上 下
54 / 73
四章 魔術大会

実況

しおりを挟む
『はいどうもぉ! アナウンスを務めている私、三年部のアナ・ウンスが引き続き実況を務めたいと思いまぁす!』

 アナは待合室で投影魔法で写っている戦場の実況を行う。
 アナはアナウンス、並びに実況に長けており、一年部の時からアナウンスの天才児と呼ばれていたのだ。
 そのため、今年もアナの実況を楽しみにしている者も多い。

『今日はゲストに三年部最強の男、ゲータさんと卒業生で魔王城で務めているバルランドさんに来てもらいました!』

 アナは隣にいるゲータとバルランドを紹介する。
 ゲータは筋肉もりもりの体育会系男子だ。
 そして、バルランドは賢そうなダンディなおじさんと言えばいいだろうか。

「どうも! 最強の男とか呼ばれてるゲータだ! もちろん私も魔術大会には参加するが、自分の試合以外はこうして実況の手助けをしようと思ってる」
「こんにちは。生徒の皆さん。バルランドです。この魔術大会は各先生もご覧になっているため、あんまり断言しては言えないんですけど、まぁ要約すると将来に役立ちます。僕もこうして魔王城で務めれてるので…………皆さんが全力が出せることを願っています」
「「「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」」」

 その二人の言葉に生徒たちは皆、歓喜の声を上げた。
 ノリに乗っている光景を見てアナは口角を上げる。
 アナにとってこの状況こそが至福。これ以上の幸福を知らないのだ。

『では実況を始めまぁす! モニター…………オン!』

 そのアナの声とともに真っ黒に染まっていたモニターが一回戦を映し出す。

『おおっと! 誰だこの娘は!? 全速力で住宅街の屋根を駆けているぅぅ!』
「「「……………………は?」」」

 最初に動き出したエルフリアにフォーカスが当てられる。
 しかし、その異様な速さに生徒たちは固まっていた。

 だが、流石アナウンスの天才児だ。
 アナだけは平常を保って実況を行っている。

 それに続くように遅れて我に返った二人はコメントを入れる。

「さ、早速奇襲をかけようとしてるのか! 血気盛んなこの子がいるパーティーは…………ドMパーティー? ん? これってМなのか?」
「か、風魔法で自分の速さを促進させてますね…………しかし、この魔法はなんです?」 
『バルランドさんでも分からないんですかぁ!? この娘、いったい何者ですか! 今後の行方が楽しみですね!』

 エルフリアはまるで風のように屋根を走っていた。
 しかし、それは速さの増幅魔法を超えており、生徒の範疇を超えていたのだ。

『オリジナル魔法ですかね?』
「その可能性が高いな。しかし、生徒にこれほどのオリジナル魔法を使える奴がいたとは」
「…………ん? この子。元エルフの族長じゃないですか」

 そのバルランドの言葉にすぐにアナが応答する。

『はい。この生徒はここ数週間前までは族長をしていたようです。ならこの魔法は納得ですね!』

 そのアナの言葉に同じ容認モニターを眺めていた生徒たちも安堵する。
 そんな中、ゲータが首をかしげて口にする。

「これってどこに向かってるんだ? このままいけば場外だぞ?」
『まずは合流するつもりなんじゃないですかね? しかし、わざわざ場外ギリギリまで移動した意図は分かりませんが』

 そのアナの疑問とともに左下に小さな地図が映し出された。
 五パーティー、計十五人の生徒たちの居場所である。
 もちろん、現在参加しているレイたちは知ることはできないが、実況者側は知ることができるのだ。

「レイ選手のところに向かってますね。まさか正反対に転移させられたのに開始数分で何十キロもの距離を移動するとは」

 バルランドは少し苦笑いしながら言った。

 魔術大会ではマップがとても広くなっている。
 それはエルフリアのように魔法で戦うため、空間が広くないと窮屈に感じてしまうためだ。

 しかし、数分でたどり着くなどあり得ていいわけがない。

「普通は男が自ら出向くものだろ! なんだこの男は!」

 熱血、体育系のゲータは憤りをあらわにしながら言った。
 しかし、そんな言葉がレイに聞こえるわけもなく…………

『ん? 屋上に寝っ転がりましたね?』
「何か魔法でも打つのか? しかし、寝っ転がって打つ魔法など俺は知らんな」
「…………もしかして寝るつもりなんじゃ」

 そのバルランドの言葉にアナとゲータは含む生徒たちがないない、と首を横に振った。
 まぁ試合中に寝るやつなどいるはずもない。それが常識なのだから。

『お、エルフリア選手! レイ選手の隣に座りました。これは何をするつもりなのでしょうか?』
「おいおいおい! このレイって男、本気で寝始めたぞ!」
「エルフリア選手は…………レイ選手の頭を撫でてる? アハハ…………な、何の効果があるんでしょうかね?」

 そんな映し出された光景に待合室の空気がどっと重くなる。

(((何を見せられてるんですかね?)))

 この場にいる全ての魔族の考えが重なった瞬間だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

勇者はいいですって言ったよね!〜死地のダンジョンから幼馴染を救え!勇者?いらないです!僕は好きな女性を守りたいだけだから!〜

KeyBow
ファンタジー
異世界に転生する時に神に対し勇者はやっぱいいですとやらないとの意味で言ったが、良いですと思われたようで、意にそぐわないのに勇者として転生させられた。そして16歳になり、通称死地のダンジョンに大事な幼馴染と共に送り込まれた。スローライフを希望している勇者転生した男の悲哀の物語。目指せスローライフ!何故かチート能力を身に着ける。その力を使い好きな子を救いたかっただけだが、ダンジョンで多くの恋と出会う?・・・

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

結婚式の日取りに変更はありません。

ひづき
恋愛
私の婚約者、ダニエル様。 私の専属侍女、リース。 2人が深い口付けをかわす姿を目撃した。 色々思うことはあるが、結婚式の日取りに変更はない。 2023/03/13 番外編追加

Fランクの光魔術師ですが、チートな魔剣士に覚醒しました。~あれ? この魔剣、勇者の聖剣より強くね?~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「ユーク、遠距離魔術を使えない君なんてもういらないよ」  光魔術師のユークはある日突然勇者パーティを追放される。  光魔術は全属性の中で最高の威力を持つが、ユークには遠距離魔術の才能がなかったのだ。  絶望するユークだったが、あるきっかけで魔剣を手に入れる。  そしてユークが魔剣に魔力を流した途端――ヴゥンッ、という音を立てて光の刃が出現した。  防御不能の最強魔剣、【光の魔剣(フォトンソード)】の誕生である。 「これなら俺も戦えるかもしれない」  ユークは光属性の魔剣を使い次々と手柄を上げていく。  ダンジョンをあっさりクリア。  街を襲う邪教徒たちも殲滅。  真の仲間も手に入れ、あっという間に成り上がっていく。  一方、ユークを失った勇者パーティには徐々に暗雲が立ち込める。  今までの輝かしい実績はユークがいたからこそだと気付き、ユークを連れ戻そうとするがもう遅い。  すでにユークは勇者よりもはるかに強くなっていたから。  これは遠距離魔術の才能はなく、代わりに魔剣士としては最強の少年が栄光を手にする物語。 ーーーーーー ーーー ※毎日十二時更新です!(初日のみ鬼更新) 【宣伝!】  現在連載中の、 『厨二魔導士の無双が止まらないようです~「貴族じゃないから」と魔導学院を追放された少年、実は規格外の実力者~』  が書籍化されます!  こちらもよろしくお願いします~!

配信者ルミ、バズる~超難関ダンジョンだと知らず、初級ダンジョンだと思ってクリアしてしまいました~

てるゆーぬ(旧名:てるゆ)
ファンタジー
女主人公です(主人公は恋愛しません)。18歳。ダンジョンのある現代社会で、探索者としてデビューしたルミは、ダンジョン配信を始めることにした。近くの町に初級ダンジョンがあると聞いてやってきたが、ルミが発見したのは超難関ダンジョンだった。しかしそうとは知らずに、ルミはダンジョン攻略を開始し、ハイランクの魔物たちを相手に無双する。その様子は全て生配信でネットに流され、SNSでバズりまくり、同接とチャンネル登録数は青天井に伸び続けるのだった。

すごいよ!! リヴァイアサン ~神獣様♀に甘やかされた転移召喚師の成り上がり探索記~

Hyronet
ファンタジー
くたびれた社畜〈坂内コウジ〉は、気が付けば〈召喚師〉として異世界に転移していた。 「異世界転移……!? いや、帰らないと仕事が……」 哀しみの社畜。 しかし、帰ろうにもそこは絶海の孤島だった。 周りはただ、海、海、海……。 唯一の住人は、コウジを起こした超絶美少女だけだった。 転移の魔力というやつか、コウジはその超絶美少女にやたらと懐かれることに……。 ところが、その少女の真の姿は孤島に封印されし【Lv:38,000 始原の海神 リヴァイアサン】だった。 召喚師の契約により封印を解いたコウジはリヴァイアサンの背に乗って孤島を脱出し、迷宮遺跡と冒険者たちの大陸へ向かう。 「あたしが守ってあげる。何も心配いらないよ」 二人は少しずつ心を通わせあう。 強くて、可愛くて、ちょっとバカで、おっぱいが大きい(大事)海神様と甘えたり甘えられたり……絶大なバブみの沼にハマっていくコージ。 そんな、チートすぎる神に甘やかされた最弱冒険者の他力本願冒険譚である。

ハズレ職の<召喚士>がS級万能職に化けました~世界で唯一【召喚スポット】をサーチ可能になった俺、次々と召喚契約して一瞬で成り上がる~

ヒツキノドカ
ファンタジー
 全ての冒険者は職業を持ち、その職業によって強さが決まる。  その中でも<召喚士>はハズレ職と蔑まれていた。  召喚の契約を行うには『召喚スポット』を探し当てる必要があるが、召喚スポットはあまりに発見が困難。  そのためほとんどの召喚士は召喚獣の一匹すら持っていない。  そんな召喚士のロイは依頼さえ受けさせてもらえず、冒険者ギルドの雑用としてこき使われる毎日を過ごしていた。  しかし、ある日を境にロイの人生は一変する。  ギルドに命じられたどぶさらいの途中で、ロイは偶然一つの召喚スポットを見つけたのだ。  そこで手に入ったのは――規格外のサーチ能力を持つ最強クラスの召喚武装、『導ノ剣』。  この『導ノ剣』はあらゆるものを見つけ出せる。  たとえそれまでどんな手段でも探知できないとされていた召喚スポットさえも。    ロイは『導ノ剣』の規格外なサーチ能力によって発見困難な召喚スポットをサクサク見つけ、強力な召喚獣や召喚武装と契約し、急激に成長していく。  これは底辺と蔑まれた『召喚士』が、圧倒的な成長速度で成り上がっていく痛快な物語。 ▽ いつも閲覧、感想等ありがとうございます! 執筆のモチベーションになっています! ※2021.4.24追記 更新は毎日12時過ぎにする予定です。調子が良ければ増えるかも? ※2021.4.25追記 お陰様でHOTランキング3位にランクインできました! ご愛読感謝! ※2021.4.25追記 冒頭三話が少し冗長だったので、二話にまとめました。ブクマがずれてしまった方すみません……!

処理中です...