名前も知らないあなたに、別れを告げて

AKA

文字の大きさ

大中小

5 / 6

第一町④

しおりを挟む

窓から朝日が入ってきて目が覚めた。
「ふわぁ～」
私はあくびをしながら、体を起こした。
寝ぼけながら身支度を整えていると一階から香ばしいいい匂いがしてきた。
そういえば、今日の朝はアイリスさんが作ってくれることを思い出した。
謙遜していたが、絶対美味しいと思えるような匂いだ
そうだとしたら、より一層楽しみだ。
私はウキウキしながら、部屋を出ていった。
一階に降り、食堂に入ると、厨房で料理をしているアイリスさんの姿があった。
「おはようございます」
「アリスちゃん、おはよう。早いわねぇ」
「そんなことないですよ」
「まだうちの息子は寝てるし、早い方よ。あともう少しで出来上がるから、席に座ってていいわよ」
「分かりました」
私は近くの席に座った。しばらくすると、アイリスさんが料理を持ってきた。
「アリスちゃん、お待たせ」
「ありがとうございます」
「簡単なものだけど、ボルシチとパンを作ってみたわ。うまくできてるといいんだけど」
「いえ、すごく美味しそうですよ。早速食べてみますね」
私はスプーンでスープを掬って飲んだ。
酸味があるが、そこに食材の旨みが溶け込んでいてとても美味しい。
「アイリスさん、とても美味しいです」
「そりゃあ、よかった。口に合うかどうか分からなかったからドキドキしちゃったよ」
「大丈夫ですよ。この美味しさならお店に出せますよ」
「そう言ってくれると作った甲斐があったわね」
アイリスさんと話をしていると、あくびをしながらルイス君が入ってきた。
「着替えてから降りてくる」
「えぇ～、このくらいいいじゃん」
「お客さんがいるんだから、早く着替えてきな」
「は～い」
「ごめんね、まったく何回言っても直らなくてね」
「気にしなくてもいいですよ」
「そうかい。ゆっくり食べてってね」
「はい」
私は味わいながら朝食を食べ始めた。
途中、ルイス君が着替え終わって戻ってきた。そして、朝食を食べ始めた。
私は朝食を食べ終えると、食器をアイリスさんの元に持っていった。
「美味しかったです。お皿はここに置いておけばいいですか」
「そこに置いといていいよ。わざわざありがとね」
「いえ、作ってもらったので、せめてこれくらいはしますよ」
「そう、えらいわね」
「あっ、少しお聞きしてもいいですか」
「いいよ、なんでも聞いて」
「この街の有名な場所だったり、観光名所とかってなにかありますか」
「そうだね。あんまりそんな感じのものは少ないけどあるかな」
「どこら辺にありますか。できれば分かりやすいところにあるといいんですけど」
「そうだね。土地勘がないから、すぐに迷いそうだしねぇ。そうだ、うちの息子に案内させるかい」
「えっ、なんで俺なんだよ」
「どうせ、暇だろう」
「暇じゃねぇし」
「そこら辺で遊んだり、だらだらするだけなら案内くらいしな」
「えぇ、めんどくさいな」
「えと、いいんですか」
「あぁ、いいさ」
アイリスさんはルイス君のことをチラッと見た。
「分かったよ。案内するよ」
「ありがとうございます」
「こんな息子だけど、案内くらいはできると思うから、遠慮なくこき使っていいからね」
「こき使うなんて、ほどほどに案内してもらうくらいですよ。じゃあ私、荷物取りに行ってきますね」
私は部屋に戻った。荷物の整理をし、必要なものだけを鞄に入れて再び一階に戻った。
そこにはルイス君がアイリスさんに見張られて待っていた。
「お待たせしました」
「全然いいよ」
「では案内よろしくお願いします」
「分かったよ。特別に案内してやる」
「何が特別だい。まったく、しっかり案内するんだよ」
私たちはシーリスを後にした。

しおりを挟む