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4話 死んだギルド

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 ミーシャは一時間ほどかけて丁寧にこのギルドについて説明してくれた。

 ギルドとはいわば冒険者の家族のようなものである。
 仕事はクエストを受けたり、ダンジョンの攻略などが主な内容だ。
 
 原初の剣はもともとシアンとミーシャの祖父が経営していたらしい。
 その祖父が亡くなり、経営権がシアンに引き継がれた。
 本来であれば両親に引き継がれる。しかし、シアンに引き継がれたということは二人とも亡くなっているということ。

 このギルドを継続させるために二人の両親は冒険者であったはずだ。
 ダンジョンで命を落とした。そんなところだろう。
 
 二人になればクエストの受注もされないはずだ。子供二人が経営しているギルドに依頼するはずがない。
 こうしてこのギルドは財政困難になるまで落ちていった。これが原初の剣の現状だ。

「隊員も移籍しましてダンジョン攻略も出来ず……」

 クエストの依頼には薬草集めなど簡単なものもあるため二人でも出来ただろう。
 しかし、ダンジョン攻略となると話は変わってくる。 

 ダンジョンとはこの国の中心に生えている巨大な塔のことを指す。
 誰が作ったのか、どのような目的で作られたのか誰も知らない、未知の建造物だ。
 ダンジョンの中には人を易々と殺せるような化け物である魔物が存在する。
 
 何故そのような危険な場所を攻略しようとするのか。
 それはもちろん最上階に何があるのか知りたいという好奇心もある。 
 九十九層までたどり着いた者はいるようだが。最上階にたどり着いた者は誰一人と存在しない。
 最上階にはこの世の全てがある、そんな噂も流れ、多くの者が好奇心を満たすために攻略しようとしている。

 しかし、一番の理由は魔物を倒すことによって核である魔石を得ることが出来るという点だ。

 強い魔物ほど巨大な魔石を持っており、大きいほど魔石は高く換金される。
 この世界でのエネルギーの大半は魔石が担っているのだ。
 そのため、冒険者は日々鍛錬し、強力な魔物を狩ることで大金を得ている。
 
「一つ確認したいのですがよろしいでしょうか?」
「ん? なんですか?」

 私は今まで彼らの話を聞いて分かったことがある。
 何故、あれほどまでに教育者プロフェッサーを喜んだのか。普通このような隊員もいない状況で喜ぶのはおかしい。
 そこで私はある可能性に気づいた。

教育者プロフェッサーって隊員の指導しかしませんよ?」
「「え?」」

 私の言葉に二人は目を丸くして驚いた。

 やはり私の想像通りだ。二人は教育者プロフェッサーのことを経営コンサルタントとでも思っていたのだろう。
 知識のない二人ではこのギルドを存続させることなど不可能。そこで教育者プロフェッサーである私を頼ったわけだ。

 シアンは私に向かって深く頭を下げる。

「す、すみませんでした! ぼ、僕勘違いしてたみたいで……」
「別にいわよ。それに……」

 私はあることを思いつき、にんまりと笑みを浮かべた。
 そんな私を見て二人は首を傾げる。

「「それに?」」

 本来、教育者プロフェッサーとは何人かの隊員の担当になり、指導をしていく役職である。
 だが、父が読み聞かせてくれていた伝記によれば教育者プロフェッサーはギルドを一から経営していたそうだ。
 
(それに、これこそ私が求めていた状況じゃない……!)

 ここで私が手を差し伸べなければ彼らのギルドは潰れる。それは確定事項だ。
 もちろん自意識過剰であるわけじゃない。私も戦力外通告で白金の刃から追放されたのだから。

 しかし、彼ら二人なら私も本気を出せるかもしれない。
 澄み切った目をしている二人なら私の教育方法を聞いてくれるかもしれない。

「お願いします。どうか私をこのギルドで働かせてください。私がこのギルドを再建させてみせます」

 私は二人に向かって深く誠心誠意頭を下げた。

 私が求めていたものは上位ギルドでも、一番の教育者プロフェッサーになることでもない。
 学生の時のように頼れる仲間が欲しかった。誰かに頼って欲しかったのだ。

 そんな私の心を満たしてくれるようにシアンは私の手を握りしめた。

「えぇ。こちらこそよろしくお願いします」
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