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番外編
素面.1
しおりを挟む嵩原さんと会えなくなってからすでに2週間が過ぎようとしていた。仕事が立て込みに立て込み、お互い忙しくなって会えなかったのだ。
だが、今日は違う。
念願叶ってよくやく休みが被り、会えるようになったのだ。
俺は浮かれた足取りで嵩原さんの家に行く前に本屋に寄った。たしか待っていた新刊が出ていたはず。
店内の目立つところにそれはあり、ほくほくとした気持ちで手に取る。
その場を立ち去ろうとした時、近くで本を物色していた大学生2人組の声が聞こえてきた。
「そういえば、お前彼女とはどうなん」
「いや、あれはハズレだったわ。シてる時あんま反応無くてさ」
昼間の店内で何故そんな話をするんだ?!と内心は思いつつも思わず聞き耳を立てる。
「良くなってんのかわかんねぇの、ほんとうざいわ」
うざい…だと…!!
ぐさりと自分にその言葉が刺さった。
何故かと言えば、いつだかの行為の時に嵩原さんが深くため息をついていたのを気にしているからだ。
大学生はこちらに気付くことなく話を続ける。
「んで、飽きたから振ったんだよね」
う、うわぁああ……と引いた声が出そうになってしまう。
そうか、振られてしまったのかその子は……。
はた、と自分に置き換えて考えてみる。
もしかしたら、嵩原さんは自分との行為に飽きていて、それも俺に原因があって……!!
考え出すと止まらなくなるのが悪い癖なのは自分でも理解しているが、今日ばかりは止まらなかった。
泊まりに行くと言うことはそういう雰囲気になるだろうし、俺もそれを望んでいる、し。
だけども、もし嵩原さんは仕方なく付き合ってるとすれば俺は、俺は……。
がくん、と気分が落ちるのが分かった。
新刊のお会計を済ませる。浮き足立っていた入店の時とは違い、泥に足を取られるかのように店を後にした。
ーーーーーーーーーーーー
「いらっしゃい」
呼び鈴を鳴らし出てきた嵩原さんはなんだか疲れてるように見えた。当たり前だ、働き詰めだったのだからしょうがない。
いつものように荷物をソファ横に置き、その流れでソファに座る。そうすると嵩原さんがコーヒーを持ってきてくれる。
「ありがとうございます」
変わらないはずのいつものルーティーンが少し不安になる。だって、もしもこのいつもの、が飽きを誘発させる一因になっていたらと思うと気が気じゃない。
「ねぇ、芦田さん」
「ひゃい!」
上の空だった意識が引き戻され、変な返事が出てしまった。
「あははは、何緊張してるの」
笑いながら嵩原さんは俺の頬を撫でた。
「キス、したいな。していい?」
まるで子犬のようなお願いに胸を鷲掴みにされる。嵩原さんのお願いをする時の顔はなんだかもう、無い母性がくすぐられるのだ。
「ぅ、ン」
吸い込まれるみたいに口と口をぴたりと合わせる。
人間はどうしてキスのような行為を思い付いたんだろうか、こんなに気持ちよくて満たされる行為が今にいたるまで脈々と続いてきたことに驚くばかりだ。
自然に口と口が離れると、嵩原さんは何とも言えない顔でこちらを見つめていた。
「っはぁ~、芦田さんだあ」
へにゃりと笑う嵩原さんの顔がこちらにも移ってしまう。お互い充電し合うみたいに抱き締めて離れなかった。
「仕事おつかれさまです」
「お互いにね」
その後は他愛のない話をした。仕事の話しはもちろん、近所のネコの話し、コンビニの新作スイーツの話し……。
会えなかった分の時間を埋めるみたいに話した。笑いあったり、時に真剣に話を聞いてくれるのは1人では出来ないことだ。
時間はすぐに過ぎていき、日が傾き夜になった。
カーテンを閉めながら昼間の大学生の話を思い出す。
『飽きたから振った』
握ったカーテンに皺が寄る。
よし、と俺はあることを決意した。
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