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冒険の始まり

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 隠れ主人公であったカルマにざまぁされた次の日、俺は決心をする。

「もう仕方ない…………ボッチで行くしかないか」

 俺は宿屋の中、整理した荷物に視線を向けながら言った。

 ここで俺が勇者パーティーを抜けた六割の理由を説明しよう。
 それは勇者などという肩の荷が重くなる称号を捨てたかったからだ。
 特に皆の期待にこたえたい、ヒーローに、英雄になりたいなど思わない俺にとって勇者の称号は天敵であるのだ。

 なら何故、勇者になどなったのか。
 それは八年前にまで遡る。


 俺が十歳の時、まだ冒険者にも、ましてや大都市から外れた田舎暮らしをしていた頃のことだ。

『ねぇ。レイ! チャンバラごっこしよ!』
『いやだよぉ。アスねぇ、強すぎるもん!』

 今でもあの頃の記憶だけは鮮明に思い出すことが出来る。 

 俺は幼馴染のアステリア、通称アスねぇといつものように日が暮れるまで遊んでいた。
 住んでいた場所が田舎の中の田舎であったため一つ年上のアスねぇ以外、年が近い友達が一人もいなかったのだ。
 そして、いつもアスねぇの好きなチャンバラを毎日毎日繰り返す日々を送っていた。

『レイ…………もうちょっと工夫したら?』
『アスねぇが強すぎるんだよ! ちょっとぐらい手加減してよ!』
『私にそんなこと言ったって無理なの知ってるでしょ?』
『ぐっ…………』

 今、十八になった俺でもアスねぇには勝てないのではなかろうか。そう思うほどアスねぇは剣に関しての実力を持っていた。

 そして、ある日。俺はアスねぇに勝つ方法を考えた。負けっぱなしは気に食わなかったからだ
 そこで俺は、もっと強い剣を持てばいいんじゃね? という考えに至ってしまう。

『…………おいしょ!』

 そして俺は家の前に刺さっていた金色の剣を抜いてしまう。
 両親から聞かされていたその剣の名前は聖剣エクスキャリバー。なんと、誰かの失敗作とかなんかで家の前に刺さったまま捨てられていたらしい。
 見た目とその名前は惹かれた俺は普通に抜いて使ってしまったのだ。

『おりゃあああぁぁ!』
『えいっ! 見た目だけ強くなっても私には勝てないわよ』

 まぁ結局、いつも通り一瞬で負けてしまい、更にはその剣を奪われるというだらしない負け方をしてしまった。
 その聖剣はアスねぇのものになってしまう。しかし、俺が剣を抜いたことには変わりない。

『レイ…………お前には勇者の素質がある』

 ただ、そこらに刺さっていた剣を抜いただけなのに、族長からそう告げられて俺は急遽、大都市に送られてしまった。
 こうして、新たなちびっこ勇者が生まれたというわけだ。
 誰だよ。失敗作とか言った奴。

「ってかなんで、家の前に普通は聖剣とか落ちてないだろ」

 俺は思い出していた過去を振り返りながら口にする。

 その聖剣は特に深く刺さっていなかった。普通にアスねぇでも抜けただろう。
 ならなんでそんなものが村にあったのか。それを俺は確かめなければならない。
 捨てられていたというのは絶対にありえない。

「はぁ帰るか…………でもなぁ…………」

 そのため、俺は勇者パーティーを抜けたらすぐに実家に帰るつもりだった。
 しかしだ! もし、俺が勇者パーティーを追放されて、ボッチで帰ったら村の人たちはどう思うだろうか!

『え? だっさぁ』
「…………とか言われるじゃん!」

 俺は座っていたベットの枕に顔を押し付けながら独り悶える。

 今、アスねぇは何をしているか知らないが、絶対にアスねぇは俺のことを煽ってくるだろう。
 さらに、毎日チャンバラと言って本物の剣で刻まれる日々が始まるのだ。

「彼女さえ…………彼女さえできれば」

 そう。だから俺は合コンに何度も行っていたのだ。

 彼女さえできれば、そのままゆっくり辺境の村で暮らせる。そして、村の人たちに胸を張って帰ることが出来る。
 もう何もストレスを感じることなく、普通の家庭を気づくことが出来るのだ。

「いや。カルマにもできたんだ…………あと一年、あと一年頑張ろ」

 昨日の光景が脳裏にフラッシュバックする。
 言い方は悪いが、あのブスのカルマにできたのだ。俺にできないはずがない。

 俺はそんな執念にかられながら、荷物を【インベントリ】という四次元の収納空間に片づける。
 そして、朝日が出始めたころに宿屋を出たのだった。
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