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四章 魔術大会

エルフの長

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「「……………………」」

 二人はエルフリアの次の行動を観察するように距離をとった。
 いや、正確には取らざるをえなかったというべきか。

 誰もが高潔で気品のある一族と思っていたエルフの秘術が【破壊者バーサーカー】。
 そして、それをただの生徒だと思っていたエルフが使ったのだ。

「所詮、魔力はもうないんだよ。秘術を使ったところで…………」
「そうですね。私たちが負ける可能性など…………」

 ここで絶対にない、と言い切れるだけ二人は賢い。
 やはり目の前でランテの秘術を見てきたからこそ思うはずだ。
 秘術がどれだけ恐ろしいものなのかを。

 二人が警戒しながら様子を見守っていると、エルフリアはゆっくりと一歩足を前に出した。
 だが、エルフリアと二人の間には数メートルの距離がある。
 一瞬で詰めれる距離ではない。

 また、秘術で容姿などが変わったならまだしも、特に変わった様子を見つけられなかった。
 そのため二人ともどこかで警戒しているつもりでも油断していたのだ。
 そのため、更にエルフリアがもう一歩足を進めた時に気づけなかった。

「…………死ね」
「…………は?」

 テリスはぐるぐると回る世界を視界に入れながら素っ頓狂な声を上げる。
 そう。エルフリアが足を踏み込んだ刹那、長剣を抜刀し、一瞬で距離を詰め、テリスの首を撥ねたのだ。

 その一瞬の出来事にミーナはただ呆然とすることしかできなかった。
 そして、その首を撥ねた当の本人は、

「あぁ! この感触! この臭い! 最高ね!」

 テリスの首を長剣で撥ねた時にかかった血をペロっとなめながら歪な笑みを浮かべる。
 本当ならエルフリアもレイと一緒に戦いたかった。
 レイと一緒に戦えるなんてことはそうないのだから。

 しかし、その場合、ドラコの方が少し不安になってしまう。
 そして、エルフリアもはレイの前では秘術は使いたくないため、ただの魔力のない足手まといになってしまう。

「…………そ、そんなの魔族の範疇を超えてます!」

 ミーナはエルフリアを見てそう吠えた。
 理解したのだろう。少し前まで話していたエルフリアと今のエルフリアでは確実に何かが違うということを。

「血! 血! 血! 血!」

 エルフリアはまるで呪縛のように何度も連呼して叫ぶ。
 その異様な光景に、まるで魔族とは思えない魔物のような知性にミーナは固まってしまう。

 この秘術は最後の砦に近い。
 魔物と同じように知性を失う代わりに、身体能力を何十倍にも向上させる秘術だ。
 エルフリアの基本能力だけでは二人に勝つことは困難だったため行使した。

 そもそも秘術とは族を存続させるための切り札。
 普通はこのような大会で行使するような魔法ではない。
 それは魔王の傘下に入っていないエルフはより一層他の一族と比べてそうなはずだ。

 しかし、どうしてもエルフリアはここで勝たなければならなかった。
 それもこれも全てレイを…………

「っ! これは一度引くしかないですね!」

 白鳥族の個性を生かして大きく羽ばたき、この戦場から離脱しようとする。
 今まで何度も険しい道を辿ってきたからこその選択であり、最善手であろう。
 しかし、それは常人に対しての回答だった。

「死ねえええええええええぇぇぇぇぇぇ!」
「……………………なっ!」

 エルフリアは地面をえぐるように地を蹴り、何十メートルの上空の空を舞う。
 そして、逃げようとしていたミーナの首根っこを掴み地面にたたきつけた。

「…………うっ!」

 ドガンッ!

 激しい音をたててミーナは地面に埋もれる。
 魔力障壁をぎりぎりで行使したのだろう。所々出血しているだけで済んでいた。
 しかし、それだけでは済まない。

「死ね死ね死ね死ね死ねぇ!」

 倒れこんでいたミーナに向かってエルフリアは何度も拳を振り下ろす。
 皮膚が抉れ、骨が砕け、血管が破裂する。
 見ている側が苦しくなるような光景である。
 しかし、エルフリアは殴打を止めない。いや、止められないと言う方が正確である。

「……………………」

 すでにミールは死亡しており、待合室に戻っているはずだ。
 そうであるにも関わらずエルフリアは原形をとどめないほど殴打していく。

(止まって、止まって、止まって!)

 こうなるのは分かっていた。理解していた。
 それでもエルフリアは自分の所業を許せない。
 脳は何度も命令を出すが、体は言うことを聞かず、ひたすら破壊を尽くす。

(や、止めてええええええぇぇぇ――)

 エルフリアは心の中でそんな叫び声をあげる。
 そして、エルフリアの頬を意図粒の涙がしたり落ちた。
 その刹那――

「…………うぐっ!」

 頭部に強烈な衝撃を受け、エルフリアは意識を失ったのだった。
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