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二章 学園生活

優雅な朝はどこやら

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 冒険者ギルドをあとにした俺たちは軽く食事を済ませて、互いの寮に戻ろうとした。
 もちろん女子寮と男子寮は分かれているだろう。俺はそう思ったのだ。

 しかし、俺が別れようとするとエルフリアが首をかしげて、まるで当たり前かのように言った。

『私は寮なんて嫌ですよ。私たちは同じ別荘ですよ?』

 この瞬間俺は理解したのだ。
 一族の長という立場を。そしてエルフリアという女性の恐ろしさを。

 まぁ屋敷というほどではなかったが、二人暮らしにしては十分大きい屋敷であった。
 そこからの記憶は衝撃が強すぎてあまり覚えていない。






 ちなみにそのエルフリアの恐ろしさはさっそく朝から発動していた。

「おはようございます。レイ様」
「…………なんかこの光景が当たり前になるのが嫌なんだけど」

 声がした方に振り向くと息のかかる距離にエルフリアがいた。
 確かに昨日の夜は別々の部屋に分かれたつもりだ。

 もちろん学校側の指図だろうが、二人用の巨大なベッドもあった。
 だが、実際俺とエルフリアは夫婦でも恋人でもない。会って二日の関係だ。
 エルフリアは一緒に寝たがっていたが、俺が断った。
 正直、どうしてそこまでエルフリアが俺に懐いてくれるか分からない。魔族はみんなそんな感じなのだろうか。

 ちなみに昨日の夜はハデスは帰ってこなかった。
 エリーナが【念話リークをかけてくれたが、繋がらなかったそうだ。

「ってかいつの間に俺を移動させたんだ?」

 辺りを見回すと例のベッドの部屋だった。

「私が魔法で運んだんですよ。レイ様を起こさないようにするためにめっちゃ魔力操作を頑張りましたよ!」

 褒めてくださいと言わんばかりに頭を差し出してくる。
 正直、本当にほめてもらえると思っているのだろうか。
 まぁエルフリアに乗せられている気がして腹が立つが、今はこれしかあるまい。

「褒めるわけがないだろ」
「…………うへっ! やっぱりレイ様の拳骨はいいですね!」
「……………………」
「そんな蔑視したような目で見ないでくださいよ! やったのはレイ様でしょ!」

 予想以上のエルフリアの嬉しそうな笑みに俺はドン引きしてしまいそうになった。
 本当にM属性持ちの人って怖いですね。

「それより今日から学校ですよ! 早く身支度しないと!」
「忘れるわけないだろ。はぁ……今日無事に帰れるかな」
「フラグみたいなこと言わないでくださいよぉ」
「フラグの原因に言われたくないね」

 俺とエルフリアはいつものように会話を交わしながらベッドから降りて身支度を済ませる。
 こういうのは後々来るものなのだろう。
 身支度中にエルフリアと一緒に寝ていたのを再確認し、羞恥に駆られていたのは秘密である。
 どんな男だろうが、軽装の女性が近くで一緒に寝たとなれば動揺しない者はいまい。



「…………に、似合ってるな」
「ふふっ。レイ様も私なんか比べ物にならないほどにかっこいいですよ」

 制服に着替えた俺とエルフリアは玄関で自分たちの服装を見合う。
 きりっと整えられ、若者を彷彿させるような服装。ほんとに学生になったんだと実感できる。

「レイ様にはエルフの耳は似合いますね」

 エルフリアは俺のつけ耳をちょこちょこと触りながら言ってくる。
 どうやらこれは魔力が接着剤になるらしく、俺が魔力切れを起こさない限り外れることはないようだ。
 まぁ緊急事態にならない限り外れないという認識でいいだろう。

「そ、それはどうも」

 至近距離に近づいてきたエルフリアにすこしたじろいでしまうものの、俺はいつも通りの冷静を装う。
 俺は理解している。人の恐怖を。
 エルフリアはそんな魔族ではないにしても、元勇者パーティーで一緒だった奴らのように人間はすぐに表情が化ける。まぁそれは女性だけではないか。人間とまとめてもいいだろう。

 まぁ朝からそんな暗い考えをするのはよそう。
 俺は気持ちを切り替えるように言った。

「…………じゃあ行きますか」
「ええ。楽しみですね!」

 こうして俺たちはやっと魔法学院に入学することになったのだった。
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