『完結』不当解雇された【教育者】は底辺ギルドを再建して無双する〜英雄の娘である私は常識破りの教育で化け物を量産します〜

柊彼方

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29話 少年

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 時を遡ること二時間前。僕はアリアさんから自分の役目について細かく説明してもらっていた。

「非戦闘職の私は基礎は教えられても、応用は教えられないのよね。だから強い人が欲しいの」
「それで至極の三剣グラディウスの力を? アリアさんはやっぱりすごいですね」

 僕たちにとって至極の三剣グラディウスとは伝説のような存在。
 それこそ王族のようなもので冒険者の象徴なのである。
 そんな三人に訓練を手伝って、などと容易に口に出来るはずがない。

「あ、アリアさん? 僕じゃなくてアリアさんが行けば早いのでは? 僕が行ったって追い返されるだけですよ」

 何でも言ってくれと口にしていたのは僕である。
 僕も先程まではどんな課題でも達成してみせると意気込んでいた。
 しかし、この役目は流石に難易度高すぎではないだろうか。

「私が行ったって意味がないのよ。地盤を固めるにはギルド長のシアンが行かないと」
「で、でもぉ……」

 僕はアリアが出す無理難題に頭を抱える。
 円卓の会議所エクスマギナは国の禁書庫と同じくらい重要な場所だ。
 禁書庫とは違い、最強冒険者を前にわざわざ盗みを働く者などいるはずもないため衛兵はいない。
 無理にでも行くことは可能だが、帰ってこれる保証は一ミリもないのである。

「大丈夫よ。シアンならいける・・・わ」
「そ、そうですか? まぁアリアさんがそこまで言うなら頑張りますけど」

 アリアの言葉にはどこか安心感がある。
 まるで彼女が口にした言葉に何かある・・・・のではないかと思ってしまうほどだ。
 先ほどまで絶対反対までに思っていた感情も消えつつあった。

「じゃ、じゃあ! 至極の三剣グラディウスについて教えてください」

 僕は覚悟を入れ直してアリアに尋ねる。
 やるからには最初から本気だ。僕の全身全霊を至極の三剣グラディウスにぶつけなければならない。

「私との関係でいい?」
「はい! お願いします!」
「えっとね。まず入学式で……」

 こうしてシアンはアリアから一時間ほどかけて情報を聞き出した。

 ――そして今に至る。




「貴方たちの大切なアリア先生を奪った者。これなら分かりますかね?」

 僕は好戦的な笑みを作って彼らに告げた。
 その言葉を口にした瞬間、彼らの殺気が先ほどとは比べものにないほど膨れ上がる。

「君か……君が原初の剣のギルド長か」

 アレンは強く拳を握りしめて僕を睨みつけてくる。

 何故、僕がこのような行動に出たのか。
 それは三人に強制的に話を終わらされないようにするためだ。
 自分の力で三人の心を動かす。そのためにまずは挑発して三人の興味を自分へと移した。

「よくもアリアさんを奪ってくれたね。彼女は君みたいな子供が営むギルドにいて良い存在じゃないんだ」

 アレンは先日の英雄との戦闘もあり苛立ちが溜まっている。
 そんな状況で僕の煽るような発言。
 いつも穏やかなアレンはここにはいない。今の彼の額にはくっきりと血管が浮き上がっていた。

「ふふっ。何を怒ってるんですか? それってただの嫉妬ですよね?」
「おいクソガキ! ふざけるのも大概に――」

 カイザーは席から立ち上がり、僕に向かって吠える。
 しかし、そんな彼にひるむことなく僕は続けた。

「事実は事実ですよ。アリアさんは最初に三人のもとへ現れなかった。どういう意味か分かりますか?」
「君に……君に先生の何が分かるの?」

 マリィは眠そうに、しかしどことなく苛立ちを見せている。
 そんな彼女の問いにも僕は特に焦る様子もなく答えた。

「そうですね。それなりに知ったつもりですよ? 例えば……彼女のスキルが【言霊プレカ】だということとかですかね?」
「「「なっ!?」」」

 三人は僕の言葉に目を見開いて驚愕する。
 
 僕のスキルである【鑑定】。それはまだ発現したばかりであり他人のスキルなど見ることなど不可能だ。
 しかし、アリアの今までの言葉、行動、実績など、全ての情報を照らし合わせた結果、そんな答えが浮かび上がった。

 【言霊プレカ】とはほんの少し言葉に重みを乗せるスキルだ。
 成功する、そう口にすればほんの少し成功する確率が上がる、そんなスキルである。
 もちろん戦闘や仕事では何の役にも立たないため、外れスキルと認定されていた。
 
 しかし、アリアの【言霊プレカ】の場合、全てが常識に収まるものではない。
 彼女のスキルは強すぎるのだ。彼女が口にしたことは大抵現実となっている。

 アレンはそんな僕を見て慎重に尋ねてきた。

「あ、アリアさんが教えたのかい?」
「いいえ? 自分でそうじゃないかと考えただけですけど」
「そうか……他に気づいたことは?」
「そうですね。左利きや緊張してるときは耳を触り、嬉しい時は鼻を押さえる、色々性格上のことも知ってますよ?」

 僕が三人と交渉を提示するためにはまともな会話をしなければならない。
 まともな会話とは相手と自分が対等であるときに行われる。
 
 そこで僕の唯一の取り柄である観察力・・・を三人に提示したわけだ。

 予想していたことだがアリアのスキル【言霊プレカ】は公表していないはずだ。
 公表してしまえば多くの者がアリアをこぞって利用しようとするだろう。
 そんな秘匿の情報を僕が知っている。これを聞いて三人が僕に興味を持たないわけがない。
 ここまで全て僕の予想通りである。

「シアン君だったかな? 少し落ち着いて話をしようか。扉のとこにいる君も下がっていいよ」
「しょ、承知しました!」

 彼女は先ほどまで僕を追いかけてきた職員である。
 正直、今こうして交渉の場につくことより、彼女との鬼ごっこの方が辛かったかもしれない。
 
 アレンは今もなお、湧き上がる憤怒を隠すように笑みを作って告げた。

「じゃあ改めて話そうか。君は思っていたより賢い子みたいだ」
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