、私はゆっくりと観戦させてもらおうかしら」
私は二階の観客席からアレクを見守ることにした。
この椅子がとてもフカフカで、つい堕落してしまいそうになる。
ちなみにシアンはここに来る道中、書庫があったのでそこに置いてきた。
どうせ結果の見えている試合だ。それならシアンには見聞を広めてもらう方がいい。
王宮などそう簡単に入れる場所ではないのだから。
模擬戦の開始が迫ってくると、二階の観客席にも多くの者がぞろぞろと訪れ始めた。
「ちっ、なんで俺らがアレクサンダーの試合なんて見ないといけないんだよ」
「そうだわ。どうせミート様が勝つと決まってるのに」
「十秒以内に終わるか、誰か賭けない?」
王族たちである。どうやら国王が観客として招集したようだ。
彼らは気色の悪い笑みを浮かべながらこちらへと向かってくる。
「おい! なんかこんなとこに平民がいるんだけど!」
「ほんとだ~! なんか臭いと思ったんだよね~!」
「マジで目が腐りそう。二階の席は王族限定って知らないのかよ」
私を見つけた王族たちは、まるで餌にたかる獣のように口々にした。
王族限定ってなによ。そもそも王宮なんて普通は王族以外来れないでしょ。
と内心ツッコミながらも私は視線を会場から動かさない。
反応するだけ無駄である。王族とはそういう人たちなのだから。
別に私は彼らを責めない。この境遇が、周囲の人たちが自然とそんな人格を作り上げてしまう。
まぁしかし、今の国王はどこか王族とは違っている気がする。
少しずつ王族も変化していくかもしれない。
「おい平民のくせに無視かよ! 王族のお言葉だぞ!」
「聞こえないんじゃない? 言語って一緒だっけ?」
「あっはっは! 言語は流石に一緒だろ! 俺らが使う言語を真似して使ってるらしいからな」
ふむふむ、常識離れにもほどがある。
まるで若い時の私を見ているようだ。
私も昔は皆が空を飛ぶと思っていたし、一発殴れば山を砕けると思っていた。
「おいっ! 無視するなって言ってんだろうが!」
無視し続けていると、一人の王族が、私のもとへと寄ってきた。
アレクより少し年上、二十代前半ぐらいだろうか。
彼は肉薄して私の胸ぐらを掴み、拳を振り上げた。
「痛い目見ないと分かんねぇのか? なら俺が一発――」
ここで私が動けば王族にケガを負わせたと責任を押し付けられるだろう。
なので私は何もしない。しっかりと頬で彼の拳を受け止め……
「辞めろ。カリオン」
青年の拳は私の額すれすれで止まった。いや、止められたと言うべきだろうか。
「お、おじさん。何でこんな所に……」
「おじさんだと?」
「い、いえ! 申し訳ございません! 陛下! ですが、この者は我ら王族の言葉を無視したのです!」
「下がれ。私から言いつけておく」
この圧のある雰囲気、アレクの父である国王だ。
彼もアレクの戦いを見に来たのだろう。
カリオンと呼ばれた青年はニマニマと笑みを浮かべながら集団のもとへと下がる。
「あっはっは、あの平民終わったな」
「そうね、数分もしたら首がはねられてるわよ」
「ふっふっふ。ざまぁないわね」
ん? 私何かしたかしら? すごい恨まれてるんだけれど。
国王は私の隣の椅子に深く腰かけた。
「済まなかったな。迷惑をかけて」
「いえ、しょうがないです」
「しょうがないか……君についてはアレクから色々聞いた。本当に間に合ってよかったよ。危うく王族全員が殺されるところだった」
「アハハ……流石に私はそんなことしませんよ」
私を何だと思っているのだろうか。流石にそこまで器は小さくないと自負している。
アレクから聞いたとなると、私が至極の三剣と関わりを持っていることでも言ったのだろうか。
まぁ国王はこの短期間だけだが、信頼における人物であると思っている。
話されても困ることはない。
「いや、君ではない。ゼルス、という名前を聞いたことはないか?」
「ゼルスおじさんのことですか? 赤髪の?」
「うぐっ……」
「うぐっ?」
私が国王の問いに答えると国王は腹を抉られたような声を出した。
そして一瞬で表情が真っ青に染まる。
私にとってゼルスとは近所のおじさんのことである。
歳は百五十ほど離れているものの、見た目は五十代くらいである。それこそ国王とあまり変わりない。
よく私におもちゃを買ってくれていた思い出がある。
「大丈夫ですか? お顔がすぐれないようですが……」
「全然大丈夫ではないです。本当に申し訳ございませんでしたあああぁぁぁぁぁ!」
「ん、んんんん!? 陛下!? どうしたんですか、急に!?」
私が心配して声をかけると、国王は一瞬で私のもとで土下座した。
しかも喋り方が敬語になっている。どういうことだろうか? 急な展開に私はついていけない。
私の目の前で国王が土下座? ん? 本当に意味が分からない。
すると国王は頭を地面に擦り付けながら告げたのだった。
「ゼルス様はこの国の建国者であり、私の曽祖父です」
「曾祖父ですか……え? 建国者?」
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