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16話 会長
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「あぁ! 誰かと思ったらエギンじゃない!」
思い出した。彼は私の元教え子である。
ルーカスと同時期に私が教育していた冒険者協会の下っ端職員だった男だ。
そう、彼は確かに下っ端職員だったはず。それが今や会長とはどういう風の吹き回しだろうか。
「あぁ。そういうことか……」
私を認識するとエギンは納得したように言った。
彼ははいつも通りの強面の表情に戻し、受付嬢に尋ねる。
「おい、なんだこの花は?」
「こ、この女性が一時間でこれほどの幻想花を持っていらっしゃって……流石にそれを認めるわけにはいかず……」
「何ふざけたこと言ってんだ?」
「で、ですよね! なので私もありえないと――」
エギンの言葉に乗るように受付嬢は口にしようとした。
しかし、そんな彼女の言葉を遮る用にどすの利いた声が響く。
「お前に言ってんだよ。何でこんな高難易度のクエストを出してんだ?」
「……え?」
まさか標的が自分に向くとは思ってもいなかった受付嬢は茫然としてしまった。
そんな彼女に追い打ちをかけるようにエギンは口を開く。
「ん? 資料を見ると相手はまだFランクギルドだ。そんなギルドになんでA級冒険者向けのクエスト出してんだって聞いてんだよ」
「そ、それはですね……」
「それは? お前がどう言い訳しようが結論は同じだ。お前は冒険者を殺すような真似をした」
「うっ……」
返す言葉が見つからないのか、受付嬢は黙り込んでしまった。
ギルドにも冒険者同様にランクは存在する。最低でも受けられるクエストはそのギルドのランクの一つ上。
原初の剣がFランクに対してこのクエストはA。完全に規約違反である。
もちろんそのことを知っている冒険者は少ない。今までバレなかったのもしょうがないといえるだろう。
「この女性は俺が担当する。お前は通常運転に戻れ」
「は、はい!」
彼女は何か罰せられると怯えていたようだが、エギンの言葉に表情を明るくした。
だが、それもつかの間。エギンは付け加えるように告げる。
「お前の処遇については後で連絡がいく。せいぜい最後の仕事を頑張るんだな」
「そ、そんな! 会長! お考え直しを――」
「先生。ここじゃ目立ちます。奥で話しましょう」
「分かったわ」
受付嬢の必死な懇願にエギンは聞く耳を持たない。
彼は彼女に背を向け、すたすたと奥の部屋へと進んでいく。
私も急いで並べた幻想花を【空間収納】に収納し、彼の後を追ったのだった。
アリアたちを傍観していた冒険者たちは静まり返った協会で口々にし始める。
「お、おい……何で古代魔法の【空間収納】が使えるんだよ」
「古代魔法は確か失われた魔法のはずよね? そんなことありえるの?」
「ってことはあの女、まさかやばい魔術師なんじゃ……」
「まさか、伝説に出てくる『魔女』じゃないのか?」
ある日突如、魔女は幻想花を何百も持って協会へと現れた。そう瞬く間に噂は広がっていく。
しかし、魔女とアリアは全く持って関係のない。
実際、彼女は【空間収納】をただの便利な魔法だとしか思っていないのだ。
そう、彼女自身、自分は弱いと思い込んでいるが、それは勇者や鍛冶神と比べての話。
空を飛べたり空間を刈りとったりは出来ないものの、それなりの便利な魔法は使えた。
そんな魔法も実は古代魔法であるということを彼女が知るのはまだまだ先の話である。
思い出した。彼は私の元教え子である。
ルーカスと同時期に私が教育していた冒険者協会の下っ端職員だった男だ。
そう、彼は確かに下っ端職員だったはず。それが今や会長とはどういう風の吹き回しだろうか。
「あぁ。そういうことか……」
私を認識するとエギンは納得したように言った。
彼ははいつも通りの強面の表情に戻し、受付嬢に尋ねる。
「おい、なんだこの花は?」
「こ、この女性が一時間でこれほどの幻想花を持っていらっしゃって……流石にそれを認めるわけにはいかず……」
「何ふざけたこと言ってんだ?」
「で、ですよね! なので私もありえないと――」
エギンの言葉に乗るように受付嬢は口にしようとした。
しかし、そんな彼女の言葉を遮る用にどすの利いた声が響く。
「お前に言ってんだよ。何でこんな高難易度のクエストを出してんだ?」
「……え?」
まさか標的が自分に向くとは思ってもいなかった受付嬢は茫然としてしまった。
そんな彼女に追い打ちをかけるようにエギンは口を開く。
「ん? 資料を見ると相手はまだFランクギルドだ。そんなギルドになんでA級冒険者向けのクエスト出してんだって聞いてんだよ」
「そ、それはですね……」
「それは? お前がどう言い訳しようが結論は同じだ。お前は冒険者を殺すような真似をした」
「うっ……」
返す言葉が見つからないのか、受付嬢は黙り込んでしまった。
ギルドにも冒険者同様にランクは存在する。最低でも受けられるクエストはそのギルドのランクの一つ上。
原初の剣がFランクに対してこのクエストはA。完全に規約違反である。
もちろんそのことを知っている冒険者は少ない。今までバレなかったのもしょうがないといえるだろう。
「この女性は俺が担当する。お前は通常運転に戻れ」
「は、はい!」
彼女は何か罰せられると怯えていたようだが、エギンの言葉に表情を明るくした。
だが、それもつかの間。エギンは付け加えるように告げる。
「お前の処遇については後で連絡がいく。せいぜい最後の仕事を頑張るんだな」
「そ、そんな! 会長! お考え直しを――」
「先生。ここじゃ目立ちます。奥で話しましょう」
「分かったわ」
受付嬢の必死な懇願にエギンは聞く耳を持たない。
彼は彼女に背を向け、すたすたと奥の部屋へと進んでいく。
私も急いで並べた幻想花を【空間収納】に収納し、彼の後を追ったのだった。
アリアたちを傍観していた冒険者たちは静まり返った協会で口々にし始める。
「お、おい……何で古代魔法の【空間収納】が使えるんだよ」
「古代魔法は確か失われた魔法のはずよね? そんなことありえるの?」
「ってことはあの女、まさかやばい魔術師なんじゃ……」
「まさか、伝説に出てくる『魔女』じゃないのか?」
ある日突如、魔女は幻想花を何百も持って協会へと現れた。そう瞬く間に噂は広がっていく。
しかし、魔女とアリアは全く持って関係のない。
実際、彼女は【空間収納】をただの便利な魔法だとしか思っていないのだ。
そう、彼女自身、自分は弱いと思い込んでいるが、それは勇者や鍛冶神と比べての話。
空を飛べたり空間を刈りとったりは出来ないものの、それなりの便利な魔法は使えた。
そんな魔法も実は古代魔法であるということを彼女が知るのはまだまだ先の話である。
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